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デザインスプリントの最新事情

先日「デザイン思考はグループ・ジーニアス(グループによる天才的能力発揮)を発揮させるためのメソドロジーだ」という記事を書きました。デザイン思考についてはいろんなことが言われていますが、グループによる天才的能力の発揮のツールとして利用すれば、ほとんどのビジネス領域の経営・マーケティング分野で生産性向上の恩恵があると確信しています。

とは言え、デザイン思考がパーフェクトかというと、そうは思いません。とくにビジネスでの運用についてはなんとかならないか、という課題があります。

ファシリ:手順を追ってファシリテーションに技術が必要
時間問題:時間の縛りがなく手順が多い。延々と続く可能性

上記のうち、とくに時間問題は「早く結果を出したい」ビジネス領域のチームにとっては尻込みの原因にもなります。

その解決策が表題の「デザインスプリント」です。「デザイン思考」をハックして速く手軽に、そして誰もがデザイン思考の恩恵に与れる型として開発されたメソッドです。デザインスプリントの国内・海外の状況について紹介したいと思います。


デザインスプリントってなに?

デザインスプリントはジェイク・ナップ氏がGoogle Venturesで働いていた時にデザイン思考をベースに練り上げた手法で、書籍が出版されると全世界でヒットとなりました。2017年の日本語版書籍の発売ではジェイク氏が来日し、簡単なスプリント・セッション体験を披露するイベントも開催されています(参加しました)。

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書籍で紹介されているメソッドはフルタイム5日間を1セットとしてデザイン思考のプロセスを一巡させるもの。「え、5日もかかるの?」と思ってしまいますが、「通常の仕事だと6ヶ月かかるようなプロジェクトサイクルを5日間でやり切る」ので、あくまで「最速仕事術」なのです。

Day1:  状況の理解とターゲット設定
Day2:  アイデア出し(ソリューションスケッチ)
Day3:  意思決定
Day4:  プロトタイプ作成
Day5:  想定ユーザーによるテスト

ジェイク氏はすでにGoogleを退職していますが、Google内では現在もデザインスプリント が活用されているようで、Google公式のDesign Sprint Kitが公開されています。(下の画像をクリックするとDesign Sprintsトップページに遷移↓)

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Design Sprintはユーザーによるアイデアの設計、プロトタイプ作成、テストを通じて問題を解決する、実証済みのメソッドです。 Design Sprintは明確に定義されたゴールと成果物による共有可能なビジョンのもと、チームを素早く軸合わせします。 すなわち仮説を開発し、アイデアのプロトタイプを作成し、可能な限り実際に近い環境で、可能な限り少ない投資で迅速にテストするためのツールです。
(Google 「Design Sprintとは何か?」より)

また2017年からはGoogle主催のDesign Sprintアンカンファレンスが実施されていて、様々なノウハウや事例の共有が行われてます。いつか参加したいですな。

デザインスプリントの特徴

デザインスプリントはデザイン思考が持つ「時間問題」をすっきり解決しています。手順書に示された時間割どおりに運用すれば延長することなく進行でき、しかも(時間内で)きっちりと思考の拡散と収束がなされて課題解決に至るという点がWonderfulです。

またジェイク氏は「意見はすべて無言でポストイットに書き、無発言によるディスカッションをすること」と強調しています。デザイン思考を批判する言説のひとつに「ポストイットの無駄使いになんの意味があるのか?」というものがありますが、アイデア出しや意思決定のプロセスに企業内での立場に対する忖度、声の大きさや人間関係由来のバイアスを排除するためのもの。デザイン思考の総本山IDEOもそうした狙いを語っていますが、デザインスプリント はよりその点を徹底しているとも言えます。

● 個々に考えることを一緒に行う
● 討議よりも形にすることを優先する
● 正しさよりも行動開始を優先する
● 創造性を頼りにしない
(ジェイク氏が講師をするAJ&Smart デザインスプリントキットより)

