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プライバシーに配慮した顔認識システムの方向性

いまや防犯カメラは、屋外・屋内のいたる場所に設置されて、市民の安全を見守っている。日経ビジネスの記事では、2018年の時点で国内にある防犯カメラの数を500万台と推計しているが、コロナ禍では、3密回避の遠隔監視システムや、無人の入室管理システムとしても設置台数は増えている。

三菱電機は8日、鉄道車両内の混雑度や翌日の混雑度合いを予測する実証実験を始めると発表した。駅構内と鉄道車両内に設置した防犯カメラの映像を独自の人工知能(AI)技術で解析し、現在の車両内の混雑度を計測する。乗降実績などのデータも使って、直近や翌日の混雑度も予測する。(日経新聞2020/10/8)

防犯カメラの導入が最も進んでいるのは中国で、コロナ感染対策のカメラソリューションも次々と開発されている。中国で各種の監視カメラを開発する「Zhejiang Dahua Technology(浙江大華技術)」では、世界に向けたコロナ感染対策のソリューションを商品化している。各国の政府が、人が集まりやすい施設や職場に対して、検温やソーシャルディスタンスを義務化する動きに対応したもので、そのチェック作業を監視カメラに任せられるようにしている。

検温ソリューションは、同社が開発する体温監視カメラによって、施設来場者の体温を自動チェックして、設定された温度よりも高い人が通過するとアラートが通知される。同時に30人までの体温検知をすることができるため、係員が非接触体温計で1人ずつ検温するよりも、効率的な来場者の体温監視をすることが可能だ。

また、ソーシャルディスタンス・ソリューションでは、商業施設やスーパー店舗などで、顧客同士やスタッフとの感覚をカメラが常時監視して、設定した距離よりも近づきすぎると、警報音や案内音声が流れるようにして、感染リスクを抑えるようにしている。また、カメラによって店舗内の入店者数を自動カウントして、規定の人数を超している状態では、次の来店者を入店させないようにする機能も提供されている。

Zhejiang Dahua Technology社の感染対策ソリューションは、主に北米市場をターゲットにしており、ロイターの記事によると、Amazonが500台以上のDahua製カメラを従業員の検温用として購入している他、米国内の病院、空港、駅、工場などでも導入されている。

【規制の対象になる防犯カメラの顔認識技術】

しかし、防犯カメラの映像から顔認識する技術については、プライバシー保護の面から規制が強化されはじめている。米国では、カリフォルニア州のサンフランシスコやオークランドなど、一部の地域で、プライバシーの観点から防犯カメラで顔認識技術の使用を禁止する動きが2019年頃から出ている。

防犯カメラの顔認識は、性別や人種差別への配慮から、顔の詳細をぼかした後に、顔の特徴を認識させるように規制が強化されていく方向にあり、どうしても認識精度は落ちてしまう。そこで、顔以外の特徴から人物の特定をする技術が注目されている。

起業アクセラレーター「Y Combinator」の支援を受けて、ウクライナの起業家2名が立ち上げた「Traces AI」というスタートアップ企業は、顔の詳細データは使わずに、髪型、服装、身長、身につけているバッグやアクセサーなど、身体に付随した2000ヶ所以上の特徴をAIが分析する技術を開発している。通行中や建物内の人物がどのように行動しているのかを、高い精度で特定、追尾することが可能だ。

一方で、異なる日に、洋服のコーディネートや所持品が変わった場合には、前回と同じ人物であることの特定をすることが、Traces AIのシステムでは難しいが、逆にそれがプライバシー保護の面からはプラスの効果と評価されている。

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防犯カメラの顔認識技術は、とても便利な機能ではあるが、自宅から一歩外へ出るだけでも、個人の行動がすべて特定、把握されてしまう怖さがある。コロナ禍では、常にマスクを付けて外出する習慣が身についたが、図らずもマスクは、カメラの顔認識から自分のプライバシーを守れる効果もある。やがてコロナが終息したとしても、カメラ監視社会への防御策として、マスクを付けて外出する習慣が無くなることはないのかもしれない。

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