最近の記事

見えない | 詩

メモ書きに使っていたRollbahnは 使い終わってみると2020年の手帳だった すぐに用がなくなる言葉で埋めつくされたそれの 黄色のあざやかな表紙をすこしながめて捨てる 食パンの カビをむしると白いすがたになったから 祈りながら食べる 信じる神がいないとき祈りはどこへ行くだろう もう治らない病の 猫にはありきたりの わたしの猫には早すぎるそれのために 毎日なにを考えていても そのときは未来にある 窓を開ければ猫は においを嗅いで 風に目を細める 庭に樹を植えるならどんな樹が

    • 茶碗 | 詩

      茶碗を不注意で割られてしまった それよりもあたらしい茶碗を選べなかったことが さみしい 茶碗は かならず間違えずにわたしのものを使う わたしのものは わたしのものになったときから わたしのからだの延長になる もう割れないプラスチックのあたらしい茶碗は 左のてのひらに 持つと軽い

      • 眠りそう | 詩

        スマホを持ったまま寝返りをうったらコンセントが抜けて 間抜けにしっぽを生やしたスマホのあかりで挿しなおす 隣に知らない人を座らせたまま電車で寝れる人 日替わり定食を考える人 同じ名前の人に生まれたときに会った やらなきゃいけないと思ってることのうちほんとうにやらなきゃいけないこと やりたいことがやりたいはずだったことになる ラジオを聴きながら眠ると顔も名前も忘れた人が夢に出てくる 毎日きょうの日付がわからない また一ヶ月が過ぎてゆき一年が過ぎてゆき 世界は一生をかけてもすべて

        • 薄らぐ | 詩

          走れたらよかったんだろうか ひとりで乗った電車の窓には海が流れていた 海だったはずだ スマホを握りしめてばかりで遠く深く青い色だけが記憶の隅にあった 10年が過ぎて転がりでてきた記憶 10年が なくしたまま過ぎていった 時間は一方通行で記憶は薄らいでゆく 一度も愛せなかった人がいなくなったらもう二度と愛せないままだろうか 川に浮かんでいたという わたしは花だけを見た 走ったところでなくしたものは戻らないし わたしの足ではそこまで行けない