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記事一覧

【短編】シーシャ

シーシャ 池袋駅を立教大学方面にくぐり抜ける。C出口の長い通路をC9、C8、C7…と通り過ぎていく。QBハウスでつきあたって、C3出口から外に出る。もう暗い。肌寒い。

 歩道に沿って少し歩いて、白い壁の白い扉で立ち止まる。ノブを引く。中にくぐると、甘い煙たさがむわりと立ち込めた。この扉はいやに重くて放っておくと閉まりきらない。力を込めて引き直す。ドスン、と閉まった。縦長の隙間が、ぷつり、と消えた

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「本当にあったこと」

映画美学校ことばの学校コースの課題です。内容は、「『本当にあったこと』という題の本の冒頭部分を書くこと。2000〜4000字」というもの。大学のレジュメ作成に追われる中〆切20分前に提出しました。粗はあるかもしれないけれど、僕が言葉を使って表現したいものはこういう路線なのかなと思ってみたりもしていて、個人的には意味のある課題となりました。
以下本文。

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本当にあったこと

はじめに

 

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【短編】スー、ハー

春に書いた短編です。当時人に見せたらこぞって不評で落ち込んでいたのですが、久しぶりに読み返してみたら普通に面白かったのでnoteにも載せることにしました。この世の誰かひとりにでも刺さってくれば嬉しいのですが。

スー、ハー【2017年7月19日17時32分34秒】
 俺彼女できたわw
 谷島からのLINEを見て、僕は息をつまらせた。サッカークラブを早々にやめたとき、クラスで二人だけの補習に呼ばれた

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がっくりドンキー

映画美学校の課題で書いた短編小説です。条件は以下の通り。

・コロナ という単語を二回以上使う
・800~1000字
・ジャンル問わず

字数調節に苦労しました。感想待ってます。

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がっくりドンキー また新店舗だ。しかも「がっくり」? 最近は暗い店ばかりで気が滅入ってしまう。他の店舗を検索する。徒歩圏内には「切なさ」と「おののき」しかない。明日はY子がコロナにかかって以来のデートだ。早く

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哲学対話テクスト

 ボランティアで哲学対話を開催しました。議論のきっかけのためにテクストを作ったので、せっかくですしnoteに載せます。小学生用。

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私 … 小学六年生の主人公。アニメはあまり見ない。
ガンちゃん … デカくて強い。鬼滅が好き。
ユウキ … ガンちゃんの子分。鬼滅が好き。
ヒメ … ガンちゃんたちと仲良い女の子。鬼滅が好き。
ハカセ … 賢いが弱い。呪術が好き。
鬼滅 … 鬼と

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【短編】下り列車

下り列車 階段を上がると、ちょうど車両のドアが開くところだった。10分発の急行だった。白に黒にくすんだ淡色、雑然とした色相がいっしょくたになって車内に吸い込まれていく。やがて車内は満員になった。待機列には女子大生一人だけ残っていた。足の疲れに染みる香水。今日はさすがに歩きすぎた。
 左手首に目をやる。モンディーンの針は22時8分を指していた。箱詰めの雑踏に顔をしかめつつ、さてどうしたものかと電光掲

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試験

 気づけば席についていた。心地よい教室だった。心地よさのため、席を立つという発想すらなかった。時に不愉快な気分になることもあるものの、いつも何かに夢中になっていて、目の前の紙切れ一枚の存在には気づくこともできなかった。紙の上段には一行の明朝体が印字されていた。

問 あなたはなぜこの試験を受けているのか。

 その問題用紙が初めて視界に入ったのは、だんだんと座っているのが退屈になってきて、痺れた尻

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根暗オタク東大生、生まれて初めて服を買う

根暗オタク東大生、生まれて初めて服を買う

 鬼は外〜!
 福は内〜!
 服は親が買ってきたやつしか持ってない僕も家(うち)〜!

 …ということで、コロナ自粛の前から続くルーチンは両親の買ってきた服以外持ってないことを言い訳に子供部屋に引きこもっての自己陶酔、人呼んで〝根暗界の小島瑠璃子〟こと ろじん です。ご機嫌いかが。こちらは上々でございます。
 え?いつも鬱々と自己憐憫に浸ってばかりの僕がなぜ上機嫌かって?ふふ。それは今日が祝福すべ

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