お粥

七くさ粥とオトオシツキダシオサキヅケ

先日入った居酒屋は、豪快系体育会ノリのやたら元気な店だった。頼もしい兄貴分といった体の店長が店を回し、スタッフ全員を下の名前で呼び捨てにし、すべての指示が大きすぎる声で通達されていた。

「おいコウキ! 〇〇やっとけよ!」

「アミはこれ運んだらダイチのサポートな!」

「ヨースケ! 次の予約は何時!?」

どうやら誰が指示されても必ず全員が返事をする仕組みらしい。「コウキ!」と言ってるのに、アミもダイチもヨースケも「ウエイ!」と答える。それはお客に対しても同じようで、注文しようと「すみませーん」と呼びかけると、同じく全員が「ウエイ!」と声を張り上げる。

活気があるのはいいのだが、返事をするのに忙しいせいか、何もかも遅い。店のドアを開けても「ウエイ!」が飛び交うだけで、誰もきてくれない。「2人ですけど入れますか」と告げても「ウエイ!」とは言ってくれるのだが、席があるのかどうかわからない。やっと席についても注文ができない。コウキを呼び止めても「ウエイ!」と言って去ってしまう。やっと注文できても、そのビールがめちゃくちゃ遅い。

やっとビールがきても、今度は料理が一向に出てこない。さてどうしょう。そこでまたコウキに声をかけコウキに去られ、アミに話しかけアミに去られ...しているうちにようやくダイチと話すことができた。

すみません、お料理まだですか

「今、熱意を込めて作ってますんで!ウエイ!」

あの、このお店はお通しはないんですか? 

「ウエイ! ......オ、オトオシ...?」

あの、お通しとか突き出しとかすぐつまめるような

「オ・ト・オ・シ...ツ・キ・ダ・シ...(ウエイ!)」

席についたら出てくる、ちょっとした小鉢みたいなやつですが

「ああ、お先付けのことですね。ウエイ!今お持ちしますウエイ!カウンターさんお先付け二丁!(ウエイ!ウエイ!ウエイ!)」

「お通し」が通じないのも驚きだったが、先付けに「お」をつけるのはもっと驚きだった。そしてお先付けはついに出てこなかった。

お通しを嫌う人も多いが、私は好きだ。というより、美味しいお通しに出会うのが好きなんだろう。頼んでもいない、勝手に出される料理が美味しい、というラッキーを味わいたいのだ。お通しが美味しい店は間違いなく他の料理も美味しい。料理本編より、序章に過ぎないお通しの方が印象に残っている店も多々ある。

地方の港町によくあるのが、お通しから刺身が出てくること。「お刺身3種盛り合わせ」なんて豪華版が出てきたこともある。

ビールを飲む客と、日本酒や焼酎の客とでお通しを変える店もある。数多くのお通しをトレイに乗せ、お客に選ばせる店もある。お客が「ビール」と言った瞬間に油に素材を入れ、熱々の揚げ物をビールと共に提供する店もあった。お通しが印象的なお店は、どこもまた行きたいと思わせる。

今よく行く店のお通しは、何と「おかゆ」である。量はほんの少しだが、最初にちょっとおかゆをお腹に入れておくだけで、腹ペコ特有のガツガツした気持ちがなくなり、最初から楽しい飲み会となる。お酒の回りも遅くなるから、もっとたくさん飲める→たくさん注文する→お店も私もwin-winだ。うまい方法だ。

偶然にも明日1/7は「七くさ粥」の日。日本で1番おかゆを食べる日である。ちょうどいい、ここで「七くさ粥」の作り方を紹介しよう。

【七くさ粥】

【材料 2~3人分】

コメ 1/2合 / 水 900ml(コメの約10倍) / サラダ油 小さじ1 / 塩 小さじ1/2 /あれば鶏肉など

ピータン/パクチー/腐乳/ニンニク/ブルーチーズ/ザーサイ/ラム肉/ホヤ/臭豆腐 それぞれ適宜

正月の酒やごちそうに疲れた胃を休めるためにも、7日あたりにお粥を食べるというのは非常に理にかなったやり方だ。この1年の無病息災を願い、朝からワシワシ食べて欲しい。なぜか野菜など入れる人がいるようだが、じろまる世界では「7つのくさいもの」が正式とされている。しかも中華粥だ。うまいに決まっとる。

とりあえず冷蔵庫や食品庫から、くさそうなものをチョイスしてみた。くさ世界の有名どころ「シュールストレミング」や「ドリアン」「くさや」などがあればよかったのだが、家になかったのは残念だ。だが臭豆腐の存在が、「くさ感」を格上げしてくれるだろう。「7つの」とか言いながら実際は9種類になってしまっているが、そこは不問に付して欲しい。

【作り方】

1・コメはあらかじめ数時間ほど浸水させておくのがいいが、私のように「あらかじめ〇〇をしておく」ことが苦手な人はもうそのまま煮はじめてしまえばいい。大丈夫、なんとかなる。

2・コメを鍋に入れたらサラダ油をまぶす。これでコメが砕けやすくなる。

3・水を入れる。ここで写真のように手羽先など一緒に放り込んでおくと、だしも取れるし、具にもなるしで便利だ。

4・火にかける。沸騰するまで強火、そのあとは中火で1時間ほど煮込む。焦げないように途中で鍋底からかき混ぜるが、あまり神経質にならなくていい。水が減りすぎたら足す。

5・水分とコメが一体化し、花が咲いたような状態になったら出来上がり。塩で薄味をつけ、好みでごま油をたらす。7くさと一緒に召し上がれ。

くさいものはうまい。みなさんも冷蔵庫の中のくさいものを探して、明日の朝ごはんは「七くさ粥」を作ってみよう。上記の「くさ」以外に、納豆やギンナン、キムチなんかも良さそうだ。そしてできたものをツイッターにハッシュタグ「#ありのままの朝ごはん」をつけて投稿してくれたら、めちゃくちゃ嬉しい。待ってます。

めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。