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消費税研究室

 何かと話題の消費税について、解説をしていきます。私は消費税は優れた税と考えていますが、安易な税率引き上げには反対です。

①消費税=預り金について再確認しよう。

 99%の企業は消費税を仮勘定で処理(税抜経理)しており、実務的にこの事実を疑う人はおりません。預り金でないという説を唱える人は実務を知らない人です。消費税法が消費税を対価の一部としているのは、単に納税義務を消費者から事業者に転換するための仕掛けであり、間接税として当たり前のことです。

 (借)売掛金 110  (貸)売上 100
                               仮受消費税 10

※深堀1(東京地裁平成2年3月26日判決についての解説)

 そもそもこの裁判は、免税制度や簡易課税制度で自分が払った消費税が国庫に入っていないことについて、国に損害賠償を求めたものです。判決は「消費税は対価の一部」として請求を却下した、それだけの話です。今述べたとおり、この規定(消費税法30条)は、消費税の納税義務を消費者から事業者に転換するための仕掛けであり、預り金であるかないかということは言葉遊びのようなものです。裁判官は消費税の仕訳を切ったことがないでしょうから無理もありませんが、誤解を招く判決文を書いたともいえるでしょう。              

②小規模事業者が取引相手に消費税を転嫁できないのというのは被害妄想に過ぎない。

 ①で確認したととおり、消費税は仮勘定で処理しますから企業は支払消費税をコストとみなしておりません。したがって、企業が仕入れ先や下請業者に消費税を支払わないなんてことは、利益の構造からみても考えにくい話です。

 (借)外注費 80 (貸)買掛金 88
    仮払消費税   8

※深堀2(租税負担の転嫁と帰着)

 消費税を転嫁すると、税込価格が上昇するから需要が減ります。例えば小売業者が転嫁前の販売数量を確保するためには、本体価格を下げることになります。したがって100%転嫁出来るとは言えません。

③輸出企業が消費税の還付を受けるのは当然

 輸出業者が国内仕入で支払った消費税を還付しないとどうなりますか?輸出業者は輸出価格に消費税を転嫁してしまい、国外の消費者が日本の消費税を負担することになります。その国外の消費者は、輸入価格に対しその国の消費税を負担しますから、いわば国際的二重課税になってしまいます。

④インボイス制度は免税点制度を存続しつつ益税問題を解決する夢のような仕組みです。

 消費税は消費者から預かったものですから、すべての事業者に消費税の納税義務を課さないと消費者に払い損となる部分がでてきます。しかしながら、現行の免税点制度を撤廃すると、執行機関である国税庁の事務負担は膨大なものとなり現実的ではありません。そこで、適格請求書でなければ仕入税額控除できないということにすれば(インボイス制度)、消費者の払い損はなくなります。

⑤消費税の税率引き上げが歳出拡大を招くばかばかしい構図

 
私は安易な消費税増税に反対の立場です。消費税率を引き上げても、政治家が群がって果実を食い荒らしてしまい財政健全化とは逆の方向に向かうからです。次のコラムをご覧ください。

『10月に消費税率が引き上げられ、その増収効果が生じている中にも関わらず、国債の新規発行額が10年ぶりに増加に転じる可能性があるのが大きな特徴だ。背景には、景気減速による消費税以外の税収悪化があるが、それ以上に重要なのは、消費税率引き上げが歳出拡大を促し、財政環境を一段と悪化させる方向に働いていることだ。
(木内登英のGlobal Economy & Policy Insight『消費増税が歳出拡大を促す構図の2020年度予算案』より)』

⑥ 消費税は企業の国際的活動に中立的
OECDの合意で、法人税の最低税率を15%にすることになりました。法人税は本店所在地主義で課税しますから、海外に子会社を設立し商流を経由することで容易に課税所得を海外に移転することができます。したがって、一国だけ高い税率を設定することは無理です。一方、消費税は国内における取引に課せられ、当然外国法人にも納税義務があります。多国籍企業の国際的活動に影響を及ぼしません。



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