デザインスプリントの適用範囲

デザインスプリントは、もともとGoogle Venturesが出資するスタートアップ企業のプロダクト開発支援のために開発されました。しかし現在は(デザイン思考と同様)、プロダクト開発、サービス開発、戦略構築など様々な課題解決に適用可能なメソッドとして活用されています。

わたし自身、顧客体験や従業員体験の改善企画に活用していますが、デザイン思考で実績のある分野であれば、間違いなくデザインスプリントを適用できます。

デザインスプリントの適用範囲
● Webやプロダクトの開発・改善
● マーケティングプロセス改善
● 組織課題解決
● 顧客体験課題解決
● 社会課題の解決

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進化しているデザインスプリント

デザインスプリントは先に紹介したGoogleのコミュニティのほか、ベルリンに本拠地を置くDesign Sprint Academyというチームがファシリテーター認証ワークショップを開催しています。また同じくベルリンにあるデザイン会社AJ&Smart社がジェイクナップ氏と共同でeラーニングの認証プログラムを提供しています。日本ではスプリントジャパンの夏本氏が体験セッションを精力的に展開しています。

いずれのチームも、この記事を書いている時点では、ジェイク氏の書籍で紹介されている5日間のセッションではなく、3日〜4日の短縮版スプリントセッションの提供がメインとなっていて、Design Sprint 2.0やDesign Sprint3.0などという名前がつけられています。「より短い時間で、より効果的なアウトプットを!」というユーザーニーズがあるのをこうした面からも見て取ることができます。

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(↑ AJ&Smart Design Sprint Kitより翻訳)

これらのメソッドは時間を短縮してはいるものの「グループによる天才的能力発揮」というデザイン思考の背景にある効能、プロトタイプを使ったユーザーインタテストという手順をスキップしない進め方が担保されています。

デザインスプリントを短縮実施するとき、最後のプロトタイピングの手順をスキップしているチームを(ブログなどで)時々みかけるのですが、ここが肝心カナメのポイント。プロトタイピングは絶対にスキップしてはいけません。

わたしはスプリントジャパンのセッションとA&J Smartのセッションを受講しましたが、どちらも修了者向けのネットワーキングや勉強会を実施し、メソッドのアップデートや実施実例の共有をさかんにしています。A&J Smartでは隔月でジェイク氏を招いてのオンラインQ&A会を実施していて、ものすごい量の情報を獲得できます(ジェイク氏がノンストップの早口で2時間ほどかけて25〜30の質問に回答。様々な情報ソースのリンクなども投下される、デザインスプリントのMasterコースという風情です)。ジェイク氏が繰り返し述べているのはこんな内容です。

● デザインスプリントの価値はチームメンバーのアイデアの軸合わせにある
● 画期的な解決策を作ることがゴールではない
● プロトタイピングでさらに課題を得て繰り返して実施することが大切

Lightning Decision Jam(LDJ)

さてAJ&Smart社では、デザインスプリントとは区別して、ポストイットを使った課題解決案づくりメソッドLightning Decision Jam(ライトニングディシジョンジャム:LDJ)というものを開発し、推奨しています。

体系的な課題解決の手順であるデザインスプリントの中で使われる「アイデア出しと意思決定」の部分だけにフォーカスを当てて、もっとカジュアルにデザインスプリントの効用を利用しよう、というもの

デザインスプリントでは課題の定義に時間をかけますが、LDJでは最初から「解決したい問題」を掲げてそこにタックルします。またデザインスプリント の「肝心カナメ」、プロトタイピングの部分はありません。一方で「ポストイットを使った無言ディスカッション」(忖度やバイアスの排除=グループによる天才的能力発揮のスキーム)はしっかりと保存されています。

所要時間は1サイクルおよそ1時間程度。短時間でもかなりつっこんだ思考探検(発散と収束)、コスト&効果を考慮した意思決定が下せます。LDJの手順を使うだけで、多くの企業の会議やディスカッションの効率化が図れると思います(リモート環境での実施も可能です)。

弊社ではLDJの体験セッションの提供もしています。
ご興味ある方は↓からどうぞ。


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