[MTGプロツアー参戦記]世界に触れた日(後編)

※前編はこちら。

[MTGプロツアー参戦記]世界に触れた日(前編)

https://note.com/joeyasu/n/nd0453e13a5db


2日目。
朝6時丁度に目が覚めた。
隣の部屋の千葉1位を起こしに行って、ホテルのバイキングで朝食。
ベスト8に残れなければ今日で大会は終わりだが、私は厚かましくも残るつもりで2泊3日で宿を取っているので、トランクは今日は持ち歩かない。

デッキ、カード、ダイス、スリーブ、メモ帳、ペン。
特に昨日ドラフトしたデッキは今日の第8ラウンド、第9ラウンドでも使う。
1枚でも欠けたらマッチロスや最悪失格になるので、念入りに3度確認。

1枚・・・多い!?。

あ、手の檻だ。そういや昨日1位とゲームしててエンチャント付けられたっけ。

「これ。つけっぱなし。無いと困るでしょ」

「あ、ホントですか?どーも。」

手の檻を返す。無いとマッチロスになるし、何より彼のデッキのキーカードだ。

「俺よりベスト8に近いんだからちっとは緊張感もてよー。ほらタグは?ダイスは?メモ帳は?ペンは?」

まるで子供が遠足にいくお母さんである。
でも幾らか緊張がほぐれた。

チャンピオン1人に当たって1敗したとはいえ、私のいるところは全員格上。おまけに3人は世界王者だ。今日は当たらないといいな・・・と思いながら会場に着く。

すでに組み合わせは出ていた。
ドラフトは2回だが、今日は8戦も試合があるのだ。少しでも早くできるところは、早くするのは当然だ。

私の相手は。
Simon carlson氏。
世界王者ではないが国代表。だがこの卓ではまだましな部類である。卓に青プレイヤーが少ないことを見越して、かなり強いカードを集めていたのだが・・・この人でも初戦負けたのか・・・

卓のレベルの高さが伺える。

卓に行く前に賞金テーブルを確認。
2勝6敗以上で500$以上。先ずは1勝だ。
テーブルへ。

”good morning!,May I take a seat?”
すでにサイモン氏は到着。カードの手入れをしていたので、私は見ないように気を使って声をかけた。
とは言え彼のカードは全て頭に入っているが。
きのう散々予習した。
"it was terrible pod!"
"Even Jager said same sentence!"

みーんな考えることは同じでお互い苦笑。
さんざん傷を和気藹々となめあったあと第8ラウンド開始。勝負師の顔に戻る。

土曜日の朝なので会場は慌ただしい。
一般プレイヤーは金曜はこれない人も多く、サイドイベントや催し物の本番は今日からで、すでの向こうは大盛況。ざわざわしている。

が、カードを触ると、不思議と昨日と同様周りの雑音が消えていった。
昨日と同じレベルで集中が出来ている。

まずは本日初めの試合を取らねば。気を引き締めて、20面ダイスを振る。3。まあこんなもんだよねと笑いながら相手にダイスをかして振ってもらうと16。先手を取られたが、この人を後手で倒せなければとてもチャンプには勝てない。前向きに考えた。

手札をみる。

赤本殿、氷河の光線2枚、木霊の手の内、土地3枚。
クリーチャーはいないが、彼のデッキに対するハンドとしては90点だ!

”keep!”

試合が始まった。
1本目。

後手2ターン目の私の引き込ん桜族の長老からゲーム開始。

先手3ターン。
雨刻みが出てくる。想定内だ。

返しで赤本殿。相手がいやな顔をする。
相手のデッキは大部分がタフネス1.これ1枚で相手のデッキの3割を葬れる。

4ターン目。恐らく相手のては鏡渡りか2/1の戻すやつしかいないようでターンエンド。
私は返しで緑詐欺師。特に駒のあるこのデッキでは当たり前のように5/4になる怪物だ。流石に氷河の光線が飛んでくるが単発であった。

その後苔の神を木霊の手の内経由でプレイして盤石。相手は青の最強コモン、伝承の語り部を出す。
タフネス3飛行。
危険な生物であり、本殿でも氷河の光線でも単体ならどうにもならない。
が、2枚が揃っているのだ。

”On my upkeep, honden deals 1 damege to taler of tales, then play glacial ray on another ray! to flostslinger and taler!”

相手全滅。
5/5の苔の神が相手を削りきるのにそう時間はかからなかった。

2本目。

桜族の長老からゲーム開始。相手雨刻み出したので長老生け贄捧げて3ターン目に霜投げ。除去されず。もういっちょ霜投げ。相手悶絶。
とどめに赤本殿。

あ。サイモン氏カード片付けた。

開始15分。この大会で一番楽なマッチであった。

"Good game!"
完封だったのに笑顔で握手を求められる。
これぞスポーツマンシップ。

国内のプレイヤーなら不機嫌になるような展開であるが、彼は負けた後の振る舞いが格好良かった。

相性悪かったね、でもそのデッキなら次も勝てるよと応援されながら席を立つ。
私に英語力があれば、もっと気の利いたことを言えたのに、出来なかったことが悔しい。

6勝2敗!絶好調である。

次のラウンドまではたっぷり1時間もある。
友人と談笑。

「やるじゃん!」
「すげーな!」
「俺も風呂ツアー全勝したからお前も頑張れ!」

最後に変な言葉が聞こえたが気のせいだろう。

「朝から最先よかったよー」

「危険地帯も後1ラウンドだな」

そう、まだ9ラウンドが残っている。

「でもJagerには当たったし、他の王者連中も昨日勝っているから2-0 2人と 1-1が2人でしょ?んで、Jagerには当たっているわけだから、当たる可能性は低いんじゃないかな?」

「そうだな!」

正論である。次のラウンドで世界王者と当たる可能性は他の人よりは低い。

「ま、頑張ってくるよ。」

第9ラウンドの組み合わせが発表された。
私は意気揚々と確認に行く。

そこには無情にもこうあった。

Round9

ジョー vs Lebedowicz, Osyp(世界王者)

掲示板からテーブルに向かう途中、Jagerと一緒になった。
”Good luck!”と声をかけてもらい、ちょっと元気を出す。
"Thaks you too!"

