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財務数値から読み取る「手間いらず」のビジネスモデル転換

みなさんこんにちは!

大手町の企業分析チームで #会計クイズ を作っているにしけいです。

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普段は『やさしい株のはじめ方』運営企業でアセットマネジメントをしながら、#会計クイズ を作問し、個人のTwitterで #30分企業分析 というコンテンツを発信しています。

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0.はじめに

今回は、11月14日の業界地図勉強会で取り扱った「手間いらず」という会社の分析を公開します。

まずは、業界地図の掲載場所をチェックしていきましょう。

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手間いらずは、「eコマース」(p.88・89)の中にある「比較サイト」として掲載されています。

並んでいるのは、比較サイト最大手のカカクコムです。


1.手間いらずの紹介

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手間いらずの事業には、大きく分けて次の2つがあります。

1つ目の事業は、手間いらず事業です。

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もう1つは、比較.com事業となっています。

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それぞれの事業について、さらに詳しく説明します。

まずは、手間いらず事業からです。

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手間いらずの事業内容をひとことで表すと、「宿泊施設の予約管理システム」です。

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宿泊施設のオーバーブッキングを防ぐために、客室の在庫数を自動で管理してくれます。

この説明を聞いただけでも、何となく「便利そう」と感じていただけるのではないでしょうか?

せっかくなので、もう少し手間いらずの存在意義に迫ってみましょう。


手間いらずが登場する前、ホテルや旅館などがどのように客室の在庫を管理していたのかを紹介します。

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たとえば、客室数(在庫数)15のホテルがあったとしましょう。

手間いらずが登場する前は、各予約サイトに手動で在庫を登録していました。スライドのように、サイトAには10部屋、Bには3部屋、Cには2部屋などと在庫を登録していたわけです。

このやり方だと、機会損失オーバーブッキングという2つの問題が出てきます。この辺りをもう少し詳しく説明しますね。


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①機会損失
当時は手動で在庫を管理するため、最も予約が取れそうなサイトに在庫を多めに配分していました。スライドの場合だとサイトAですね。

もし、サイトBに予想以上にユーザーが集まっていた場合、3部屋しか登録していないので、需要に対して供給が足りず、客を逃してしまうかもしれません。これが、機会損失なのです。

②オーバーブッキング
もし仮に、サイトBに載せる部屋数を間違えて「5部屋」としてしまった場合、サイトA〜Cの合計在庫数が17部屋となるため、ホテルが持っている15部屋以上の予約を受け付けてしまいます。

オーバーブッキングをすると、ホテルや旅館の信頼性に傷が付いてしまうので、ホテルにとっては避けたい出来事です。


このような課題を解決してくれるのが、手間いらずのサービスです。正式なサービス名は、「サイトコントローラー」と言います。

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ホテルは「在庫数15」という情報を手間いらずに登録するだけで、サイトA〜Cに在庫数15と表示させることができます。これによって、先ほどの機会損失をなくせますよね。

さらに、各サイトで予約が入り次第、手間いらず側で残りの在庫数を計算し、各サイトに反映してくれます。そのため、オーバーブッキングしてしまうリスクがなくなるのです。

以上の点から、手間いらずはホテルや旅館にとって、「なくてはならないサービス」だと言えますね。


ホテルや旅館の強力な味方である手間いらずは、どのようにマネタイズしているのでしょうか?ビジネスモデルから読み解きます。

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こちらは、手間いらずの有価証券報告書に載っている「事業系統図」です。

手間いらずのマネタイズ方法はシンプルで、手間いらずのサイトコントローラーを導入したホテルや旅館から、使用料金を徴収する方法です。


それでは、具体的な料金体系はどうなっているのでしょうか?

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公式では発表されていないのですが、初期費用月間システム利用料で成り立っているようです。

消費者目線だと「5万円」は高く感じますが、企業からすればかなり安い料金設定だと思います。

おそらく、ホテルや旅館には中小企業が多いため、手間いらず自身がシェアを伸ばすために、料金を低めに設定しているのではないかと推測しています。


それでは、どのようなホテル・旅館が手間いらずのサイトコントローラーを導入しているのでしょうか?
一例が紹介されていたので、みなさまにも共有します。

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老舗高級ホテルシティホテルなど、多数導入実績があるようです。

具体的に名前を出すと、ホテル椿山荘東京や新宿ワシントンホテルなど、知名度の高いホテルも導入しています。


手間いらず事業の説明の最後は、業界の特徴についてです。

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実は、サイトコントローラーには競合が複数社存在しているのですが、楽天系やリクルート系など、大手旅行予約サイトの関連企業が多くなっています。

