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【短編】カメの長老

のそのそと猫ぐらいの大きさの亀が歩いているのが見える 
なんで?
と、僕は、自分に問いかけた
もちろん、問いかけたところで答えはわからない
街の住宅街の道路の真ん中を悠々と真昼間に亀が
のそのそと歩いていたら、誰でも僕と同じ反応をするだろう
どこかの家で飼っていたペットが逃げ出したのだろうか?
と、思ってもみたりして、なんとか自分を納得させようと思ったが無理だった
僕が、戸惑いながら亀に近づくとふいに亀が話しかけて来た
「もしもし、そこのお人、ここらへんに、にながわさんというお宅があると思うんですが、ご存知ないですか?」
僕は、急に亀に話しかけられて、驚きを隠せなかった
僕が、驚いたのには、二つの理由があった
亀が、人間の言葉を話せるのか、もしくは、僕が 亀の言葉を話せるのか、亀と意思の疎通ができている驚きともう一つ 
ここらへんで、にながわといえば、僕の小学校以来の友達のことに違いがなかったからだ
甲羅から、にゅっとクビを突き出して、亀は、僕の顔を真っ直ぐに見て、僕の返答を待っていた
その何も疑うことのない真っ直ぐな瞳に見つめられていると、知らないといって逃げるという選択はない気がした
「ここらへんで、にながわといえば、僕の友達の家のことだと思います
よかったら、僕が案内しますよ」
と、僕は、いってしまっていた
その僕の返答を聞くと、亀は、なんとも嬉しそうな顔で笑った
僕は、その亀の嬉しそうな顔を見て、なんだか あったかい気持ちになった
にながわの家は、すぐそこだったけれど、この亀の歩みでは、いつまでも辿り着けそうにないと判断した僕は、亀に断って、亀を抱き抱えて、にながわの家に向かった
すぐに、にながわの住むアパートが見えてきた
にながわの住む 部屋のインターフォンを押すと ピンポーン
という音が聞こえて、そして、インターフォンごしから、にながわの声が聞こえてきた
「お前に用事があるって人を連れて来たんだけど」
と、僕は言ってから
人ではなかったか
と、僕は苦笑いをした
「え?あ ちよつと待ってて」
と、かなり慌てた、にながわの声が聞こえてインターフォンは切れた
アポなしだったから、取り込み中だったのかな?
と、僕は、少し罪悪感を感じた
かなり時間がかかって、ガチャっと玄関の扉が開いた
明らかに、かなり慌てた感じがする、にながわが 僕の目の前に現れた
「アポなしで、いきなりきて悪かったな
彼女でも来てるの?」
と、僕が聞くと、にながわは、少し目を泳がせながら
「彼女なんて、いないよ
なんでもないよ
とりあえず、あがれよ」
と、なんでもなさそうには見えない顔でいった
僕も人間の言葉をしゃべる亀を小脇に抱えている状況なので、なるべく、ひとめにつきたくないので、にながわのその言葉に甘えることにして、にながわの部屋に上がった
かなり、にながわは動揺を感じているのか、僕が小脇に抱えている亀の存在は目に入っていないようだった
「コーヒーでいい?」
というと、にながわは、そそくさとキッチンに行ってしまった
取り込み中ではないと、にながわは言ったが、テーブルの上には、パーティー開けしたポテトチップスとかお菓子が何個か置いてある
やはり、誰か来ていたような気がしてならなかった
「で、用事がある人って?
誰もいないじゃないか」
と、やっと、少し落ち着きを取り戻したにながわが、コーヒーのカップを持って部屋に戻ってくるなり聞いて来た
「いや、人というのは間違いだった
お前に用事のあるというのはこの亀なんだ」
と、僕が言うと、僕の膝下にちょこんと座っている亀を見て、にながわは、初めて亀の存在に気づき、そして、驚きを感じたようで、目をまんまるくさせている
一瞬、僕らの間に沈黙が訪れた
そして、次の瞬間、その沈黙が突然破られた
隣の部屋から物音がして、ガチャとドアが開いた音が聞こえたかと思うと
「長老だ」
という声とともに、どどどと、ぼくの目の前にリスときつねとクマが躍り出て来た
僕は、何が起こったのかわからなくて、動揺を感じて、ただただ、目の前に突然現れた動物たちを マジマジと見つめた
そして、次に、にながわの顔をみた
にながわのものすごく罰の悪そうな顔が目に入った
「出てくるなって言ったのに
バレちゃったら、しょうがないなあ」
という、にながわの声が聞こえる
そして、状況がよく飲み込めない僕を見つめながら、にながわは、色々と白状した
ある日、串団子やを見つけて、うまそうだったから営業先に差し入れしようと自分の分も含めて買ったこと
そして、公園で、その串団子を食べようとしたら このリスとキツネとクマが、食べさせて欲しいと 言ってきて、一緒に食べたこと
それから、数回、一緒にメロンパンを食べたり、コインランドリーでジュースを飲んだことを話した
そして、今日は、日曜で部屋でまったりしてたら チャイムが鳴って、出てみたら、リスとキツネと クマがいて、にこにこ笑ってるから追い返すのもあれだし、暇にしてたから家にあげてお菓子を一緒に食べてたところだと、にながわは言った
そのにながわの話を聴きながら、
うんうん
と、嬉しそうにリスとキツネとクマは、うなづいているのが僕にはなんだか滑稽に見えた
「わしは、この者たちに呼ばれてやってきたのだ」
と、不意に亀が口をきいた
「あ、その方は、うちの森の長老なんです」
と、リスが言った
あーそういうわけで、この亀は、にながわの家を 探していたのか
と、僕は思った
「にしても、水臭いな
なんで、今まで、話してくれなったんだよ」
と、僕が言うと
「言っても信じてもらえないかもしれないし、何となく言いづらくてさあ」
と、にながわが言った
たしかに、僕が、逆の立場だったら、同じように 感じるかもしれない
と、僕は思った
そして、黙々と嬉しそうにポテトチップスを食べているリスとキツネとクマと亀をみながら、僕は 思いついた
「どうせなら、皆んなにカミングアウトしちゃおうぜ
とりあえず、こういう状況を面白がるやつがいるだろ」
と、僕がいうと、にながわがニヤリと笑って
「高橋か?」
と言った
そして、僕は、スマホを取り出して高橋に電話をした
すぐに高橋は、電話にでた
僕は、高橋を驚かせてやろうと詳しいことは何も話さずに、にながわの家にいるからこないかと誘った
それを聞いた高橋は、暇にしていたようで、二つ返事で快諾した
そんな電話のやりとりをしている時に
「そういえば、こないだ森にチラシが空から飛んできて、そこに苺大福って、美味しそうな食べ物が載っていたのですけど、あれは、どう言うものですか?」
と、リスが、にながわに聞いているのが聞こえた
そこで、僕は、面白くなってきて、髙橋に
「とりあえず、にながわの家に来る前に苺大福を
20個ばかり買って持ってきてくれ」
と言った
髙橋は、よくわからないという風だったが 
「苺大福、買ってけばいいんだな」
といって電話を切った
僕が、髙橋に苺大福を買ってこい
と言ったのを聞き逃さなかったリスとキツネとクマは、期待をいっぱい含んだキラキラした目で僕のことを見ていた
ああ、なんだか、にながわが、この動物たちをつい受け入れてしまう気持ちがわかるような気がする 
と、僕は思った
そして、僕とにながわは、高橋が、この状況に どんなリアクションをするのか、ワクワクしながら、高橋の到着を今か今かと待った

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