Osyp Lebedowicz.

当時のアメリカは世界最強の国であった。その世界最強の国のトップの1人。

戦績。
プロツアー大阪2002ベスト8。
プロツアーヴェニス2003優勝。
グランプリワシントンDC準優勝。
グランプリオーランド04優勝。

復帰して2年足らずの私でも、復帰当時から大活躍していたプレイヤー。当時の勢いも考えると、今一番のっているプレイヤーであった。

・・・

「じゃ、行ってくるわ。」

友人が私にかける言葉を見つけられないのを察して、私はそう言った。

「なんかお前、慣れてきたな。」

「もう4回目だし。」

いい加減有名人と当たるのも慣れた。友人と違い、悲観は全くしていない。
信じるのは自分とデッキのみ。

”Hi"
"Hi"

向こうからすれば黒田氏でないもう1人の日本人。私から見れば世界王者。お互いに顔パスである。

Jagerが言っていたよ。クロダじゃない方の日本人にも気をつけろってね!
と言われて照れる。
"But for me, everyone in the pod is menace... especially you!"
と返した。もっと気の利いた言葉を言いたかったが、英語力がない。
ニッコリと笑って見せると、笑ってくれた。

"Good luck!"
"You too!"
握手してから、第9ラウンド開始。

1本目。
初手が悪かったので引き直して6枚。駒もあるし、まあまあだった。

順調に偏り無く引ければいい勝負ができる・・・筈であった。

残念ながら、土地が3枚で止まってしまったのだ。
駒で3枚見たにも関わらず、である。
先程がラッキー過ぎたので仕方ないなと思いつつ、
”go next game.”といって、カードを片付けた。

2本目。

今度は駒&シャッフル&氷河の光線が綺麗に回る。
何と3枚の氷河の光線を全て集めてやりたい放題であった。

”Go final game!”

お、マネされた♪

3本目。

手札。



赤本殿
古老
木霊の手の内
苔の神
氷河の光線

土地が1枚しかない。
が、森を1枚引ければ途端に爆発力を発揮する。

もともと、古老3枚に木霊の手の内があるデッキ。
森を引ければ山など簡単に調達出来るので土地配分は森10枚山6枚。後33枚のデッキの10枚が森。
後手2ターン目、遅くとも3ターン目に森を引ければよく、駒まであるので6枚の中に1枚でもあればよい。

その確率は大体87%。
森さえ引ければ9割勝てる。

これで負けても仕方ない。
私はこの不安定な手札に運命を委ねることとした。

"keep!"

最終戦がはじまる。

後攻第1ターン。
山を引いた。惜しい。残り5枚の山よりも10枚の森を引きたかったが、手札的にも土地は後1枚は引きたい。駒をプレイ。

後攻第2ターン。
引く前に駒を起動も考えたが、それだと1マナ使うので森を引いたときに古老が出せなくなる。
そのまま引くと霜投げだった。
山をおいて終了。
相手の3ターン目終了時に駒を起動。

山・古老・野伏であった。
仕方なく第3ターンに山を出して本殿を置く。
相手が怪訝な顔をする。

第4ターン。
ドロー前に駒を起動。デッキの3枚目にいたのは、また駒であった。

本殿と氷河の光線で時間を稼ぐも、結局私が敗北する手前の第8ターンまで、森は姿を見せてはくれなかった。

時すでに遅し。私は投了した。

”sorry sir.”
"no problem. good luck!"

今までがついていたので、こんなしっぺ返しもあってもおかしくない。もともとこの可能性も覚悟の上でのキープだ。悔いはなかった。

”your start hand?”

そりゃ気になるだろう。

片付けたカードを引っ張り出して先程の初手を見せて解説。

"If only I got 1 forest...there are 10 of them in it.
Although I know it's risky decision, but I bet on it...and lost."

"Ah...I think you are right. To be honest, I would have lost if you get forest earlier."

だが結果は結果だ。

"Judge! He won by 2-1."私は自らジャッジを呼び、スマイルで彼の勝利を告げ、敗者の欄にサインした。

"You played very well !See you at next PT!"

去り際にチャンプにそう言われて、嬉しかった。
負けたけど。

師範の占い独楽。
今も構築で大人気のカード。
使い勝手がよく、レアでないくせに何千円もする、おそらく99%のプレイヤーが大好きなカードだ。

私が1%の方なのは、この大会で助けられたことよりも、絶望を見せつけられたことに他ならない。

プロツアーのドラフトカードは不正防止のためプロツアー独自の刻印がある。そのため、非常に貴重だ。その貴重なプロツアー刻印入りの師範の占い独楽を、私は今も3枚持って、時々悪態をついている。

今、3枚と書いた。
そう、このあともう一枚お世話になる。

第3ドラフト終わって、6勝3敗。
このポッドだけなら1勝2敗。
私の実力からいえば額面通りと言えば額面通りだが、あのデッキで1勝しか出来ないのは予想外だった。ベスト8を狙うなら5勝1敗以上が要る。
相手が悪かったし、運もよくなかったが、この結果はさすがに堪える。

「馬脚を現してきたか?」
「内容では負けてねーよ!まだ全勝すればベスト8だ!」
でも友人には強がって見せた。
程なくして第4ドラフトのポッドが発表された。
3敗ラインだし、第3ドラフトよりはましなはず。
そう思っていた。



ポッド5

1 Jacob, Michael 18
→5ラウンド参照
2 Krempels, Craig 18
→2002アメリカ新人王。以降活躍多数。
3 Chai, Ming Huang 18
→シンガポール王者。
4 Goron, Julien 18
5 Gundersen, Thomas 18
→世界ベスト8
6 Wiegersma, Jelger 18
→世界王者
7 Nai, Enrico 18
8 私

「さあ、実力者多数のポッド5!こちらも上位卓に負けず劣らず大注目です!!」

一般観戦者向けのアナウンスだ。観客は盛り上がっている。
が、注目される方は、辛い。

しかしもう負けられない。
osypのお墨付きも貰ったし、自分はコイツらにも劣ってない!そう思いこむことにした。

いい感じに集中は出来ている。
今回も全員のピックが分かる。
これをゾーンと言うのであれば、私はまだゾーンに入っていた。

ドラフトでは集中力を維持し、うまく緑が少ないのをいいことに自分の色を緑に。ほぼ独占。結果、なかなか組み上げられない独創的かつ強力なデッキを作り上げることができた。それがこちら。


