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【短編】赤いゴムボール

コロコロと背後で音がしたので、私は、振り返った
私の足元に赤いゴムボールが転がってきたのが見える
昼下がり、公園で本を読んでいた私は、本を閉じて赤いゴムボールを拾った
そして、赤いゴムボールの持ち主を探した
でも、転がってきた赤いゴムボールを追ってやってくる人影は確認できなかった
なぜ転がってきたのだろう?
と、私は、不思議に思った
そして、なんとなくジッとその赤いゴムボール見つめた
すると、ふいに 
「それ、僕のなんだ」
という声が耳に飛び込んできて、私は、心底びっくりした
私は、おっかなびっくり振り返ると、そこには 坊主頭の小さな男の子が立っていた
男の子が、人なっこい顔で、ニコニコしているので、私はホッとして、つられて、男の子に笑顔を返した
そして、私は、男の子に赤いゴムボールを返そうとした
すると
「お姉さん、一緒に遊んでよ
一人だとつまらないから」
と、男の子は、私の目を真っ直ぐに見て言った
私は、少しの戸惑いを感じた
そして、この男の子の保護者はどうしてるんだろう
とも思ったが、そう思ったのは一瞬だけで、なんなく、そんなことはどうでもいいように感じて
すぐに忘れてしまった
私は、赤いゴムボールをコロコロと男の子の方に 転がすように投げた
男の子は、それをとると、嬉しそうに私に向かって投げた
私は、男の子の投げたボールを受け取ると、また 転がすように男の子に向かって投げた
私と男の子は、無言で、でも、微笑みあいながら 赤いゴムボールを投げあった
そんなやりとりをして、私の体がポカポカと温まってきたのを感じた頃
「僕、もういかなきゃ」
と、私が後ろにそれた赤いゴムボールを拾おうとしている背中に男の子の声が聞こえた
私が、はっと振り返った時にはもう、男の子の姿は、どこにも見えなかった
私は、赤いゴムボールを手に男の子の姿を探したが、気配すら感じることはできなかった
赤いゴムボールを手に、これをどうしよう、というか、あの子は、どこに消えたんだろう
小さな男の子が、すぐに、そんなに遠くに行けるわけがない
それに、男の子が立ち去る足音すら聞こえなかった
と、私が、ぐるぐると考えながら、周りをキョロキョロと見回していると、ふと、植え込みの片隅に小さなお地蔵さんがいるのが見えた
この公園は、よく利用しているのに、こんなお地蔵さんがいることなんて知りもしなかった
赤いゴムボールを片手にお地蔵さんを見ていると 
なんとなく、さっき、突然現れて、突然消えたあの男の子の顔に似ている気がした
もしかして?
と、私が思って、お地蔵さんを見つめていると
私の頭の中で 
ありがとう
という声が聞こえた気がした
そして、私は、お地蔵さんの足元に赤いゴムボールを置いて
「またね」
と、心の中で言って家路についた

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