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猫舌幽霊

うちの母方のおばあちゃんは、ヤバいおばあちゃんだった。どうヤバいかというと、『自分には神仏が降りてくる』と信じてる方向のヤバさだった。

私が二十歳の頃、ある日おばあちゃんは突然こう言った。「お不動様が、宝くじを買いなさいと言うてはる!」

私は(またおばあちゃんの妄想が始まったぞ・・・)と思ったのだったが、万一ということもあり得る。もしかしたら本当に宝くじを買ったら当たる・・・・そんなこともあるのかもしれない。そう思って私はおばあちゃんの言う通り、宝くじを数枚買ってきた。

後日、当選結果を確認したらハズレだった。数字はかすってもいなかった。


おばあちゃんの霊感は当たらない。

おばあちゃんは自身の願望を「神仏の御言葉」だと家族に言う。おばあちゃん本人は本気でそう思っているのか、嘘だと自覚しているのか、もしくはその両方か。

おそらくその時は「宝くじが当たると良いなー!」と思ったのだろう。それなら「宝くじが欲しいから買ってきて!」と言えばいいのに、「お不動様が宝くじを買いなさいと言っている」などとおばあちゃんはうそぶくのだ。

もしかするとおばあちゃんは「お金がほしい」とストレートに言うのが恥ずかしかっただけなのかもしれない。

こんな屈折したおばあちゃんだから、このようなことは日常茶飯事だった。「神仏が、幽霊が」と言っては親族を振り回すヤバいおばあちゃん。幸いおばあちゃんがこんなことを言うのは親族に対してだけだったが、当の親族もみんな困惑していた。


でも私はなぜかおばあちゃんが好きだった。おばあちゃんは子供だった私にいつも不思議な話を聞かせてくれた。

狐に化かされた村人の話、おばあちゃんが山で修行していたときに憑いてきたお化けの話、お稲荷さんが夢に出てきた話。ちょっと怖くて面白い話をたくさん聞かせてくれた。おばあちゃんは月にうさぎがいて餅つきをしていると本気で信じているような人だった。


そして私は知っている。

おばあちゃんの霊感は、親族の命に関わる時は、ちゃんと当たっていたということを。


二十数年前のこと、私の父が仕事帰りに行方がわからなくなったことがあった。この知らせを聞いたおばあちゃん、いつもと違う神妙な顔つきでうちの家にやって来ると、仏壇の前に厳かに座り手を合わせた。そしてたちまち神がかりになった口調で母に言った。

「そなたの夫はまだ車の中におる。病気で死にかけてはいるが、まだ息がある。すぐ探しに行くがよい!!急げ!!」

父はおばあちゃんの言った通り、車の中で瀕死の状態で見つかり、一命を取り留めた。おばあちゃんの霊感はまるで当てにならないのに、この時は当たっていたし、本当に神様が降りてきたようにおばあちゃんが力強く見えた。


あ、あと、おじいちゃんが若い頃、おばあちゃんの霊感で女遊びがバレちゃったという話もあったっけ。いつも当たらない霊感がこんなことは当たるんだから、おじいちゃんもさぞ肝が冷えたことだろう(笑)


私はおばあちゃんが大好きだった。

よく外れる不思議な霊能力で私たち親族をしょっちゅう振り回したり、時には守ってくれたおばあちゃん。

今は天国でみんなを見守ってくれていると思う。



生前おばあちゃんは何度も私にこう言った。

「仏壇には温かいお茶をお供えせんといかん。あの世に行った魂は、どこにでも行けるから水は川にでも行けばいくらでも飲める。せやけど、お茶は誰かが煎れてあげんと飲まれへんからな」


そして必ずこう付け加えた。

「温かいお茶をお供えする時は、『熱いので、やけどしませんように』と言うのを忘れたらアカン。幽霊がやけどするかもしれへんからな」



今夜、私は温かいお茶をおばあちゃんの遺影にお供えした。たっぷり生姜と砂糖を入れて、ジンジャールイボスティーにしてみた。飲むと全身がポカポカしてくる。天国のおばあちゃんも喜ぶに違いない。


おばあちゃんの笑顔の遺影に向かって、忘れずにあの言葉を言っておいた。

「おばあちゃん、熱いからやけどせんようにね」


そう言って私は、生前のおばあちゃんが極度の猫舌だったことを思い出した。猫舌のおばあちゃんはいま、猫舌の幽霊になったのだ。













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40代のイラストレーター です。 元介護士で、若い頃はちょっと漫画描いたりしてたことも。 霊感体質で不思議な話が好きです。 主に寝てる時に他人の前世や幽霊が見えます。
コメント (2)
最後が素敵です。 お墓参りには、花と温かいお茶を  少し冷まして
aokidaokidさん、優しいお言葉どうもありがとうございます😊 そうですね、おばあちゃんは花が好きだったので、花と少し冷ましたお茶を、ですね!
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