1マナ

独楽

2マナ

大蛇の野伏2
大蛇の支援者2
古の法の神

不退転の意志2
来世への旅

3マナ
松賊のおとり
狐の刃使い
兜蛾

蛇の皮

4マナ
せし朗の息子、そう助3
星鐘の僧団
蛾乗りの侍
緑詐欺師

白本殿

5マナ

百爪の神
緑本殿

Xマナ

大蛇の孵卵機

白緑ランド2
平地7
森8

そう助が3匹。アンコモンながら伝説の強力な蛇カードだ。24パックの中で同じアンコモンが3枚出た・・・のではなく実は4枚。恐ろしい偏りである。緑をほぼ独占してる私に全て回ってきたが、4枚目はスルー。そう助を無視して大蛇の野伏をプロツアーで取った人間は私くらいだと思う。

取った瞬間に卓内から苦笑が聞こえた。

※同名の伝説カードは場に1枚しか出せないためだ。2枚以上手札に来ても困る。

で、見事なスネークスペシャルが完成した。
この大会でドラフトしたデッキの中で最強である。

あとは10ラウンド目の相手だ。
強力なプレイヤーでは無いことを祈る。


掲示板を見た。

「ヒキ強いな・・・」
「うん…」

仲間と組み合わせを見て呟く。



第10ラウンド。



ジョー vs Jager Wigarsma(2回目)

それは、通算3度目の世界王者との試合を示していた。
かくして、第10ラウンドはPTシアトルチャンプと2回目の対戦。


"Hi, let's play second match!"
まーた会ったね、と苦笑しながら卓につく。

先にjagerは座っていた。
第1ラウンドは私の判定負け。
第2ラウンドで星を取り返したいところだ。

”I remember yesterday's your deck and drafting.
I cannot beleave you are a rookee!”

私のことは彼にとって印象的らしい。

試合が始まった。

第1ゲーム。

そう助+松賊のおとり+不退転の意志が炸裂。
松賊のおとりは相手のクリーチャーにブロックを強制させる蛇・戦士クリーチャーだ。
そう助は全ての蛇のパワーをプラス1し、さらに戦士に対して、それがたとえ他クリーチャーに1点でもダメージを与えると無条件で破壊する接死能力を与える。そして不退転の意志で+1/+2修正。

結果、ブロック強制・接死持ち・3/5という意味の解らない化け物が誕生した。

世界王者だろうがどうにもならない。

2:相手は青白。飛行が得意。
その上、土地が止まり、どうしようもなくなる。

このデッキは飛行が少ないので飛行攻めが弱点。
そいうえば。控えとして取ったカードの中に尊い蜘蛛がいたことを思い出す。

5マナ2/3、ブロック時は飛行もブロック可能。
普段は弱いが、このデッキ相手ならいい仕事をするはず。
私は1枚のカードを、尊い蜘蛛と交換した。

さあ、3本目だ。

第2ターンに大蛇の支援者を、第3ターンに蛾乗りの侍、第4ターンに尊い蜘蛛で完全に飛行を止める。そして白本殿でライフ回復。ライフは30にまで到達し、相手は攻め手を欠いている。ただし、こちらも決定打にかけてにらみ合い。

独楽を引いたので3枚見てみると、珍しく決定打、大蛇の孵卵器がいた。

8マナでx=4でプレイ。
1ターンに4体ずつ発生する1/1.
5ターン後。
並んだ16体の蛇トークン。
そして今引いたそう助。

全ての蛇トークンが2/1に。
彼の7体のクリーチャーでは、少なくとも9体が彼にダメージを与える。
その量、2×9=18。

初期ライフが20点のこのゲームでは、勿論致命傷であった。

”Good game! And hope you luck!”と言われながら差し出された右手を、私はがっしり掴んだ。
この時のことは、一生忘れないだろう。

小6から中3まで。
大1から大2の今まで、通算キャリア6年。

雑誌やインターネットでしか見られなかった、遠い遠い存在。世界チャンプ。

毎年何百万円、当時の私には途方もない大金(いまもだけど)もの賞金をとる、全てのプレイヤーの憧れ。

こんな日が来るとは思っていなかった。
世界王者を倒したのだ。

"Your draft is great! See you at next time!"

そう聞いて、私は少し目頭が熱くなる。

"Thank you...hoping your luck too!"

としか言えなかったのが、心残りだ。

「えー!勝ったの?」
「まじかー。完全に圏外になると思ったよ!」
「どれ、デッキチェック。・・・おい、持ちこみかこれ?そう助3枚じゃねーか!」

「実は4枚でたんだなこれが。あ、尊い蜘蛛はサイドインしたんで、戻させてね。」

ナイスデッキチェック。
あまりのことにサイド戻しを忘れていたのだ。
危なかった。

ドラフトのこと、試合のことを仲間と振り返りながら、次のラウンドまでを過ごした。
7勝3敗。おそらく仮に全敗したとしても64位にはもう入れる。

10月のグランプリ横浜でも賞金は取ったが、これで2回続けてマネーフィニッシュだ。

「牛角!」「ok!」

こんなやりとりもした。

そんなこんなで。
大金星になった第10ラウンド残り時間を楽しく過ごせた。

そして、楽しい時間は終わりを告げる。
第11ラウンドの組み合わせ発表。

「チャイだー!!!」

Chai, Ming Huang。
シンガポール王者であり、1997年辺りからアジア大会やプロツアーに参加している超ベテランだ。

私が初めて購入したゲーム雑誌、”デュエリストジャパン_vol4”にも大きく、当時のアジア大会であるAPEC1999の試合結果に登場しており、小学生だった私は”スゲエ!強くなると世界の人と戦えるのか!”と驚いた。私にとっての初めての世界レベルのプレイヤーであり、最も尊敬しているアジア人の一人である。


「一難去ってまた一難・・・♪」
友人が近づいてくる。

「せーの。」

「「ぶっちゃけありえない!!!」」

友人と2人で叫んだ。
※注:2004年~2005年はプリキュア元年です。

「ブッチャケ アリエナイ?」

近くにいたOsypが反応する。
彼にとっても私はお気に入りになったようだ。

"Year, like this situation, if someone meets tough situation, almost all Japanese say the phrase!"

