ちいさな冒険をして、日常に刺激を。
日常のなかに、未知の世界がある。
新しいことを始めると、新鮮な気持ちになる。
けれども、急激な変化は心身その他いろいろな意味で負担が大きい。
なので、ちいさな冒険をする。
たとえば、いつも飲んでいる飲み物とは違うものを飲んでみたり、コンビニで新商品を買ってみたり。
いつも使っているマイカップを新調してみたり。
いつもの帰り道からすこし外れて違う道を通ってみたり。
休日の散歩コースを変えてみたり。
違う趣味を始めてみたり。
なにかしらの『あたらしいこと』は、日々の繰り返しの中で刺激になる。
大きなしあわせではないかもしれないが、ちょっとした刺激は、心の栄養になる。
僕はノベルゲームを作るにあたって、音楽をテーマにした話だったので、素人なりに調べようとした。
ネットでも調べたが、そういえば、と住んでいる地域に図書館があったことをおもいだした。
昼下がりの町並みは、休日だと時間の流れが違うんじゃないかというくらい穏やかだ。
心持ちが違うから違って見えるのだろうか。晴れた日の日差しは暖かくて気持ちいい。
新築移転していた図書館は、さすがに綺麗だった。
螺旋階段を登っていると、ゲーム脳な思考がファンタジー世界への入り口かのような錯覚を覚える。重症だ。
人口の少ない自治体なので、休日でも割と空いていた。
本棚を見回って、ジャンルからいくつか本を手に取ってみた。
『音楽は人をしあわせにするのか』
なかなか直球なタイトルがある。
悪くない。
席に着きパラパラと流し読みしてみた。
図書館なので当たり前といえばそうなのだが、室内はとても静かだった。
時折、移動に伴う足音や椅子を引く音、
ページをめくる音が聞こえるくらいだった。
興味を引かれたいくつかのタイトルを持ち、受け付けに行く。
二週間借りられるらしい。
レンタルは返すのが面倒なところもあるが、出不精な僕としては、外出する理由ができていいのかもしれないとおもった。
司書の声が癒し系だったことも発見のひとつだった。
せっかく外に出たので、車で山道を走ってすこしドライブしてみることにした。
職場と家の往復で同じ景色ばかり見ていると、単に山道をというだけでも心踊るものがある。
知らない道、あまり通らない道。
キツいカーブを描いた峠を気をつけて進むと、上るにつれて視界が下へと広がる。
深緑の木々が気持ちのいい見晴らしだった。
植樹されたと一目でわかる整然とした杉だ。
田舎の山ですら人工的な匂いがする。
ずいぶん高い場所に自分がいるのだと、当たり前のことに感嘆した。
あまりすれ違う車もない。
トンネルは薄暗くてすこし怖い。
麓まで下りて、あまり知らない村に出た。
僕はけっこう知らない村や町が好きだ。
無人なんじゃないかってくらい、人の気配がない住みか。
ポストアポカリプスのような空気感が、田舎では当たり前のようにある。
そのうち本当に廃村になるようなところもあるだろう。
でも、学校があって、家があって、駅があって。
僕が住んでいる場所と同じように、誰かが毎日生活しているのだとおもうと、なんともいえないエモーショナルな気持ちになる。
僕もSNSにハマるくらいたいがい人恋しいところはあるとおもうが、人気のない人の住む場所は好きだ。
たまの休みに。
ゲーム三昧の合間に。
ほんのすこし、心に刺激を求める一日。
なかなかノベルゲームは完成しない。
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