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貼り絵作家「はりトモ」さんが生み出す、ノスタルジックな貼り絵の世界。モチーフを切り抜く技術と記号化で、貼り絵の魅力を引き出す

札幌を拠点に活動している、貼り絵作家はりトモさん。2023年4月に、札幌のザ・ジョンソンストアで「はりトモ コテン」を開催し、作品約200点を展示した(2023年4月8日から16日まで9日間開催)。本記事では、はりトモさんが制作する、貼り絵の魅力について訊いた。

「せなけいこ」さんの色褪せない原画に触れて、貼り絵作家の道へ

「はりトモ」の名前で活動している、貼り絵作家の半田智之さん。彼は人生の大半を、創作活動に捧げてきた。幼稚園から高校まで14年間漫画を描き、大学では同人誌や絵本を作った。

何か創作活動に携わっていきたいという思いで、大学卒業後はデザイン会社に入社した。そこでは、クライアントとデザイナーの橋渡しをする、ラフ画のデザインを手掛けていた。だがその後、家庭の事情でデザイン会社を退職しなければならなくなる。

「いつしか、モノ作りから遠ざかってしまいました。でも何かを作りたいという思いはずっと持っていたんです。」

また物づくりをしたい、そんな思いをくすぶらせていたときに、絵本作家せなけいこさんの原画展が札幌で開催されることを知った。子どもの頃から憧れていた、せなけいこさんの貼り絵を間近で見た。その原画は、記憶の中の絵よりも美しく、色画用紙の発色の良さは色褪せることなく鮮やかだった。

「自分が作りたかったのはこれだ。貼り絵を作ろう。」

直感に導かれるまま、はりトモさんは貼り絵の世界に飛び込んだ。

はりトモさんが生み出す昭和ノスタルジーの世界と、貼り絵の魅力

(喫茶ソワレのゼリーポンチ)

はりトモさんは、「昭和」を感じさせる題材を多く手掛けている。「ドリフターズのヒゲダンス」、「よっちゃんイカ」、「オードリー・ヘップバーン」、「スケバン刑事の麻宮サキ」など。40代、50代の人の記憶の奥底に眠っている、懐かしくて温かい記憶が掘り起こされる。

そして、色画用紙の美しい配色とパーツの精巧さが、見る人の目を奪う。上の作品『喫茶ソワレのゼリーポンチ』は、グラスの質感、受け皿の陶器の質感、スプーンの金属の質感を、複数のパーツを組み合わせて表現している。なるべくリアルに表現したいという気持ちが根底にある。

ちなみに、はりトモさんが使っているのは、細工カッターと呼ばれるものだ。専用の道具を使ったとしても、思い通りに細かいパーツを切り抜くことは難易度が高そうだ。だが、はりトモさんは切ることが楽しいという。

「漫画のペン入れをしてきたことも役立っているのかもしれません。息を止めて一発で主線を描くところと、細工カッターの扱いは似ています。また、前職のデザイン会社では写植の仕事もしていました。細かい文字をカッターで切って糊で貼る作業です。これらの経験が役立ち、はじめから思い通りにパーツを切ることができました。

貼り絵は趣味で始めました。とにかく楽しくて、気が付いたら5時間座りっぱなしで制作していたこともあります。細かい作業が得意だし、色画用紙の発色の美しさにも惹かれています。

あと、貼り絵は、例えて言うなら、オリジナルのプラモデルのようなものです。自分で好きなパーツを作り、組み立てて、世界にひとつしかないプラモデルを作っているような感覚も自分に合っています。」

貼り絵をより実物に近づけるために。「切る」、「貼る」には順番がある

-はりトモさんに、貼り絵の制作工程を図解してもらった。工程は大きく分けて、切る作業と貼る作業の二つに分けることができる。

「奥に見えるものから順番に切る。」
「奥にあるものから順番に貼り付けていく。」

奥なのか手前なのか、わかりづらいものもある。例えば、洋服の皺。
谷折りの皺は、洋服が手前、皺が奥になる。皺と洋服のパーツを切り、洋服のパーツから皺の線を切り抜く。最後に皺のパーツの上に洋服のパーツを貼り合わせる。すると、皺が奥で洋服が手前になる。一方で、山折りの皺は、皺のパーツを切り抜いて洋服の上に貼り、皺が手前にくるように加工する。
皺一つとっても、表現方法が異なる。貼り絵ならではの、奥深くて面白いところだ。

貼り絵で表現できない細かい対象物は記号化

(長嶋茂雄の引退セレモニー)

貼り絵は絵具と異なり、微妙なグラデーションや、細かいものを実物通りに再現することは難しい。例えば、上の『長嶋茂雄の引退セレモニー』を見ると、観客席、電光掲示板の文字、人物の顔など、実物をぼかした部分が多くある。
貼り絵は細かく細工しすぎると汚く見えてしまうので、記号化するのだと、はりトモさんは語る。

「ブロッコリーのように形がぼやけたものや、数字や文字など細かいものは、実物に近づけすぎると汚く見えます。デザイン会社にいたので、商品になる完成度かどうか、プロとアマチュアの作品の違いがわかります。それで、ここで止めたほうが美しいと思える完成の水準まできたら、それ以上は手を加えません。時間をおいて、後日改めて眺めてみて、『ああ、ここまでで終わりにして正しかったんだ』と実感することが多いです。

これ以上手を加えないと決めた部分は、記号化して表現します。どのような記号が合うのかあれこれ考えるのも、貼り絵の面白さです。」

はじめて約3年、目標だった個展を開催

(はりトモ コテン開催の様子。200点の作品が壁一面に飾られている。)

はりトモさんは貼り絵を始めたとき、「3年以内に個展を開く」という目標をたてた。そして、2023年4月に「はりトモ コテン」を開催し、夢を実現した。

「多くの来場者の方や、色々な業種の方が来場してくださいました。イラストレーター、カメラマン、地元ラジオ局のパーソナリティーの方も見に来られました。

みなさんから、『懐かしい』、『絵かと思うほど精巧にできている』、『これは世に出すべきだ』といった感想をいただきました。その言葉で自信がつき、もっと世の中に貼り絵を広めたいという、新たな目標もできました。

最近では、自分のお店を貼り絵にしてほしいという依頼や、ペットや遺影を貼り絵にしてほしいという依頼が増えています。趣味で始めた貼り絵が、徐々にプロの仕事へと変化する手応えを感じています。」

今後は東京での個展も企画しているという。より多くの人に、はりトモさんの貼り絵の魅力が伝わるのも、そう遠い日ではなさそうだ。

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プロフィール
1973年生まれ、石狩市出身。広告制作プロダクション、印刷会社勤務を経て、2020年より「はりトモ」の名で貼り絵作家として活動を開始。2023年4月札幌市中央区のザ・ジョンソンストアにて「はりトモコテン」開催。また同年5月、ザ・ジョンソンストアにてワークショップも開催。
Instagramにて作品公開中。

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