見出し画像

「ファウチ氏が『ワクチンが有害だったのは初めてではない』と発言」はミスリード 新型コロナとは別の過去のワクチンへの言及

検証対象

ファウチ氏
「初期の安全性は良さそう見えたワクチンが実際は人にとって有害だったというのは初めてではないでしょう」
「ワクチンの1つは、実際には、人を感染しやすくしていました」
(※動画付き投稿、原文ママ)

一般ユーザーのTwitter投稿(2021年12月14日、約750RT)

判定

ミスリード 判定の基準について

この発言は2020年3月、まだ新型コロナウイルスワクチンが開発中の時期に行われたもの。「有害だった」「感染しやすくしていた」というのは過去の別のワクチンの事例である。

ファクトチェック

検証対象ツイートの内容

動画内で発言しているアンソニー・ファウチ氏は、現在アメリカで大統領首席医療顧問を務める新型コロナウイルス対策のキーパーソンである。

ツイートの文章を見ると、一見ファウチ氏が新型コロナワクチンの欠陥を認めたように受け取れる。しかし、動画に表示される日本語字幕では、「このことが起こっていたとしたら」「数年前に我々がテストした」というような言葉もある。これらは何を意味しているのか、詳しく見てみよう。

発言は別のワクチンについてのもの

この動画は2020年3月、ファウチ氏がフェイスブック(現メタ)CEOのマーク・ザッカーバーグ氏のインタビューを受けた時のもの。アメリカなど各国で新型コロナのワクチン接種が始まったのは同年12月で、当時ワクチンはまだ開発中の段階だった(参照:2020年のワクチン開発・接種の状況)。

問題の発言の直前では、ザッカーバーグ氏が「ワクチンが安全だと分かった段階で、たとえ効果が確実でなくても積極的に量産しないのはなぜか」という趣旨の質問をしている。これに対しファウチ氏は、「副反応のことなどワクチン自体の安全性を確認したとしても、ワクチンが接種後の感染をかえって悪化させないか確かめる必要がある。それには実際に感染リスクのある市中の人でのさらなる治験が必要だ(要約)」と述べ、次のように続けている。

This would not be the first time, if it happened, that a vaccine that looked good in initial safety actually made people worse. There was the history of the respiratory syncytial virus vaccine in children which, paradoxically, made the children worse. One of the HIV vaccines that we tested several years ago actually made individuals more likely to get infected.
So, you can’t just go out there and give it unless you feel that, in the field, when someone is getting infected and exposed, being vaccinated doesn’t make them worse. That’s why you’ve got to do a trial.
【※筆者訳:初期の安全性は良さそうに見えたワクチンが実際は人をより悪化させるというのは、もしそれが起きるとして、初めてではありません。RSウイルスワクチンの子供への接種が、逆に子供をより悪化させたという歴史があります。数年前に我々がテストしたHIVワクチンの1つは、実際には人を感染しやすくさせていました。
なので、感染したりウイルスに晒されたりした時に接種のせいで余計悪くなることは無いと現場で分かるまでは、市中に展開し接種を進めるというのはできません。これが治験を行わなければいけない理由です。】

つまり、ファウチ氏が「より悪化させた」「感染しやすくさせていた」と言っているのは、新型コロナではない過去の別のワクチンの事例である。「もしそれが起きるとして」とあるように、当時そもそもまだ開発中だった新型コロナワクチンにおいては、これはあくまで仮定の話でしかない。

ワクチン接種によってかえってウイルスへの感染率や症状が悪化するという現象は、過去にRSウイルスワクチンなどで確認されているほか(参照:日本感染症学会提言p.10~11)、2007年にはHIVワクチンの治験でも報告されている。このHIVワクチンの開発に出資していたのはアメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)で、ファウチ氏は当時から現在に至るまでその所長を務めている。

これらの反省を踏まえて、今回の新型コロナワクチン開発ではより慎重な治験が必要というのがファウチ氏の発言の趣旨だ。

検証対象ツイートの文言は実際の発言の部分的な抜粋であり、「ファウチ氏が新型コロナワクチンの欠陥を認めた」という誤った解釈も直接述べられているわけではない。しかし、時系列や文脈の説明の不足により、結果的に誤解を与える可能性が大きくなっているため「ミスリード」と判定した。

海外のファクトチェック記事

同様の動画は海外でも拡散されている。Twitterではこうした投稿に対し、動画が文脈と合っていないという警告ラベルと、AP通信などによるファクトチェック記事を紹介する公式モーメントへのリンクが表示されるようになっている。

Twitterの警告ラベル表示(赤枠部分)

(大谷友也)

謝辞

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

情報検証JPのファクトチェック方針はこちらです。気になるところがありましたら、遠慮なくコメントください。

現在、新たなファクトチェックメディアの立ち上げに向けた準備を進めています。この記事を読んでよかった、役に立ったと思われた方は、ぜひシェアやサポートをしていただければ幸いです。