"Repeat it again?"

"ぶっちゃけ ありえない"

"Bucchake Arienai!"

白状します。チャンプに変な日本語を教えたのは私だ。


閑話休題。適当にバカをやって緊張をほぐしてテーブルへ。


”Hi! It have been three month...!”
"Of course I remember you!"

""Good luck!""

そう。
チャイとは3ヶ月前にグランプリ横浜2004で試合している。
最終ラウンドで彼と当たった。
その大会では私はかなり上位で、良いところまでいっていた。

当時は参加者の中で、一度も賞金を取ったことがないプレイヤーだけで順位を争うアマチュア賞金制度があり、私はアマチュア内で1位を争っていた。
なんとその額50万だ。

が、最後に立ちふさがった彼にあえなく敗北し、アマチュア3位に後退。20万しか貰えなかった苦い記憶がある。


だが、あの頃の私ではない。
プロ予選を通過した僅か2週間後のあの大会の私では無いことを証明したい。

この大会までの2ヶ月半、平日1日4時間、休日1日12時間、欠かさず練習してきた。
そしてこの大会でも、急激に成長している。

自分の成長を測るためにも。
彼と当たったことは幸運なんじゃないか。

"Higher can choose play first or draw first?"
といいながら、私は3ヶ月前にも彼と振ったダイスを取り出す。
"OK!I remember your blue-20-sided dice!"

"See you again since Yokohama!"

そう言いながら、先手決めの20面ダイスを振った。

第11ラウンド:Chai, Ming Huang (黒緑)

GP横浜の最終戦で当たって負けた相手。相手もこっち覚えてて,雑談しながらスタート。

第1ゲーム

天和。
そう助+松賊のおとり+不退転が初手に揃っていた。

そう助が汚れで破壊されるも、私はニコッとしながら返しでこう言い放つ。

"Play Sosuke, from hand."

2本め。
1回引き直して6枚スタート。
動きは悪くなかったのだが、相手のデッキも当強い。こちらがスネークスペシャルなら相手はスピリットで綺麗にまとめている。

必殺技を連打される。

つぶやく神+杉の力。
杉の力は緑の爆弾カードだ。1ターン限定だが普通に+7/+7くらいを叩き出す。
そして、次のターン12点の貪る強欲食らって死亡。

これは仕方ない。先ほど私が必勝パターンを引いたように、今回は彼の番だっただけだ。

あの時とは違い、全く互角の勝負だ。
2本目は落としたが、ショックではない。

最終ゲームのカードを引いた。

・・・またか。
土地が1枚もない。6枚引き直して、これは許容範囲内。
”keep.”

即キープした相手のハンドをにらみつつキープ宣言。かなりいい手札なのだろう。


クリーチャーは法の神1匹だけ。
これにエンチャントしまくって序盤を耐える。こいつだけで3匹仕留める。
ライフは白本殿のお陰で減っていない。

汚れを引かれた瞬間戦線が崩壊するが、こうするしかない。

互いにハンド少なくて膠着がつづくも、ついに恐れていたことが。

”Yes!”

相手がカードを引いてそう叫ぶ。
やな予感がした。

予想通り汚れ。
無条件にクリーチャーを破壊するカード。古の法の神とそれに着いていたエンチャントが全て破壊される。

さすがに負けを覚悟。
あと2点なのに・・・

が、返しのドローは、孵卵機!

最高のドローだが、相手もそれだけでハイ負けましたとはならない。
ハンドに溜めた生物を一気に展開してきた。

相手はライフが少なくてそんなに殴れない。
こちらも数足りなくて殴れない。

相手は苔の神を追加。5/5トランプルというのが驚異的だ。

・・・マズイ。相手の2枚のハンドが貪る強欲と、杉の力だとしたら多分勝てない。
トランプルだから1体ブロックでお茶を濁すことが出来ないのだ。

相手は苔で何回かアタックを繰り返した後、5分ほど考えてかなり大胆にアタックしてくる。

仮に杉の力を持たれていたら。
貪る強欲を持たれていたら。
私の次に引くカードは?
ブラフの可能性は?
全てを勘案して、最適解をだす。最悪の場合を考えてブロック。
相手は頷いて、貪る強欲を生け贄なしでプレイ。ブロッカーも出して,フルタップでターンが回ってくる。良かった。とりあえずこのブロックでなければ負けていた。
相手のエンドにトークン出して状況整理。

・・・なるほど。
ライフは4.ブロッカーの数的にこちらの攻撃は最大3匹、1/1の蛇トークンが3体しか通りませんと。

で残りのハンドは杉の力なので、どうやっても私はこのターンで決めないと死にます、か・・・。

「王手だねえ…もう引きに掛けるしかないじゃない。」

ハンドの1枚のカードが土地であることは恐らくバレている。何かあればとっくに打っているからだ。事実、平地である。

ここまで来れば相手の1枚も読める。残念ながら杉の力だろう。間違いなく次のターンになれば私は負ける。

"your turn!"

チャイがそう宣言すると同時に、

"Round11 is time up! Enter extra 5 turn!"
と会場からアナウンスが入る。

そうなのだ。
フルセットの膠着状態の激闘であったため、すでに1時間が経過し、最後の3ターンずつが告げられたのだ。

この3ターンずつで決着が着かなければ引き分けだ。
だが、この場に限ってはそんなことはない。
私の引つぎのターンに引くカードで、このマッチの勝敗が決まる。

すでにこのラウンドで決着のついていないテーブルは私達のみ。

手の空いたジャッジが4名、私たちを取り囲んでいた。

"I think that the winner will be determined next turn...but it may know this card. Accordding to my reading, your hand must be good solution, so I have to win in this turn...or I will lost."

"Year, we played well, and I will accept the result whatever you draw."

