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20XX年のダンス

ベッドに半身をもぐりこませたまま読みかけの本でもしこたま読んで想像しうるかぎり最上の文化的で知的な週休2日制を満喫してやろうと思っていたのに、ワクチン2回目の副反応をどうやら甘く見ていたらしく全身の激痛と39℃越えの高熱に土日丸々うなされて結局きょうも有給をとった。昼食をとってもうここ数日で何度目かの解熱剤を飲んでからはようやく平熱+α程度まで落ち着き、ひとまずほっとした。子どものころちょっとあこがれた病気がちの子なんてのは本当に大変なものだよとあのころの自分を引っ叩いてやりたくなる。まあコロナに罹るよりずっとましだが、まったくどうしてこんな目に遭わねばならない世の中になってしまったんだと2019年が恋しくなる。

もとより、飲み会もパーティーもほとんど無縁なのだから他人との交流にはさほど困っていないものの、気軽に旅行にいけないのがやはりもどかしい。ひとりで特に観光地にも寄らず川や洞窟をうろつくだけならいい気もするが、気が小さいので宿泊先の身分証明の「おところ」欄に「東京都」と書くのがいやで狭い23区にじっとしている。「政治と宗教と野球の話をするなというが、これからはそれにワクチンと旅行の話も加わったな」という言説をSNSでみかける。笑ってられない。

仕事に向かう途中のバスの中で、だれそれさんが来週から家族で石垣島に行くんだってさという話し声を聞いてうわ、と思う。先の言説にふくまれているのは、好きだった人を嫌いになりたくないって要素が理由のほとんどを占めていると思う。この逆で、こうやって年寄りでもないのにあーだこーだとダメ出しばかりする人間は、石垣島トラベル組からはたいそう狭量なやつだと思われてるんだろうと考えるとつくづく人の意思を動かそうとするのは難しい、というかほぼ不可能だねと思う。中央がぶっ壊れている以上、これから加速していくであろう自給自足(自業自得)社会に向けて、猫の額ほどしかない我がベランダで野菜でも育てるかな。

臥せってばかりいるのも腰が痛かったので、ぽこぽこ鳴り止まないメール通知を切ってもう何度目だか忘れたがキャメロン・クロウ『エリザベスタウン』を観た。ここ半年くらいは新しい映画を観ようって気力も時々しかわかず、一度観たものばかり繰り返し再生している。あなたにおすすめですよって勝手なチョイスで、サブスクリプションで配信されていない映画が観たい。都合のいいファンタジーガールだって一方では酷評されてるこの映画のキルスティン・ダンストはそりゃ魅力的で、神出鬼没だろうとなんだろうと構うもんかという愛のパワーで押し切ってくれるからすがすがしくていい。クレアみたいになりたいとずっと思っているが、クレアみたいな実在の人物を知らない。なりたいって気がしているだけかもしれない。だれだってファンタジーガールの導きで旅に出たい。

「悲しみに屈するのは簡単よ、そんな暇があるなら独りで踊って」。

ラスト15分足らずのロードムービーはもう3時間くらいあったっていい。旅に出ることも歌ったり踊ったりするのにも、すべてのことに理にかなったわけがあると思う。多数決に抗ってほそぼそと何かを訴えるのを、前はたいして意味のないことと決めつけていたけど、そういうささやかな植樹のおかげで残ったものを少なからず享受して生きているとわかってじぶんの浅薄さを恥じた。バタフライ・エフェクト。あなたもわたしも存在しているだけで何かの命運をにぎっていると思ったら、生きてるあいだくらい勝手にしやがれって、わざとらしく両手でシャッター切ってみせるよ。

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