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【短編】枝

道を歩いている
真っ直ぐに伸びる道が、視界にずっと映っている
道は、真っ直ぐに伸びてはいるが、足元はぬかるんでいる
靴の底にまとわりつく泥の感触を感じながら、ただ歩いていく
道は、真っ直ぐにしか伸びていないから
真っ直ぐに進むしかないのだ
という自分の心の声を聞きながら、ただ、歩いていく
しばらくすると、道の脇に大きく枝を横に張った木が見えてきた
その木の脇を通ろうとすると
ちょうど、目の前あたりに一本の木の枝が、まるで通せんぼをするように、私のいくてを遮るように伸びている
どうしたものだろう
と、私は思った
屈んで通るということもできるが、それもなんだかシャクだという風に私は感じていた
私は、ふと思い出して、鞄の中を探った
鞄の中をさぐる私の手に目当てのものを探し当てた感触があった
そして、私は 、鞄の中から一本の小型のナイフを取り出した
そして、そのナイフで、目の前の木の枝を切り取った
そして、その木の枝を私は持ち、また、歩き始めた
私は歩きながら、手に持った木の枝を振ってみた
木の枝が、空気を切る音が聞こえる
私は、その音が気に入ったのか、はたまた、その音が気になったからなのか、歩きながら何度も何度も、木の枝を振っては、空を切る音を聴き、木の枝が空を切る感触を感じた
そんな風にして、真っ直ぐに伸びる道を、ただ 歩いていると、道の向こう側から男の子が歩いてきた
相変わらず、私は、さっき切り取った木の枝を振りながら歩いていた
それを男の子は、みていたのか、または、みていなかったのかはわからないが、男の子は、私に近づくと
「その枝は、とてもかっこいいね」
と言った
「欲しいのかい?」
と、私は、男の子に聞いた
すると、男の子は、目を輝かせた
私は、木の枝を切り取ってしまって、なんとなく
持っていただけなので、男の子に木の枝をあげてしまっても特に問題も感じないし、捨てる手間が省けたと思ったので、男の子にその木の枝をあげた
男の子は、嬉しそうに、その木の枝を受け取ると
さっき、私がやったように木の枝をブンブンと振った
「わー。この木の枝はいいや
とてもいい音がするよ」
と言って、男の子は、ひどく喜んだ
その男の子の笑顔をみて、私はとてもいい事をしたように感じていた
そして、男の子は、代わりにこれをあげるよと言って、ポケットから取り出した小石をくれた
そして、その小石を手に握って振ってみてと言った
私は、男の子のいうとおりに、その小石を握って 振ってみた
すると、この小石から、とても澄んだ鈴の音のような心地いい音が聞こえてきた
「いい音でしょ」
と、男の子は、誇らしそうに胸を張って言った
「ああ、とてもいい音だ」
と、私が答えると、男の子の満開の笑顔が、私の目に眩しく映った
そして、私は、その名も知らない男の子と別れた 
そして、あの時に名前を聞くこともなかった男の子からもらった不思議な音のする小石は、私のポケットの中に今でも入っていて、私が動くたびに 時折、その澄んだ音を聞かせてくれている

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