お互い敗者の弁にならないうちに健闘を称え合う。

"Judge! As we all know, the result will be determined by it! Please confirm that I will draw difinity top of it!"

もうみんな解っている。この1枚が運命を決めると言うことを。ジャッジにも私が次引く1枚が確かにデッキの一番上であることを確認するよう依頼した。

"Yes sir!"

ありがたい。

"Untap!""Upkeep, gain 2 life!"

"Draw!"

念入りにデッキの上の1枚が、汗などでくっついていないことを確認してから丁寧にカードを裏向きでずらす。

そして、引いたカードを私側の2名のジャッジと共にまじまじと眺めた。

目が点になった。
ジャッジは爆笑。私も苦笑。
「カッコ悪う!」
と言いながらメインで土地を1枚タップしてそれを唱える。
そう。師範の占い独楽だ。

これにはさすがに向こう側のジャッジも爆笑。チャイも笑う。

"Don't you say it last card?"
"I have no idea♪"

最後の1枚かと思いきや、思いがけず3枚見る権利が生まれた。

しこたまみんなで笑ったあと、勝負に戻る。
"Actibate with 1mana."

デッキの上から3枚を見て好きな順番に入れ替える能力。
この3枚の中に解決策があれば、第2の能力でデッキの1番上のカードとコイツを交換してそれを唱えられる。

今度こそ。この3枚にかかっている。

3枚のカードを裏返しにして、くっつきがないかみんなで確認。

そこには、アイツが居てくれた。

3枚のカードをしっかり確認してあいつを一番上に置いた後、独楽を起動し独楽と入れ替える。

手札に来たカードを見る。

緑緑②.3/4のクリーチャー。間違いなく私のデッキのキーカード。


"Play Sosuke!"

全ての蛇に+1/+0.
それは蛇トークンも例外ではない。

フルアタックで通るはずの3点が6点に変わる。
相手のライフは4点。

私の、勝ちだ。

チャイが天井を見上げる。私も、一つ深呼吸をした。


本当にどっちに転んでもおかしくないゲームであった。

さて、最後の宣言だ。


チャイが視線を天井からテーブルに戻したのを確認してから私は言った。
"May I start combat phase?"



チャイが笑う。そしてー

"No need to do it! Congratulations!"

そう言ってシンガポール王者が右手を差し出した。


ジャッジが直ぐに結果シートへのサインを求めてくる。

そうだった。みんなこの卓の終わりを待っていたんだった。
5分も経たないうちに第12ラウンドの組み合わせが出るだろう。

”good game! and good luck!”

私たちはお互いにそう言って、急いでテーブルを後にした。

憧れのプレイヤーに、勝利した余韻を味わいたかったが、そうも言っていられないのが少し残念だった。



8勝3敗。暫定21位まで復帰。
ベスト8まで、あと3勝1敗。

第4ドラフト開始時には絶望的だったベスト8への道が、再び見えてきた。



程なくして第12ラウンドの組み合わせ発表。
この厳しいポッドの全勝を賭けた試合だ。
誰に当たってもおかしくない。

そう思いながらみた掲示板にはこうあった。

第12ラウンド。

ジョー vsGoron, Julien

・・・「誰?」
「うん、無名だね。でもお前の言えた台詞か!」
「そうでした(^^;)」

確かに相手は無名だ。
だが、よくよく考えれば私も初出場。
県内では名が少ししれた程度の私は、世界ではおろか、全国ですら無名だ。

毎回相手はこう思っていただろう。

「誰やねん。」と。

だが誰であろうとベスト8月手が届く位置まで勝ち上がってくるプレイヤーである。

気を引き締めねば。気合いを入れ直してテーブルに向かった。


1本目。
そう助を出すも、相手が早く、しかもこちらが飛行ブロック可能なクリーチャーを引かず、速攻で押し切られる。

・・・相性の悪い相手だ。正直つらい。

2本目。
1本目に増して、相手の引きが神がかっていた。
私も11ラウンドは殆ど引きで勝った様なものだ。
仕方ない。

僅か20分。
負けた。

仮に後3試合を勝ったとしても、オポの関係で奇跡が起こらない限り9位か10位にしかなれない。
本当に呆気なく、私のベスト8の目は消えてしまったが、こればかりは仕方ない。

”Good game! I hope you to see your play on Sunday! "
笑って彼の健闘と、幸運を祈って右手を差し出した。
"Thanks!"といって彼は力強く握手を返してくれたので、負けてベスト8の目が無くなったもののあまり悲しくはならなかった。

デッキが悪いわけでも無い。
ミスをしたわけでもない。
こういうときは気にしないのが一番だ。友人の本へ。

「と言うわけで目がなくなりました!」
「いや、十分大健闘だろ・・・意外だったわ」
「でもまだ3連勝したら50万以上取れる目もあるし頑張りどころだぞ」
「稼いでくるわー」

"5th pods are announced!"

会話しているところに会場のアナウンスがはいった。

「じゃあ行ってくる。」
「今回最後のドラフトだな!頑張れよ!」
「おう!」

そう、10位でも5000$。1ドル115円だから57万。まだまだ悲観する必要はない。
全勝で50万、全敗でも5万。

私の賞金を決める最後のドラフトが始まる。

もうベスト8は難しいけど頑張ろう、賞金は確保したのだ・・・

そう思った時だった。

ぷつん。

これまでの集中が切れた音がした。
・・・だめだ。どうやっても第2~4ドラフト並の集中力は出せない。

もうベスト8はこれまでと思ってしまったからなのか。それとも単純に集中力の限界が来たのか、その両方なのかは解らないが、憑き物が落ちたような感じがした。
後、ドラフト1つと3ラウンド。気力で頑張るしかないと気を引き締める。



第5ドラフト。
卓のメンバーは第3ドラフト、第4ドラフトよりはマシ。
イギリス王者、Jeff cunninghamがいるくらいだ。
ただし、カードの出は私の色に不利に偏ってしまったし、何よりも第4ドラフトと同じ白緑を選択したのが痛い。あんなデッキ、めったに出来るものではないのに。集中力が持続していたら、きっと白と緑以外のデッキになっていたのではないだろうか。
十分に2勝程度なら狙えるデッキになったものの、全勝は厳しいといった平凡なデッキが完成した。

