【小説風】奇跡と悲劇の四千頭身ステージ
四千頭身新春ステージ4時の部。
ここでは、一つの奇跡と一つの悲劇がありました。
それを、心情を中心にした小説風でお送りしていきます。
運が味方して起こった奇跡
2時の部が終わり、出待ちをして見送った後、即座に4時の部に向けての準備に取り掛かる。
しかし、どこから列が始まるのかわからない。
入り口は反対側。
「まずい、大幅に遅れを取ってしまう!?」
急いで反対側を回ろうとすると、辺りは突然騒然とした様相を呈する。
観客の大移動が始まったのだ。
ある男の指示によって。
そう、スタッフだ。
問題はそこではない。
列の場所だ。
「どこが先頭だ!?くっ、わからないっ!!」
戸惑う俺。しかし、通路は狭く、身動きは取れない。
「せっかくここまで待ったのに、これまでかっ!?」
そんな状況を一変させる光景が目の前に広がる。
入り口側に並んでいた人の波が、自分たちの後ろへと移動し並んでいた。
そう、自分たちがいた場所は、計らずしも先頭集団だったのだ。
「こ、これは・・・奇跡!?」
事態を飲み込むまでの数秒、喜んでいいのかわからずにいたが、どうやら今日は運が味方についているようだった。
いよいよ開場し、順番に席を選ぶ。当然最前列中央から埋まっていき、自分たちの番が迫る。
「この感じなら、うまくいけば三列目に4人で座れそうだ!」
その願いは、見事に聞き入られる。
全力で喜びと幸せを表現してくれる姪っ子の穂香。その笑顔を前に、運転する労力も、かかるお金も、待つ時間も、全て報われるどころかお釣りが返ってくるほどだ。
あとは目的である三人の出番を待つばかりだ。
時は迫り、俺好みのぽっちゃりながらボディラインが際立つニットのセーターを纏った司会の女性が、彼らの登場を告げる。
吹き抜けの二階までびっしり埋まった観客は沸き立ち、万雷の拍手の中、三人の男がステージに降り立つ。
四千頭身だ。
第7世代の若手とはいえ、その実力は折り紙つきだ。観客いじりをしながら、四千頭身空間を作り上げていく。
ショートネタを挟んで笑いを生み出しながら、観客いじりへと移行する。
すると、2時の部にはしていなかった、観客をステージに上げていじるネタを始めたではないか。体に触れるネタの為、姪っ子の穂香は選ばれそうにない。ならばと、俺が手を挙げたが、当たることはなかった。もう一度のチャンスも、子供たちが選ばれ、ステージに上がることはできなかった。
続いて、観客からお題をもらうネタへ。穂香には、あらかじめネタを仕込んでいた。中々当たらないが、先に当たったとある少年がまさかのお題を出す。
そう、穂香に仕込んだのと同じものだった。言い方は全然違ったが。
案の定、そこでは一笑い起きた。でも、穂香が当たっていて答えたら、もっと盛り上がったに違いない。
その少年の親と同じセンスだったことが悔やまれたが、先出しされちゃ仕方ない。
気がつけば、この時から風向きは変わっていたのかもしれない。
最後は、サイン色紙を掛けたじゃんけん大会だ。こちらは4人。誰かが勝てればいい。そう作戦を立てていたが、急遽じゃんけん大会ではなく、クイズ大会に変更となる。
作戦は脆くも崩壊する。
ただ、誰でもわかりそうなクイズだったおかげで、誰にでもチャンスはある。
そのチャンスが、やってきたのだ。
「昨日私が食べた晩御飯はなーんだ?」
数打ちゃ当たる!
とにかく手を挙げ、あとは運次第だ。
当然すぐには当たらない。ダメ元で手を挙げていたら、四千頭身の都築さんと目が合う。なんと当ててもらえたのだ。
「ピザ!」
「みかん?違います!」
「いや、みかんはご飯じゃないでしょ?」
後藤さんがぼそっとツッコむ。
まだチャンスはある。
「ピザです!ピザ!」
「ピザ?違いまーす!」
違った。
間違えた。
誤ってしまった。
せっかくのチャンスをモノにすることはできなかった。そのクイズの答えは「お寿司」。ベタベタな答えだった故に、答えられなかったことが悔やまれる。
「せっかくのチャンスだったのに・・・こめん。」
意気消沈して穂香に謝るが、穂香は微塵も機にする様子はなく、むしろ嬉しそうにしている。なぜなら、まだチャンスはあるからだ。
しかし、当たらないまま最後の問題を迎えてしまう。
後藤さんからの問題。
「俺が一番仲良くしているジャニーズは誰でしょう?」
正真正銘のラストチャンス。
穂香は一生懸命手を挙げる。そして、中々正解は出ない。すると、
「はい!はい!!はい!!!」
と恥を忍んで大声でアピールする。
確かに、ステージからは見えていたはず。しかし、非情にもその視線は穂香を通り過ぎ、別の人に。その人が答えて、クイズ大会も終焉を迎えた。
答えが合っていただけに、余計に悔やまれる。
答えがわかっているのに当てられなかった穂香。当てずっぽうだったけど当てたれた俺。何かが違えば、運命は変わっていたかもしれない。しかし、運命のねじれは、喜びからは一転、悲劇をもたらした。
人は、欲望が深い生き物だ。四千頭身が見れるだけでも良かったのが、もっと近くで見たい。前列で見たい。当てられたい、サイン色紙を貰いたい。
当てられても間違え、わかっていても当てられない。それを悲劇に感じることもある。しかし、運良く前列に並べて、三列目で見れたという奇跡があったからこそ、欲張ることになってしまった。
本来なら、起こるはずもなかった悲劇。そう考えれば、奇跡が起こるのも考えものだ。それでも、既に願いは叶っていたのだ。そのことを忘れることこそが、悲劇なんだろう。
ステージに上がることは出来ず、お題を出すこともできず、サイン色紙をもらうこともできなかった。それでも、そもそも行けるとも思っておらず、自分が思っていたよりも満足な時間が過ごせた穂香は、清々しい満面の笑顔で言った。
「連れてきてくれて、ありがとう」
その素直で可愛い笑顔に、尚更サイン色紙を取れなかったのが悔やまれたけど、それはわがままというものだ。望みすぎるから悲劇にもなる。既に十分過ぎる幸せを手に入れているのに。それに必要以上に望んでしまうから、争いはなくならないんだろう。
今手にしているもので、きっと十分幸せになれるんだ。それ以上を求めるから、バランスを崩してしまうんだろう。
何より、大切な穂香との時間を過ごせたこと、喜んでくれたその笑顔が、一番の奇跡なんだから。
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