シェアハウス・ロック0925

『潮来笠』が脳内で鳴り響く

 皆さんは、頭のなかでなにかの音楽が鳴り響くということがないだろうか。私にはある。正確にはあった。特に激しかったのは、40~50代であった。
 朝起きて比較的すぐに、それは鳴り始める。何回も何回も、「連続再生」のように鳴る。追い出そうとしても無駄。一度鳴ると、おおむね、午前中いっぱいくらい鳴っている。もちろん毎日ではないので、それが若干の救いだった。
 自分の好きな音楽が鳴ることはない。自分の好きな音楽が鳴るんだったら、大歓迎である。再生機もなしに好きな音楽が聴けることになる。でも、一、二度聞いたに過ぎない、しかも好きでもなんでもない『潮来笠』『美しい十代』『高校三年生』なんかが主なレパートリーである。ああ、前奏も伴奏もついている。
 対処法はただひとつ、その歌を自分で歌ってしまうことである。毒をもって毒を制す。これをやると、「連続再生」の回数は激減する。数回で収まることすらある。
 問題はある。たとえ小声で歌っても、声は出ているわけだから、近くの人には聞こえてしまう。「黙読」も試してみたが、「黙読」だと効果がない。頭のなかの音と呼応する感じになるだけである。で、小さくとも、声は出さねばならない。
『潮来笠』のときはまだいい。単に、「ヘンなおじさん」である。『美しい十代』『高校三年生』だと、「ヘンなおじさん」を通り越して、だいぶ「アブナイおじさん」に近くなる。  
 当時、友人、知人等、様々な人に相談したが、「そんなのおまえだけだ」とニベもない。
 ところが、『週刊新潮』(9.26号)の「掲示板」という欄で、真梨幸子という方が次のように書いていた。

 私にはもう長いこと頭から離れないフレーズがあるのです。それは「抱きしめてやる、甘く強く」という歌詞です。昭和50年代のロックだと思います。

 この歌も、『潮来笠』『美しい十代』『高校三年生』同様、相当くだらない感じがするなあ(笑)。くだらないのが流れるんだな。
 真梨幸子さんは、「イヤミス作家」なのだが(なんだろう、イヤミスって)、「この現象」を「イヤーワーム」と呼んでいた。「銀座NОW!」で一回聞いたきりともおっしゃっているので、私に起こっていた現象に近い。まあ、名前がついているということは、そこそこの人には起こっているんだろう。友人、知人等が冷たく突き放したように、私だけに起こる現象ではなかったわけだ。ちょっと安心した。
 50代に入り、母を送り、自宅介護が終了したあたりでこの現象はパタッと収まった。
 収まってよかったよ。いま『美しい十代』を歌いながら歩いていたら、要保護の徘徊老人みたいになってしまう。

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