確かに他のプレイヤーも全体的に出たカードが弱かったため、相対的な点で言えばそこまで悲観することではないが、どうしても見劣りはする。

「突出したものがないよねー。これまでに比べると普通だ。」
「悪くはないけど・・・」
「うん。今回のデッキの中では最弱だ。ほかが強すぎたってのはあるけど。」
自他共に同じ感想だ。

「全敗しないようにはがんばるよ。」
そういい残して13ラウンドへ向かった。

「えーと、名前は日本人ですよね?でもUSAって掲示板に書かれていたってことは・・・アメリカ籍ですか?」

「いや、前日の直前ファイナル予選抜けて国籍登録間に合わなかったみたいで。純粋な日本人ですよ」

「なーんだ。じゃあ久しぶりに日本語で試合しますか。」
「そちらは何回か当たりました?」
「ええ、1回目と6回目でなんで、これで3回目になりますか。そちらは?」
「初ですねー」

なんて会話を試合前に相手と。
そう、13ラウンドの相手は日本人だ。

「「お願いします!」」

最後の3試合が始まった。


1本目
初手が悪く1回引き直して6枚スタート。
相手1ターン目悪鬼、2ターン目悪婆、3ターン目オーガと速攻展開。

なんとか亡霊の牢獄張って守りを完成させたときには既にライフは危険水域に。
場だけは盛り返してこちらが一方的に攻撃出来る体制が整ったその時だった。

「貪る強欲撃ちます。X=3で。」

私がプロ予選通過したときのキーカード。
相手に2+2X点のダメージを与え、自分は与えた数だけ回復。Xは貪る強欲をプレイするのに際し生贄にしたスピリットの数に等しい。

X=3 なので 2+2×3=8 

8点ダメージだ。
8点あったライフが一気に0になった。

2本目。
また6枚スタート。
が、今度は相手の展開遅く,松賊のおとり+不退転の意思+木霊の力で勝ち。

3本目。
相手4ターン目山崎兄弟2枚揃える。
こっちは3で土地が止まり、さらに火の咆哮の神を出されてしまいブロッカーが役立たずに。攻撃を止められず、負けた。

「すみません、最後ツイてました。」
「しゃーないっす。ご健闘を。」

8勝5敗。暫定35位。

最後の日本人対決は、敗北で終わった。

「2連勝で25万、1勝1敗で12万、2連敗で6万、ってとこですかね。」
「現実的な金額になってきたな。」
「1勝1敗以上で牛角祭りできるな」

そんな会話をしながら迎えた14ラウンド。
イタリア人が相手だ。

1本目
松賊のおとり+不退転の意思で相手の小型クリーチャーを潰していくも相手の物量がともかく多い。

いっぱい並べられて膠着して複雑な場にるも、こっちの生物の方がスペック自体は上。

手札には2枚目の不退転の意志。
ちょっと計算してみる。
お、得なアタックになる。場合によってはこれで勝てる。
アタック。
相手考えてブロックを割りふる。
こっちのアタッカーの前に幾つかクリーチャーを置いてブロック終了。
相手、緑詐欺師の前だけ5cmほど離して2匹のクリーチャーを置く。
他のには1体で置いた。

これでは手元の不退転の意志を使っても相手に致死ダメージは与えられない。
なら、次のターンで決められるように自分のクリーチャーを守りに行く。


2匹にブロックされた緑詐欺師を不退転の意志で強化。さらに、一匹にブロックされた方に兜蛾起動。

"I"ll make damages put on stack!"
"OK"
"Then the deciver deals 4damages to it, and lest2 damages are dealed to another creature"

"?"

相手が怪訝な顔をする。

"Jadge!"

え?何かした?

"What's the matter?"
ジャッジが飛んできた。

今だったら抗議出来たのだが、当時の私の英語力では到底無理なレベルで相手とジャッジが会話を始める。私は完全に置いてけぼり。

当時の記録を見たところ、恐らくこんな会話だろう。

"Although I assigned block like this(場を指差す), but he misunderstood that the deciver was blocked by two creatures, and he played a spell, and tried to deciver's damage to two creatures.
As I saw his spell now, so It is difficult to return the bigging of combat, what should we do?

要は、彼が緑詐欺師の前に2体置いたクリーチャーは、最初はブロックしようと思ったが、結局スルーしようと考えその意思表示のため5cmだけ離した。
だが私はブロックされたと考えてしまった。なのでブロックされたことを前提に、その場合の最適解となるアクションを、具体的には不退転の意志を緑詐欺師に守りつつダメージをブロッカーに割り振る宣言をしてしまった。

問題は更に複雑だ。

 もしも彼がスルーしているのを理解していたのなら、ブロックされなかった場合の最適解が別に存在する。そしてその最適解ならば、私はこのたーんんい勝利していた。別の攻撃が通ったクリーチャーに不退転の意志を使いパワーを1あげて、兜蛾の能力も其方に注ぎ込めばこの戦闘で相手のライフは0になっていた。

今回使った2枚目の不退転の意志と言うのはかなり意外性の高いカードであり、知らなければ対処は難しい。
が、既に私はこのカードを見せている。相手がこのカードの存在をすでに知って知ってしまっている。
 なので、ブロックの割り振りからやり直すとしても、このカードの有る無しで相手側の最適解はぜんぜん異なるのでまず巻き戻し不可能だ。

"Hmm...He said like that, is it right?"

