2024.09 #02
山は霧雨に包まれている。この場所を隠すかのようにひっそりとした空気と川の流れる音が集中を深める。増水による影響も落ち着き水位は下がり、石を積もうと思っていた土台となる岩盤がようやく川面から現れた。
実は6月に作品を作ってから新作のコンセプトを練ったり、それに合わせた気象条件を待ったり、ロケハンをしていたりでなかなか作品の完成まで辿り着けずにいた。そして今日、思い描いていた全ての条件が揃い川に向かった。念の為、次の日も制作ができるように少し町に下ったところに宿もとっている。あとは段取りを間違えないように理性を優先して動けば作品が完成する可能性はかなり高くなる。
現場にはすでにいい具合に霧が立ち込めていて、集めていた石も揃っている。川の流れの勢いも少しだけ緩やかになり川の中の行き来もおこなえる。装備を身に付けて石を積み始めた。
今回は情景があまり経験したことのないパターンのものだったので、それに併せるデザインは積みながら考えて、全体像に足りない要素の石は後から探して選択肢を増やしていくことにした。
ここからの工程を文章で記すにはわかりずらさと膨大な量になってしまうので割愛させていただくが、今回も対話という名の自己との戦争を始めた。
石の造形は成立し、撮影に移る。光量もいい具合に少なく長秒のシャッタースピードで撮るにはもってこいの状況。流れがそこそこに勢いがあるので重たいジェラルミン製の三脚を川底で微調整しながら構図を固めていく。
そして夜を迎えた。川の両岸にライトを焚き川面と石を照らす。ここからは事前に考えていたコンセプトにはない実験的な撮影となる。光の当たらない周囲は本当に真っ暗で黒と言っていいほどに感じた。霧雨は降り続きライトの光が霧により拡散して美しいのだが、表現の方向性がだいぶ極端になっている気がして、この条件下での写り方の傾向を確認した後、ライトを消しこの日はこれで終了とした。明日も夜明けと同時に川に入る予定だが、町のホテルで撮った写真を確認してみるとかなりいい具合になっている。少し安心した。
いつもの事なのだが身体を日常生活から逸脱したレベルで酷使する為、筋肉の疲労やら疲れ過ぎで当日は眠ることはできない。とにかく休めることを優先する。
翌朝になり川に向かう。昨日と同じ工程を行うも昨日の時点でほぼ満点が出ていた為、今日は積むだけ積んで撮影をして、お昼前には川に一礼をして仮眠を取り帰路に着いた。
完成した作品は過去最高傑作だと思っている。アーティストは毎回自己ベストを更新し続けてこそ生き続けられる。だが次作でこれを超えられる自信は今のところまるでない。
今回完成した作品はこちら↓
https://www.hiroshi-yoshida.com/gallery
ページ一番下の[Solo]という作品になります。
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