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桜井和寿のココが凄い!-最強の作詞論

こんにちはこんばんは。
浪速のミュージシャン、ジウコトモニタです。

今回は誰もが知る国民的バンド、Mr.childrenのボーカル、桜井和寿さんの「ココが凄い!」という歌詞のポイントを解説していきます。

noteでは作詞の方法論を書きながら、時々「○○さんのココが凄い!」という、実際のプロの歌詞を分析する記事も書いていこうかと思います。


ある程度記事の権威性も必要なので、簡単に自己紹介しておきます。


ジウコトモニタ
20代前半…いくつもバンドを渡り歩き、全国的に活動する、そこそこの人気者となる
20代後半…後輩アーティストの育成やプロデュースに携わり、数多くの楽曲を世に送り出す
30代前半…某音楽事務所の社畜として働き、年間200曲以上の楽曲提供をおこなう
30代後半以降…独立してボイストレーニングスクール、クリアボイスミュージックスクールを立ち上げ、ボイストレーニング以外にも「シンガーソングライターコース」(現在閉講)で作詞作曲のレッスンを担当

ということで、プロの目線から桜井さんの歌詞を分析していきたいと思います。


凄いポイント

桜井さんの何が凄いのか、まずはポイントをまとめておきます。

桜井さんの凄いポイント
1.善悪・優劣がない
2.リスナーと同じ目線に立つ
3.弱さを隠さない
4.世の中に希望を捨てきれないでいる
5.青い!(蒼い!)
6.表現が秀逸

それでは一つ一つ、例を挙げながら解説していきましょう。


1.善悪・優劣がない

何かのインタビューでもおっしゃっていたのですが、「例えば僕の息子だって、殺人犯になる可能性はある。誰もが善の心も悪の心も持ち合わせていて、それは常に表裏一体」
いわゆる“罪を憎んで人を憎まず”的な発想というか、悪いことをしてしまったからその人が悪、劣、と決めつけるものではない、というのが桜井さんの考えの根底にあります。

“子供らを被害者に加害者にもせず
この街で暮らすため まず何をすべきだろう”
“左の人右の人 ふとした場所できっと繫がってるから
片っ方を裁けないよな 僕らは連鎖する生き物だよ”
(ともにタガタメ/シフクノオト収録)
“降り注ぐ日差しがあって だからこそ日陰もあって
その全てが意味を持って 互いを讃えているのなら
もうどんな場所にいても光を感じれるよ”
(GIFT/SUPERMARKET FANTASY収録)
“要人を乗っけた黒光りの車 間近で鳴らすクラクションに老人はたじろぐ
色んな人いるな 僕は君のことを思い出してた 横断歩道”
(ワンツースリー/It's a wonderful world収録)
“対象的と思っていても 実はあちこちが似ているよ
今心は裸になりたがっているよ
わがまま過ぎるあなたにも うぬぼれが強いあなたにも
きっと世界はあなたに会いたがっているよ”
(海にて、心は裸になりたがる/重力と呼吸収録)
“どこかで掛け違えてきて 気が付けば一つ余ったボタン
同じようにして誰かが 持て余したボタンホールに 出会うことで意味ができたならいい”
(くるみ/シフクノオト収録)


誰もが多少なりとも間違いは犯す、でも誰もがその人生に意味があり、どこかで誰かの役に立てたり、どこかで誰かを救ったりしているんだ、という考え。
世界中のヒーローになれなくても、きっとどこかでたった一人のヒーローであるんだよ、と、読み手を否定することもなく、責めることもなく、受け入れてくれる。


“ずっとヒーローでありたい ただ一人 君にとっての
躓いたり転んだりするようなら そっと手を差し伸べるよ”
(HERO/シフクノオト収録) 


2.同じ目線に立つ

「ガンバレ!」「立ち上がれ!」

これ系の歌詞って、悩んでいる人、行き詰っている人、絶望に打ちひしがれている人にとっては、時には負担やプレッシャーになりますよね。

アナタが仕事で上手くいかず「もう辞めようかな…」と思い悩んでいる時に、松岡修三が現れて「何を言ってるんだ!ガンバレ!」と言われたらしんどいですよね?
(松岡修三は大好きです)

「そりゃアンタはその立場だから言えるんだよ…」と卑屈になることもあるはず。

でも桜井さんの歌詞は、読み手自身の立場にたってもがき苦しんだり強がったりする。
だから「あ、自分だけじゃないんだ」と気持ちが楽になる。


“向こう側にいる内面とドッジボール
威嚇して逃げ回り 受け止めて弾き返す”
“もう疲れた誰か助けてよ そんな合図出したって
誰も見てない ましてタイムを告げる笛はならねえ
なら息絶えるまで駆けてみよう 恥をまき散らして”
(ともにランニングハイ/I ♥ you収録)