ジャッジが振り向いてこちらに問いかける。
「え?」

通訳である現在の私であれば簡単であるが、当時の私には彼らの会話がわかるはずがない。なにが起こったかすら解らない。

どうすんだこれ。
試合とは関係ないところで大ピンチである。


「お困りのようですね。」

そのときに駆けつけた日本人ジャッジの頼もしさを私は一生忘れない。

彼がいたからこそ私が今通訳をしている。

流暢な英語でジャッジと相手と会話をし、ものの2分もかからないうちに私に状況説明をしてくれた。

「・・・と言うわけで、彼はブロックしないと意思表示したつもりがあなたに伝わらず、あなたはブロックされたことを前提に不退転の意志を使ってしまったと。」

「ありがとうございます。状況は飲み込めました。その状況であれば相手の説明は正しいです。」

「わかりました。」

再び最初のジャッジと裁定について英語で協議。
向こうのジャッジは、私が日本人ジャッジと会話している時に裁定を考えていたようで裁定はすぐにでた。

「ジョーさん。」

「はい」

「現状維持となり、ダメージ解決からとなります。スルーされた緑詐欺師はもちろん2体のクリーチャーにダメージを与えず、相手へのダメージとなります。パワーが6なので6点ですね。それと野伏で2点で8点。相手のライフが9なので1点残ります。」

正直私にとってはとても残念な結果だ。
1つ前のブロック指定ステップからのやり直しであれば、兜蛾の強化対象を選べることになり、その対象を野伏にすればもう1点追加出来たため、これで勝っていた。が、それは許されなかった。もう少し最初の段階で抗議していれば。いや、そもそもこういったすれ違いが起きないようにもう少し相手と会話していたら。

一応、これでも私の場のほうが断然有利だ。
相手のデッキ的にもカード1枚でひっくり返せる状況じゃない。
何も引かれなければ次のターンで私の勝ちだ。

だが、私自身この大会で何度もあと1枚での奇跡や1ターンの粘りでの逆転劇をしてきたのだ。なにが起こるか解らない。

かなり悔やんだ。

「わかりました。ありがとうございました。」

震える声でそうジャッジにお礼を言い、
”Sorry for misunderstood”

と皆に謝罪した。が、メンタルヘのダメージは大きい。
"Sorry too."
と相手も謝ってくれたのが救い。

”your turn.”

戦闘を終えた後、私は震える声で残りライフ1の相手にそう告げた。

頼む。

何も引かないで。

相手はカードを引き、

ニヤリと笑って。

”go next game”

と言いながらカードを片付けた。

勝つには勝った。
だが決して誉められる内容ではなく、決定的な隙を作ってしまった。プロとしては勿論失格レベルである。
今現在でも、2度とこんなミスはしていない。

2本目

相手が6枚スタート。
私のメンタルとは裏腹に、展開はこれ以上ない展開。実にあっさりと、松賊のおとりでハメて勝ってしまった。

"Congratulations! and sorry for that..."
と言われながら出された手を握りながら、
”Thanks! I"ll never make such a problem!”

と言い、もう2度と起こすまい、と改めて相手に誓った。

9勝5敗。暫定27位。次の最終戦で勝てば20位(2400$)くらい、負ければ35位(1100$)くらいと言うところ。

だが今のメンタルは良くない。このままじゃ次は負けるだろうと思いながら会場で最後の休憩をとっていた。

あ。

さっきの日本人ジャッジだ。
ちょうど休憩中である。

「すみません、先ほどお世話になったジョーです。」

「ああ。わかります」

「先程は本当にありがとうございました。英語がぜんぜん解らなくて、正直どうすればいいかと思っていました。」

「ジャッジは公平が原則だから、あまり日本人の肩を持つわけには行かないけどね。でも通訳くらいなら手助けはしてやれるんだ。
ただ、今回が日本開催で良かったね。海外プロツアーなら日本人ジャッジなんてほとんどいないよ。」

「反省してます。相手とのコミュニケーション不足で招いたトラブルですし、何より相手に勝機を与えてしまった。」

「うん、かなり危なかったね。」

「結果的に勝てましたが、2度と同じことはしないよう気をつけます。それと、英語頑張ります。海外のジャッジやプレイヤーと流暢に話されていて、凄く格好良かったです。」

「このゲームを好きでいられて、英語勉強しようという気があれば、いずれ出来るようになるよ。君はプレーが上手いからこそここでプレーできているんじゃない。また世界でプレーするんであればきっと役に立つよ。」

「ありがとうございます。」

「ジャッジとして特定のプレイヤーを応援は出来ないけど、頑張って!”英語”をね!」

「ハイ!」

・・・今は”頑張って”の部分だけ切り取っておこう。
最終戦へのやる気が復活した。



「・・・ってことがあったわけよ。」
友人と最後のだべり。
「あー。それは確かに気をつけないといけないなー。」
「半面教師にしてくれい(^^;)」
「俺がプロツアー出るときはやらないようにするわ」
「だろー。でもジャッジが通訳してくれて何とかなって助かったんだよ!マジで英語しゃべれる人って格好いいわ。」
「勉強って・・・大事ね」
「うん…そう言えば来週期末テストだったわ。」
「せめて後1試合終わってからそれは考えて。」
「ですよねー。」
「そういや千葉1位は?」

あ、噂をすれば。

「勝った!」

「お、おめでとう!ところで今成績は?」
「10ー4!」

「は?今なんて言った?」

「10勝4敗です!次勝てば文句なくベスト8!」

「えええええ!?すげえ!おーい、千葉の皆さん、私よりもたかれる人がココにいました♪」

流石である。私よりも上位卓で戦っていたので、同点でも有利な立場。11勝4敗ラインのうち何人かはベスト8落ちするが、彼はその心配は全くない。次の試合で10万前後のお金が動く私なんかよりもずっと重いものがかかった試合が待っている。

勝てば100万以上、最高330万。負ければ40万という試合だ。

コイツも。
ゲームだけでなく勉強でも天才だ。英語だってもちろんできる。私よりも年下なのに。
※実際、後に京都大学に入学している。

多分、私が英語がもう少し出来ていたら緊張も幾分ましになってどこかでもっと良いプレイが出来たんじゃないか?
そんなことを思ったその時。

"The final pairings have been announced!"

遂に最後のペアリングが発表された。

そして。

千葉1位はフィーチャーマッチ席に呼ばれた。
ベスト8のかかった大一番だ。当然だろう。

ましてや相手がAnton Jonssonともなれば。

「まあジョーさんだって世界チャンプに勝つこともありますからねー」
と1位様はおどけた。

「ジョーさんだって難敵ですよ!」掲示板の私の組み合わせを指さす。
「おう!お互い頑張ろう!」と言い、私も最後の相手のもとに向かった。

相手はこの卓最大の難敵。

イギリス王者、
Jeff Cunningham。

周りは大変なくじ運だと言うが、正直嬉しかった。

勝とうが負けようが。
最後にも強いプレイヤーと戦えることが純粋に嬉しかった。
バッチリ英語もつかえる本場の相手だし。

"Hi"
"Hello.Let us play last match."

