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手に入れた宝物

 彼らが私の家にやってきたのは、ようやく手に入れた薬を眠ったままの妻にどうにか飲ませることができた、その直後だった。間に合った。

 彼らは薬の持ち主だと名乗り、私に盗んだ薬を返すように言ったが、もちろんそんなものは既にない。

 どんな罰でも受けると言う私に、彼らは困ったような顔を見せた。確かにタイムマシンで未来に行って、この時代には無い薬を盗んだのは私だ。それは未来において重罪で、それを他人に飲ませることも罪になる。しかし、飲まされた側の罪を問うわけにはいかない。盗むよう指示したり、盗んだものと知って飲んだのでもなければ、そういうものだろう。

 しばらく相談したのち、彼らは私のタイムマシンを没収し、私の記憶を消すことにしたという。未来に連行されて妻と生き別れになるくらいは覚悟していたが、それならこちらも願ったりだ。

 了解した旨を伝えると、彼らは記憶を消す処置の他には私や妻に一切の危害は加えないと約束した後、私に処置をした。そして……

 

 ふと目が覚めたとき、私はここ最近のことを中心に、何をしていたかなどについて思い出せなくなっていた。しかしそれらは、現代医療では治療法も特効薬もなく、長いあいだ寝たきりの生活を送っていたはずの妻の病気がいつのまにか治っていたことに比べれば、どうでもいいことだった。



 本来その治療薬が存在する時代に戻った男たちは、笑いが止まらなかった。なにしろ、今の時代ならどこの薬局でも安く簡単に手に入る薬と引き換えに、とんでもないお宝が手に入ったのだから。


 裏社会の住人でもごく一部の大金持ちしかしらない闇のオークションで、マイクを手に司会の男が叫ぶように言った。

 「さあ、本日の目玉!史上最初に発明されたタイムマシン!動作確認済み新品同様です!」



 

 

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