これらのサイトコントローラーは、基本的には自社サイトとの連携がしやすいように設計されているので、他社のサイトへの在庫登録ができない場合があります

しかし、手間いらずは「独立系」なので、どの旅行予約サイトとも相性が良いように設計されており、複数のサイトに登録したいホテル・旅館にはありがたいサービスです。

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このように「独立系」であることが、手間いらずがシェアを伸ばせた一因と考えられます。


続いて、比較.com事業を見ていきましょう。

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比較.comは、パソコンやカメラなどの最安値比較サイトです。

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価格.comも同じような商品を比較しており、あまり違いを感じませんよね。

次に、比較.comのはじまりを紹介します。

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比較する商品がパソコンやカメラなので、サイトができた当初から現在と同じような商品を扱っていたかと思いきや、はじめは「航空会社のマイレージ」を比較していたようです。

1999年に社長自らが非営利のサイトとして立ち上げたのがはじまりなのですが、2003年に「比較.com株式会社」として創業し、現在のあらゆる商品を比較する総合比較サイトの形が整いました。

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ちなみに、同業他社の価格.comの創設は1997年なので、比較.comの方が後発サービスです


最後に、比較.comはどのようにしてマネタイズしていたのでしょうか?

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ビジネスモデルはとてもシンプルで、広告掲載料が収益源です。比較.com内に商品とユーザーを集め、広告主からの広告料で稼ぐことになります。


以上、手間いらずの2つの事業を見てきましたが、元々は「比較.com」を運営する会社として立ち上げられたため、そのルーツを尊重して業界地図内ではECサイトとして紹介されています。

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ただし、2020年時点においては、手間いらずの実態は異なるようです。

こちらをご覧ください。

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上のスライドは、2020年の売上高内訳を表しています。主力事業は、アプリケーションサービス事業(手間いらず)で、売上高の98%を占めているのです。

創業時から運営している比較.comからの売上高は「インターネットメディア事業」に含まれるのですが、こちらの売上高構成割合は2.7%とかなり小さくなっています。


それでは、過去はどのような売上高構成だったのでしょうか?
手間いらずは2009年まで決算資料がさかのぼれたので、2009年の売上高内訳と比較してみましょう。

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2009年は比較.comからの売上高が全体の62%を占めており、2020年で主力となっている手間いらずの売上高は32%しかなかったとわかります。


つまり、手間いらずは大きく事業転換をしているということです。

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事業構造が変化すれば、その変化は損益計算書にも表れます。

ということで、今回は手間いらずの損益計算書を時系列で比較していきます。

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それでは、問題です!

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手間いらずの2009年と2020年の損益計算書が並んでいます。

2020年の損益計算書はどちらでしょう?


<参考:参加者コメント>





それでは、解答を発表します!

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正解は、選択肢①2020年の損益計算書でした!

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さっそく解説していきます。

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今回の問題は、費用項目の変化に注目していただくと、解きやすかったのではないでしょうか?

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注目ポイントは、広告宣伝費です。2009年にはかなり高い割合で計上されているのですが、2020年には消滅しています。(おそらく、その他販管費に含まれています。)

当然、事業構造の変化が影響していると考えられるので、もう一度、2009年と2020年の売上高内訳を確認しましょう。

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2009年は比較.com、2020年は手間いらずが主力事業なので、それぞれの事業に必要な費用が損益計算書に表れている、と考えれば良さそうです。


それでは、2009年の損益計算書から見ていきます。

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2009年は比較.comが主力事業でしたね。比較.com事業は、情報と人をたくさん集めて、そこに広告を出してくれる広告主から「広告掲載料」を受け取るビジネスモデルでした。

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つまり、いかにして情報と人(ユーザー)を集められるかが、比較.comが生き残る大事な鍵となるのです。そのため、広告宣伝費への投資額が大きくなり売上高に占める割合が高くなります

この時点でも営業利益率は21%あるので業績が悪くなっているようには見えないですよね。では、なぜ事業構造を転換したのでしょうか?

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その答えは、主力事業の不振です。下のスライドは、比較.com事業(インターネットメディア事業)の売上高の推移なのですが、2011年にピークをつけてから売上高が下落しているのがわかりますね。

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この原因は、公式発表によるとユーザー数の伸び悩みだったようです。ユーザー数が減れば、その分広告媒体としての価値が下がってしまうので、広告収入が大幅に減少してしまいます。


それでは、ユーザー数が伸び悩んでしまった理由は何でしょうか?
公式には発表されていないので、私にしけい独自の推測をお伝えします。

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価格.comを使ったことがある方はイメージしやすいと思いますが、価格.comはユーザーのコメントが見れますよね。

もし自分が「ある商品を買おうか迷っている人」だったとしたら、このコメントを読んで買うかどうか判断するのではないでしょうか?