お、ちょっとイントネーションがこれまでと違う感じがする。流石イギリス英語。
この3日間、まがりなりにも英語を聞いたり使ったりしまくっていたお陰で、少しの違いでも敏感に感じるようになっていた。

始まる前、相手はこっちのデッキを念入りにシャッフル。

で。いきなり。Jeffがこう叫ぶ。

”Judge!He passed me 39 deck."

これぐらいなら流石に何を言われたかは解る。

40枚ないといけないデッキが39枚しかない。
1枚落としたとかさっき使ったカードが前の相手のデッキに入っているとかが主な理由。
これが本当なら試合をする条件を満たしていない。
ルール適用度が最も厳しいプロツアーでは、即負けである。

絶対にやってはならない凡ミス。
ましてやプロツアーの最後の試合がこんな結末などお粗末すぎる。

ええええええええええええええええええ?

と思いつつも、私自身そんなことは100も承知なわけでインターバル中にデッキの枚数など念入りに確認している。そんなはずはないが・・・。

ジャッジが来る。
急いで枚数確認。

36,37,38・・・39.
39枚。
ジャッジが数えても39枚だ。
隣の日本人プレイヤーがこっちを見てる。
多分笑われてるんだろな。

”Sorry for bothering, but I confirmed that this deck has 40 cards 10 minutes ago! So please count it once again! Please please please!”
必死に訴えたところ、もう1回チェックしてもらえることに。

で。

36,37,38・・・・・・・・・・・・・・・

39・・・・・・・


40!


やっぱり、1枚、汗でカードがくっついていたため、2枚のカードが1枚に見えてしまい、1枚足りないようになっていただけであった。

"So...no penalty?"
"Of course!You will have extra 10min!"

あ、そうか。
このもめ事で10分経過した分この卓は制限時間10分延長になる。

"Sorry sar."
"No worrys!"

必死の英語の抗議が通じたのは先程の教訓があったからか。

14ラウンドでお世話になったジャッジが少しこちらを笑ってみていた。

さて、これで心おきなく最終戦だ!

1本目。
相手は軽量青白飛行。
私はパワー重視の白緑地上。

軸の違う殴り合いだ。
先手を取った方が俄然有利の試合。
相手は飛行を並べてくる。だがこっちが早い。
相手のハンドも0まで追い詰めた。

勝てると思ったのだが・・・
消耗の渦を2連続で引かれダメージレースで逆転負け。


2本目
初手が悪く6枚に引き直し。
手札に土地は2枚でスタート。土地は3枚で止まってしまい・・・4枚目の土地を見ることは無かった。

幾ら気合いをいれてもどうしようも無いときがある。
それがたまたま最後の試合だっただけのこと。実にカードゲームらしいと言えばカードゲームらしい幕切れだったが、プロの端くれとしてこれまでに闘ったプレイヤーと同じく、精一杯の笑顔で。

"Thank you!Congratulations!"

といって右手を差し出した。

"See you next time! Maybe naxt PT!"
"Hopefully!"


といってJaffと別れた。


千葉1位はどうなった?
フィーチャーマッチエリアに急ぐ。


場には、”山伏の長、熊野”が出ていた。
このカードセットの最強カードであり滅多に出るものではない。出したら大体勝ちである。

それが。

Antonの場に、置かれていた。


私の目に映った千葉1位はうなだれていた。
決着がついたのは、そのわずか3分後のことだった。




「お疲れ様。熊野はしゃーないな。」
「届かなかった・・・もっと練習すればどこかでもっと勝てたかもしれないのに・・・」
「・・・泣くなよ。お前より成績低い俺はどうしろって言うんだ。」

そう言って千葉1位を慰めながら、私も大会を振り返る。

どうすればもっと勝ち星を取れた?
どんな準備が不足していた?
大会で感じたことは?

少なくとも第2~第4ドラフトのプレイングやドラフトでは負けていなかった。
あのパフォーマンスを常に出せるようなトレーニングをしよう。それをすることは実力の底上げに他ならない。他には?実力を出せるようにするには何が必要か?

あ。

英語を話すことに気を使ってプレーに集中できないことがあったな。

次回はもっと英語が出来るようになって集中出来るようになろう。ジャッジもそう言っていた。

・・・本気で英語をやろう。
私が決意を固めたのはこの大会があったからだ。




こうして。


私の初めてのプロツアーは9勝6敗、30位半ば、賞金1000ドルちょっとで幕を閉じた。

この試合で一時的に入った集中の感覚。いまでも勉強中に当時の空気や緊張感を思い出すと短時間だが効率が上がるときがあるのはうれしい土産だった。

なお、この大会後、原因不明で2日ほど高熱を出して寝込んだ。

・・・20歳にもなって知恵熱でも出たんだろうか?



その後。

約束通り友人たちと牛角でパーティ。10人で5万円という大学生にしてはとんでもない金額を支払った。この時のレシートは今でも私の宝物だ。

結局私は無事大学を留年せずに卒業するためにゲームから遠ざかり、大学院を修了し就職する事になる。

だが、この大会で得た経験、世界の凄い人との出会い、そしてそんな人ともっと話したい・・・そんな経験や思いのお陰で真面目に英語を勉強することが出来、遂にはTOEIC900を達成できた。


今では通訳も出来るエンジニアとしてそれなりの企業で働かせて貰っている。英語つながりのサークルで出会った妻と結婚し、子供2人と4人でそれなりに幸せな生活を送れている。




つい先日。
息子がこう言った。


「パパー。ポケモンカードやってみたいんだ!一緒に始めようよ!」

それを聞いて家内が吹き出すのをみて私はこういった。

「パパは強いぞ。」



・・・これが。

”わたし”というあるTOEIC900ホルダーの、

ちょっと特殊な、

英語を頑張った理由です。






さて、あなたの英語の勉強の動機は何でしょう?




お付き合いいただきありがとうございました♪






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