『整えて寝る』と『寝て整える』
ハンモックを生業として20余年、これまでオリジナルハンモックの販売を軸にして日本全国津々浦々でハンモックを広げて数多くの寝顔を見てきたと自負している。今回は、そんなハンモックを通して今まで垣間見てきた稀な経験を基に『整う』と『寝る』の関係性について考えてみようと思う。
例えば、美味しい食事やお酒で満足した後、ヨガで身体をリセットした後、サウナで一汗かいた後、人は脱力した身体でハンモックに滑り込み静かに揺られながら時を過ごす。これらは一連の外的要因によって整った身体を寝ることによって仕上げる行為である。
一方、毎年夏に新潟県で開催されるビッグフェス。非日常を体験するため連日数万人が会場となる標高1000mの大自然に集う。不慣れなテント泊、突然の雷雨、泥だらけの会場、一晩中スピーカーから鳴り響く大音量の音楽などで疲れ切った人々が、会場内のハンモックエリアを目指しまるでゾンビのように集まってくる。そしてハンモックに入ったかと思うとすぐに眠りに落ちて行く。これは外的要因で崩れてしまった身体を回復するために寝るという行為である。
このように、ハンモックの網目越しに見えてくる『整えて寝る』ことと『寝て整える』ことは、どちらも身体を休める行為には変わりはないが、前者の満たされて整った状態を増幅させる眠りと、後者の崩れた状態を整える眠りに二分できると思う。いずれにせよ、眠りとは人間にとって必要不可欠で重要な仕事であり、ハンモックはそんな仕事の手助けができる重要なアイテムである。
猛暑のある日、自室のハンモックで揺られながらそんな事象に思いを巡らせていると、愛猫がお腹の上に飛び乗ってきてゴロゴロと喉を鳴らし始めた。愛ででいるうちに急にまぶたが重くなってきた。そう、そういう事なのだ。余計なことを考えるのはやめて、さあ、昼寝でもしよう。
*以前、とあるZINEに寄稿した文章に自ら手直しをして今回noteにて公開しました*
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