“「明日こそきっと」って戯言ぬかして
自分を変えてくれるエピソードをただ待ってる 木偶の坊”
(天頂バス/シフクノオト収録)
“バブル期の追い風はどこへやら 日に日に皺の数が増えても
悩んだ末に出た答えなら 15点だとしても正しい”
(CENTER OF UNIVERSE/Q収録)

上手く行かない自分を認めてくれたり受け入れてくれたり、上から「ガンバレ」じゃなく、「僕も同じだよ」と語りかけてくれます。

3.弱さを隠さない

上の部分にも通ずるところですが、桜井さんは決して強くない。
だからこそ魅かれる。
もちろん、圧倒的な強さを誇るヒーローもいるけど、どこか脆い部分があると、なんとなく親しみやすくなったりするものです。
より身近に感じるというか。


“きっとウルトラマンのそれのように 君の背中にもファスナーがついていて
僕の手の届かない闇の中で 違う顔を誰かに見せているんだろう
そんなの知っている”
(ファスナー/It's a wonderful world収録)
“ある日君が眠りに就く時 僕の言葉を思い出せばいい
そして自分を責めて途方にくれて 切ない夢を見ればいい”
(渇いたkiss/It's a wonderful world収録)


凄く強がってますが、桜井さんの弱さが見え隠れするフレーズです。


4.世の中に希望を捨てきれないでいる

どこか世の中に絶望感を抱いていて、冷めた目で見る桜井さんもいます。

“時代は混乱し続けその代償を探す
人は辻褄を合わすように型にはまってく”
(終わりなき旅/DISCOVERY収録)

“社会人になって重荷を背負って 思い知らされてらぁ
母親がいつか愚痴る様に言った 「夏休みのある小学校時代に帰りたい」”
(光の射す方へ/DISCOVERY収録)


それでもなんとか生きていこうと奮闘する弱い男を描きます。

“僕らは夢見たあげく彷徨って 空振りしては骨折って リハビリしてんだ
いつの日か君に届くならいいな 心に付けたプロペラ 時空を超えて 光の射す方へ”
(光の射す方へ/DISCOVERY収録)
“皮膚呼吸して 無我夢中で体中に取り入れた
微かな酸素が 今の僕を作ってる そう信じたい”
(皮膚呼吸/重力と呼吸収録)


5.青い!(蒼い!)

もうすぐ50歳。ベテラン、大御所とも言える年齢で、今もまだ進化し続ける。
そしてずっと青い気持ちを持ち続ける。そんなところが素敵。

これは時代背景を追って歌詞を読んでいただくとなおさら感じます。
例えば鬱を発症して活動休止、人生の闇を経験したのちに「It's a wonderful world」というアルバムを作れたり。

“何度でも 何度でも 僕は生まれ変わっていく
そしていつか捨ててきた夢の続きを”
(蘇生/It's a wonderful world収録)


そして50歳間近で作った「重力と呼吸」

“飛び込んでくる嫌なニュースに心痛めて
また時にはちっちゃなことで笑い転げて
一緒に生きていく日々のエピソードが特別に大きな意味を持ってる
そう君じゃなきゃ 君じゃなきゃ”
(YOUR SONG/重力と呼吸収録)


6.表現が秀逸

歌詞に必要なのは、「どこを切り取るか」と「どんな言葉で伝えるか」
この伝える言葉が秀逸。

“今以上をいつも欲しがるくせに 変わらない愛を求め歌う
そうして歯車は回る この必要以上の負担にギシギシ鈍い音を立てながら”
(くるみ/シフクノオト収録)
“歩道橋の上には見慣れてしまった濁った月が浮かんでいて
汚れていってしまう僕らにそっと 虚しく何かを訴えている”
(君が好き/It's a wonderful world収録)
“優しさの死に化粧で笑っているように見せてる
君の覚悟が分かり過ぎるから 僕はそっと手を振るだけ”
(himawari/重力と呼吸収録)
“古い遊園地の観覧車から見慣れた街見下ろし
ほら今日までの僕らに小さくエールでも贈ろうか”
(箒星/HOME収録)


歌詞というのは(特にプロの歌詞というのは)、多くの人が「分かる!」と共感できる、つまり、誰でも思うことを、誰もが考え付かない切り取り方や表現の仕方をすることが大切です。

カレーは誰でも作ることができるけど、「あそこの店でしか食べられない味」というのがあるのと同じです。


それが桜井さんの歌詞の“味”だと思います。

是非参考にしてみてください。


最後までお読みいただきありがとうございました。
ジウコトモニタ

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