科学ジャーナリストが古今東西の資料から読み解く、人類の「未来妄想」のあゆみ
科学と人文のハイブリッド。気鋭の作家・茜灯里が描き出す「妄想」とは?
代表作の『馬疫』で第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した気鋭の作家、茜灯里。いっぽうで彼女は、獣医師や科学ジャーナリストとしてのキャリアも併せ持つ、幅広い視野と知見の持ち主だ。
そんな「人文と科学のハイブリッド」を地で行く著者が、今回「妄想」をテーマに描き出したのは、「人類が抱いてきた未来への妄想を辿る」という壮大な物語だった。
「空飛ぶ消防士」に「クジラバス」!?
昔の人々のぶっ飛んだ未来への想像力
「空を飛ぶ技術」も、最初は単なる妄想にすぎなかったという話は、比較的有名だろう。空を飛ぶという誰もが羨む夢に限らず、古くから、あらゆる新しい発明は「だれかの妄想」から始まってきたといっても過言ではない。
突拍子もない妄想の積み上げと、それを実現しようと努力してきた人々の地道な歩みで、今の社会や文化は作られているのだ。
著者は本稿で、そんな「人類が描いてきた未来妄想」の歴史を、ギリシア神話やレオナルド・ダ・ヴィンチの発明、はたまた100年前のフランスで描かれたイラストにいたるまで、緻密な調査をもとに明らかにしている。
たとえば100年前にフランスで作られた未来予想のイラストの中には、「消防士が羽をつけて空を飛ぶ」未来や、クジラにロープをくくりつけて観光バスにする「クジラバス」といった突拍子もない未来妄想がある。
クジラバスについて著者は、ウィットに富んだ分析眼でこう紹介する。
私たちが暮らす時代から見れば馬鹿げた妄想でも、当時の人々は本気でその未来を信じていたかもしれない。それは裏を返せば、私たちが今信じてやまない未来も、時代が進めばどうなるかわからない、ということでもある。
技術がますます急激に進化し、人々の価値観が変わっていくであろう未来は、いったいどんな姿になっているのだろう。それを妄想する営みを「くだらない」と吐き捨てればそれまでだが、未知のものへの想像力を捨てて、私たちは幸福に生きていけるのだろうか。
そんな問題提起と、人間の想像力への明るい肯定を含んだ力作だ。
ほかにも本稿では、100年前の日本人の未来予想を描いたイラストなど、想像力やクリエイティビティを喚起させる20点以上におよぶ資料を掲載しながら、人類の未来妄想のあゆみを辿れる。
24人の『妄想講義』の著者のなかでも特にスケールが大きく、科学と歴史の授業を同時に受けたような満足感が得られるだろう。
ぜひ本編を読んで、自分自身の「未来妄想」の入り口に立とう。
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