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『ペイン・アンド・グローリー』を観たよ

▼ペドロ・アルモドバル監督の新作『ペイン・アンド・グローリー』を@長野松竹相生座ロキシーで。アルモドバルは好き。ウディ・アレンと並んであと何本作品観られるのかなぁとふとした時に思う監督。本作は『欲望の法則』、『バッド・エデュケーション』と合わせて3部作らしいけど、意図せず連作になったという発言を監督インタビューで目にする。アルモドバルのそういうところが好き。この監督が描く人生はいつも断章で、且つその断片は必ずしも紐付いていない。「人生は物語」「あなたの人生にストーリーを」みたいな常套句(ものすごく広告的な言い回し)を鼻で笑う「人生は物語らない。ただそこに幾つもの断片が転がっているだけだ」という人生観。だからこそ、そんな気もないのに3部作に「なっちゃった」わけで、言われてみれば『バッド・エデュケーション』は気鋭の映画監督が主人公で、最終的にこの映画はホニャララですよっていう劇構造は本作と同じ。『欲望の法則』は観てないから知らないけれど、きっと通底する何かがあるのでしょう。

▼かつて『電車男』が流行った時代に『バス男』という邦題をつけられたけどバスまったく関係ない傑作コメディ映画『ナポレオン・ダイナマイト』がありましたが、本作は原題そのまま『ペイン・アンド・グローリー』で、本当内容もまんま色んなペインとグローリーを抱えた老監督のお話。これってリアル?フィクション?ノンフィクション?ギャグ?と惑わされながら、相変わらず断章を行ったり来たり、原色バリバリの色使いで2時間アルモドバル自伝的映画。老監督演ずるアントニオ・バンデラスとても良かった。昔の恋人と過ごすシーンの表情が完全にお花畑。あんな顔するんだアントニオ。老監督が子供の頃のかーちゃん役でペネロペ・クルス。これはもうかーちゃんだった。他の監督の映画では雌的な役回りが多いペネロペ・クルス、アルモドバル作品では容赦ない役ばっかりで本人も艶々と演じています。楽しいんでしょうね。本作でもあっけらかんとドライでいちいちユーモアを会話にちりばめるかーちゃんを良い顔で演じてました。

▼『オール・アバウト・マイ・マザー』ほど理屈の通らなさが面白いわけでもなく『トーク・トゥ・ハー』ほどシナリオに力があるわけでもないけれど、アルモドバルをスラリと感じるには程よい作品。オープニングクレジットの見せ方や衣装、小道具すべてに気の利いているアルモドバル図鑑映画でした。好きだなアルモドバルは。終わってビールを飲んで帰った。(了)

※夜の回の観客が自分含めて3人。大丈夫なのだろうか…と行くたびに思ってしまう。ロキシーは長野市の宝物のひとつ(だと勝手に陰ながら思ってます)。何かあった時は有志でえいやっと背負って何とかしたいと思わせる文化の吹き溜り。


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