百物語(再掲)

「それは、お前だー!!」
「きゃーっ」

 お決まりの一言で締めくくったミホがロウソクを吹き消すと部屋が暗くなり嬌声にも似た笑い混じりの悲鳴が上がるが、すぐに電気がついて明るくなった。

「あー面白かった」
 部屋の電気をつけて戻ってきたマユミが笑うと、ミホは不満そうだった。
「ちょっとは怖がってよー」
「だって定番じゃんあの話。みんな知ってるよ」
「次誰の番だっけ?ロウソク付けるよー」
 ライターを手にヒトミが言うと、トモコが慌てて立ち上がる。
「あ、待って次私電気の番だ」

 もう何日だったか、テレビのニュースでは熱帯夜の連続記録を伝えている。そこで少しでも涼しくなろうと、トモコが仲間を誘って百物語を開いたのだ。

 とは言ってもみんな普段から怪談話を収集しているわけでもないし、うまく怖がらせるノウハウなどを持っていわけでもなかった。出てくるのはどこかで聞いたことのある話ばかりだったしロウソクに至ってはアロマキャンドルだ。手持ちのネタは早々に切れてしまい、スマホで「怖い話」などと検索しては話し、しまいにはロウソクの灯りでは暗いと部屋の電気は付けたままお互いのスマホを覗き込んでは怖がったりあるいは笑い合ったりしていた。そうこうしているうちに数だけはなんとか、という感じで百物語は終了した。多分。4人全員で喋った分を合わせれば100は超えたと思うが自信はない。それでも持ち寄ったお酒の助けもあってかそれなりに盛り上がり、この部屋の住人であるトモコ以外は帰っていった。

「物の怪、出なかったなー」
 トモコが残念そうに言う。百物語を終えると本物の物の怪が現れるとされるが、物の怪だってそうそう人間の希望通りに都合よく現れたりはしない。トモコだって、別に本当に現れて欲しいわけでもないだろう。

「うーん、明日でいいか!」
 ゴミはそれぞれ持ち帰らせたがそれでも多少は散らかってしまった部屋をすぐに片付けるのは諦め、トモコはシャワーを浴びにかバスルームへ行った。結構面白かったし、トモコが戻ってくる前に少し部屋を涼しくしておいてあげよう。

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