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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】兵庫県淡路島の〝首折れ観音〟『世界平和大観音像』

 廃墟マニアや巨大物マニアなどの間で「首折れ観音」という名で知られていた「世界平和大観音像」(兵庫県淡路市)が解体されてしまった。巨大物マニアはもちろんのこと、探検マニアやからも落胆の声が上がっている。

高さ約100m。淡路島の名物だった

 淡路島に住んでいる人なら知らない人はいない「世界平和大観音像」が建設されたのは、1982年のことになる。地上高さ約100mを誇るこの像は、当時、“世界一の高さを誇る観音像”として人気の観光スポットになっていた。ところが次第に物珍しさがなくなっていくと来場客は激減。2006年には経営が行き詰まり閉鎖された。その後、地元出身の所有者で資産家だったオクウチグループの創業者、奥内豊吉氏が亡くなると放置されたままになっていた。

遠くからでも目立つ

 コンクリートで作られている大観音像は、はるか2キロ先からも見ることができた。その姿は、どこから見ても”立派”なものだったと言える。しかし、長年放置されていたことで老朽化が進み、外壁の一部も剥がれ落ちていた。近寄って見ると、ちょっと可哀想に見えてしまうくらいだった。2020年3月末に国が所有者となると、解体が’検討されるようになる。

 今回、解体工事を請け負ったのは、大阪市にある建設会社で、8億8000万円で落札している。日本一の高さを誇る観音像だけあって、〝難工事〟だったようだ。

 「もう5年以上前のことになります。友人と館内の探索をしたことがあります。目的は、首の部分にある展望台に登ることでした。当時は、まだ入ることができたので、一気に上がることができましたね。展望台から見る形式は、もう最高でした。潮風も気持ちよかったです。こんな快適な廃墟は他にはありませんよ(笑)。本当にその末期は、観光業界からもそっぽ向かれた施設でしたけど、探索は、とても面白かったです。資産家だった(故・)奥内豊吉氏が集めた宗教的なコレクションもまだ残されていて、B級感たっぷりの廃墟でした。あのときは、ここに〝住んでいる〟男性がいましたね。最初、僕らの来訪に驚いていたのですが、段々打ち解けてくると、塩ラーメンを作ってくれましたよ。とても美味しくていい想い出になりました」(四国在住の廃墟マニアの男性)

ミュージアムも好事家にはたまらない場所だった

 この観音像の台座部分となるビルの1階には、豊清山平和観音寺があった。表向きには、宗教施設だったからだ。しかし、実際には、宗教施設というよりも、資産家が手がけたミュージアムのようになっていたようだ。建立記念碑には、「全世界の平和と繁栄と万民の幸福を祈願する」と記されていた。

 廃墟マニアはもとより、巨大物マニアなどからも親しまれていた「世界平和大観音像」。筆者は、解体前に撮影することができた。もう2度と拝むことができないのは残念ですらある。

2022年に完全撤去された


写真・文◎酒井透(サカイトオル)
 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
 90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
 著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。

https://x.com/toru_sakai

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