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科学ジャーナリストが古今東西の資料から読み解く、人類の「未来妄想」のあゆみ

本記事は、株式会社金風舎が9月30日に発刊する『妄想講義 明るい未来の描き方と作り方』の著者紹介記事です。職業も価値観も様々な24人の著者が、自分・仕事・社会・未来を自由に妄想します。


科学と人文のハイブリッド。気鋭の作家・茜灯里が描き出す「妄想」とは?


代表作の『馬疫』で第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した気鋭の作家、茜灯里。いっぽうで彼女は、獣医師や科学ジャーナリストとしてのキャリアも併せ持つ、幅広い視野と知見の持ち主だ。

そんな「人文と科学のハイブリッド」を地で行く著者が、今回「妄想」をテーマに描き出したのは、「人類が抱いてきた未来への妄想を辿る」という壮大な物語だった。

茜灯里(あかね・あかり)
作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

「空飛ぶ消防士」に「クジラバス」!?
昔の人々のぶっ飛んだ未来への想像力

「空を飛ぶ技術」も、最初は単なる妄想にすぎなかったという話は、比較的有名だろう。空を飛ぶという誰もが羨む夢に限らず、古くから、あらゆる新しい発明は「だれかの妄想」から始まってきたといっても過言ではない。

突拍子もない妄想の積み上げと、それを実現しようと努力してきた人々の地道な歩みで、今の社会や文化は作られているのだ。

著者は本稿で、そんな「人類が描いてきた未来妄想」の歴史を、ギリシア神話やレオナルド・ダ・ヴィンチの発明、はたまた100年前のフランスで描かれたイラストにいたるまで、緻密な調査をもとに明らかにしている。

たとえば100年前にフランスで作られた未来予想のイラストの中には、「消防士が羽をつけて空を飛ぶ」未来や、クジラにロープをくくりつけて観光バスにする「クジラバス」といった突拍子もない未来妄想がある。
クジラバスについて著者は、ウィットに富んだ分析眼でこう紹介する。

「クジラバス(Un Baleinobus)」は、観光船をクジラの下にロープでくくりつけて海中遊覧できるようにした乗り物です。「となりのトトロ」のネコバスはファンタジックでほっこりと感じるのに、クジラバスは動物虐待に見えてしまいます。ただでさえクジラの話題に敏感な現代の欧州の動物愛護団体
は、決して許さないでしょう。また、クジラを操縦しているということは、人と動物がコミュニケーションを取れる世の中を予想していたと考えられます。

本文279ページより

私たちが暮らす時代から見れば馬鹿げた妄想でも、当時の人々は本気でその未来を信じていたかもしれない。それは裏を返せば、私たちが今信じてやまない未来も、時代が進めばどうなるかわからない、ということでもある。

技術がますます急激に進化し、人々の価値観が変わっていくであろう未来は、いったいどんな姿になっているのだろう。それを妄想する営みを「くだらない」と吐き捨てればそれまでだが、未知のものへの想像力を捨てて、私たちは幸福に生きていけるのだろうか。

そんな問題提起と、人間の想像力への明るい肯定を含んだ力作だ。

ほかにも本稿では、100年前の日本人の未来予想を描いたイラストなど、想像力やクリエイティビティを喚起させる20点以上におよぶ資料を掲載しながら、人類の未来妄想のあゆみを辿れる。

24人の『妄想講義』の著者のなかでも特にスケールが大きく、科学と歴史の授業を同時に受けたような満足感が得られるだろう。

ぜひ本編を読んで、自分自身の「未来妄想」の入り口に立とう。

『妄想講義 明るい未来の描き方と作り方』は絶賛発売中です。



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