伊勢うどん2

同居と孫と伊勢うどん

以前にも書いたが、最初の結婚はロクなもんじゃなかった。結婚式を終えたその夕方にはもう、離婚のことを検討し始めたくらいだ。夫にも義父にも義姉にも近所の人たちにも、それぞれうんざりする思い出がいっぱいある。が、やはり義母とのやりとりが群を抜いて多い。たまに思い出すあのときは、義母と過ごした時間と言っても過言ではなかった。

なんだかんだで、離婚するまでには5年もかかった。最大の理由は「自立するための資金不足」によるものだが、「結婚したのなら添い遂げるのが正しい」という思い込みが邪魔をしていた感もある。神様なんか信じていないくせに「神に誓ったこの愛を捨てるのは、人としてどうなのか」と、弱腰だったせいもある。まあしかたない、昭和生まれだもの。

その5年間、義母はずっと変わらなかった。ずっと「息子と同居したい」と願い続け、そのためなら努力を惜しまなかった。嫁を脅したり、嫁実家に圧力をかけたかと思うと、今度は嫁をやたら褒めちぎったりもする。もちろん神頼みはお手の物だ。あまりの奮闘っぷりにほだされ、私から夫に「もう同居してあげようよ」と何度も提案したくらいだ。そのたびに却下されたけれど。

良くも悪くも、義母とはたくさん出かけた。

見るからにインチキくさい占い師のところへ連れて行かれたこともある。「あんたたち、全然子供ができないから先生に見てもらう!」と意気込んで、私を拉致したのだ。いや困った。私は自分のセックス事情について、他人とあまり話をしたくないタイプなのだ。それが親兄弟でも、だ。でもこうなったら言うしかない。

「お、お義母さん、私たち避妊してるんです。夫さんが30歳になるまで子供はいらないって」

だがその声は義母には届かなかった。音声は届いているのだが、理解を拒否されたのだ。まあしかたない。義母にも「聞きたくないことは聞かない」権利がある。そうして私の勇気ある告白は無視されたまま、占い師の家についた。漢字8文字くらいのおどろおどろしい名前のその人は、私のお腹に手をかざしたり、何かブツブツとうなったりしたあと、義母に向かって優しくこう言った。

「お義母さん、辛い思いをしましたね。でも、もう大丈夫。お嫁さんのお腹の中には、今年の6月に子供が入ります。そして来年の8月に、無事に産まれます。男の子です」

義母は泣いた。嬉しさのあまり泣いた。
占い師も泣いた。ウソ泣きをした。

そして私だけが、カンカンに怒っていた。

ちょっと待てや。避妊してるゆうとるやんけ。てか仮に妊娠したとしてもだ。なんで私、14ヶ月もお腹に赤ちゃん入れてんの。にんげんだもの、十月十日で産ませてよ。

さらに占い師は「男の子に名前をつけてあげましょう」とも言った。もちろん追加料金なのだが、初孫の喜びに幸せが突沸した義母にはもう怖いものなどない。ホイホイと金を出し、うやうやしく名前を頂戴した。

命名「虎児」

トラジと読む。焼肉屋ではない。トラ年でもない。タイガースファンでもない。たぶん画数だけはめちゃくちゃ良かったんだろう。知らんけど。


そうそう、義母とのお出かけはいいこともあった。彼女はうどん、特に伊勢うどんが好物だったため、有名店から無名店まであちこちの店に連れて行ってくれたからだ。私は最初からこの柔らかすぎるうどんを気に入り、その後何十年もずっと「あれば買う」「見つけたら食べる」を課している。

本当は伊勢で、しかも専門店で食べるのがやっぱり1番美味しい。だが市販品でもなかなかイケるのが伊勢うどんのいいところだ。大きなスーパーであれば、三重県以外でも売られていることもある。東京在住であれば、日本橋のアンテナショップという手もある。お取り寄せなら確実だ。うどんのコシの差が美味しさの決定的な差ではないことを教えてやろう。

【自宅で伊勢うどん】

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伊勢うどんと書かれたうどん玉 / 伊勢うどん用のたれ / 青ネギ /一味唐辛子
家の伊勢うどんは茹でうどんを使う。私のイチオシは、このセットだ。

家で作るときのコツは、まずしっかり茹でること。目指すは「ふわふわ」食感だ。袋から出してお湯に入れたら、しばらくは触らずに泳がせ、自然とほぐれてから箸を入れるといいだろう。店では生麺から1時間以上茹でるのも珍しくないことを考えれば、家の伊勢うどんに「茹ですぎ」はないと思っていい。

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ふわふわに茹で上がったら、添付のタレをかけて出来上がり。現地ではトロロや天ぷら、カレーなどのバリエーションもあるが、圧倒的に食べられているのはネギだけのプレーンタイプである。ネギは青ネギ。間違っても白ネギを使ってはならない。

そして薬味は、一味である。七味じゃない、一味だ。画像は七味に見えるって? それは気のせいだ。メガネを新しくした方がいい。

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めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。