「ファウチ氏が『ワクチンが有害だったのは初めてではない』と発言」はミスリード 新型コロナとは別の過去のワクチンへの言及
検証対象
判定
ミスリード (判定の基準について)
この発言は2020年3月、まだ新型コロナウイルスワクチンが開発中の時期に行われたもの。「有害だった」「感染しやすくしていた」というのは過去の別のワクチンの事例である。
ファクトチェック
検証対象ツイートの内容
動画内で発言しているアンソニー・ファウチ氏は、現在アメリカで大統領首席医療顧問を務める新型コロナウイルス対策のキーパーソンである。
ツイートの文章を見ると、一見ファウチ氏が新型コロナワクチンの欠陥を認めたように受け取れる。しかし、動画に表示される日本語字幕では、「このことが起こっていたとしたら」「数年前に我々がテストした」というような言葉もある。これらは何を意味しているのか、詳しく見てみよう。
発言は別のワクチンについてのもの
この動画は2020年3月、ファウチ氏がフェイスブック(現メタ)CEOのマーク・ザッカーバーグ氏のインタビューを受けた時のもの。アメリカなど各国で新型コロナのワクチン接種が始まったのは同年12月で、当時ワクチンはまだ開発中の段階だった(参照:2020年のワクチン開発・接種の状況)。
問題の発言の直前では、ザッカーバーグ氏が「ワクチンが安全だと分かった段階で、たとえ効果が確実でなくても積極的に量産しないのはなぜか」という趣旨の質問をしている。これに対しファウチ氏は、「副反応のことなどワクチン自体の安全性を確認したとしても、ワクチンが接種後の感染をかえって悪化させないか確かめる必要がある。それには実際に感染リスクのある市中の人でのさらなる治験が必要だ(要約)」と述べ、次のように続けている。
つまり、ファウチ氏が「より悪化させた」「感染しやすくさせていた」と言っているのは、新型コロナではない過去の別のワクチンの事例である。「もしそれが起きるとして」とあるように、当時そもそもまだ開発中だった新型コロナワクチンにおいては、これはあくまで仮定の話でしかない。
ワクチン接種によってかえってウイルスへの感染率や症状が悪化するという現象は、過去にRSウイルスワクチンなどで確認されているほか(参照:日本感染症学会提言p.10~11)、2007年にはHIVワクチンの治験でも報告されている。このHIVワクチンの開発に出資していたのはアメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)で、ファウチ氏は当時から現在に至るまでその所長を務めている。
これらの反省を踏まえて、今回の新型コロナワクチン開発ではより慎重な治験が必要というのがファウチ氏の発言の趣旨だ。
検証対象ツイートの文言は実際の発言の部分的な抜粋であり、「ファウチ氏が新型コロナワクチンの欠陥を認めた」という誤った解釈も直接述べられているわけではない。しかし、時系列や文脈の説明の不足により、結果的に誤解を与える可能性が大きくなっているため「ミスリード」と判定した。
海外のファクトチェック記事
同様の動画は海外でも拡散されている。Twitterではこうした投稿に対し、動画が文脈と合っていないという警告ラベルと、AP通信などによるファクトチェック記事を紹介する公式モーメントへのリンクが表示されるようになっている。
(大谷友也)
謝辞
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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