つまり、コメント機能がある価格.comの方が多くの情報が集まるとともに、ユーザーが求めている情報を提供できる可能性が高まるのです。

ユーザーが求めている情報を提供し続ければ、利用するユーザーが増えるので、プラットフォームの価値が上がります。

プラットフォームの価値は、検索エンジンのGoogleがチェックしており、価値が高いサイトほど上位に表示させる傾向にあります。

つまり、ユーザー参加型の価格.comの方がプラットフォーム価値が高いとみなされ、比較.comは検索順位が下がってしまったと考えられます。検索順位が下がれば、さらにユーザーが集めにくくなるため、業績の悪化に繋がったのではないでしょうか。


このように、比較.comの業績が悪化している中で、業績を伸ばしている事業がありました。それは、手間いらず事業です。

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青色の棒グラフが手間いらず事業(アプリケーション事業)なのですが、比較.comに反して売上高が右肩上がりで伸びていますよね。

同社は、今後の成長性を信じて手間いらず事業に経営資源を集中させる決断をしました。

このように、分析の上ではいとも簡単に事業構造の転換を進めたように見えてしまいますが、よく考えればとても難しい決断です。事業構造を転換した結果、失敗するリスクも高い中、なぜ手間いらずは事業構造転換に踏み切れたのでしょうか?


実は、この背景には「訪日外国人客数の増加」がありました。

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日本政府は2020年に訪日外国人客数2,000万人を掲げており今後増えていくことが予見できました

もし、政府の計画通りに訪日外国人客数が増えるのならば、その分宿泊施設の需要が高まります。そして、ホテルなど宿泊施設にとっては、多くの人に宿泊してもらうために、複数の旅行予約サイトに自分たちのホテルを登録したいと考えるはずです。

このような理由から、手間いらずのサイトコントローラーの需要が高まると予想できたため、手間いらずへの集中に踏み切れたというわけです。


この戦略は功を奏し、売上高は右肩上がりで増加しました。

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売上高が右肩上がりで伸びているのは、手間いらずの導入件数が増えてストック売上が積み上がったからです。

ストック売上としたのは、手間いらずのような便利なサービスであれば、一度契約したら解約しにくいサービスだと考えられるからです。自分がホテルの経営者だったらどうするかを考えてみれば自明ですが、こんなに便利なシステム、一度使ったら止められなさそうですよね。


このように事業構造が変化すれば、販管費率も変化します。

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このように、販管費率が大きく下落しています。

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販管費の中身を追ってみましょう。

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濃いオレンジ色が広告宣伝費、次に濃いオレンジ色が支払手数料なのですが、これらの費用が大きく減っている様子がわかります。

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広告宣伝費は比較.comに集客するための費用、支払手数料は比較.comの振込手数料手間いらずの代理店手数料が含まれています。

どちらも主に比較.comに関連した費用なので、手間いらずに経営資源を集中したことで減少しました。

売上高も伸び、比較.comの費用も減ったため、販管費率が下落したというわけです。


続いて、原価率の推移を見ましょう。

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販管費率と同様に、原価率も下落基調にありました。

では、中身はどうなっているのでしょうか?

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どちらもサイトやサービス管理の労務費が中心です。手間いらずに経営資源を集中したので、手間いらずに関連した労務費が増えているはずです。

しかし、比較.comの縮小によってこちらの費用が減少するため、結果的に同じような原価率になっていると考えられます。

こちらは売上原価(実額)の推移です。

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2009年は0.9億円、2020年は1.2億円です。わずかに増えてはいますが、売上高の増加スピードと比べたら、かなり緩やかですよね。

このような理由から、原価率も下落していきました。


原価率と販管費率が下落したことで、営業利益率がどう変化したのかというと…

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営業利益率は急上昇しました。2015年以降の営業利益率の伸びが凄まじく、2020年には営業利益率70.53%まで上昇しました。


それでは、今回の問題のまとめです。

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創業時から運営してきた比較.com事業の業績が落ち込んでしまったため、訪日外国人の増加が追い風となる手間いらず事業に主軸を移しました

事業構造の転換によって比較.comの費用が減少するとともに、手間いらずの導入件数が増加。これに合わせて売上高も増え、費用割合が相対的に小さくなった結果、2020年に営業利益率70%超を実現しています。


このようなビジネスモデルの転換は、決して簡単なことではありません。しかし、手間いらずは将来の成長性を信じて事業構造を変えた結果、業績を大きく伸ばすことに成功しました。業績が伸びれば、当然株価も上昇します。2015年ごろまでは1,000円を下回っていた株価も、2020年には5倍の5,000円付近で推移しています。

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(出典:バフェット・コード

転換期に投資するのは勇気がいる行動ですが、訪日外国人客数の増加が追い風になることを冷静に分析すれば、投資できた可能性もあります。手間いらずは、事業構造の転換期に差し掛かっている企業に投資する際の、重要な示唆を与えてくれる事例だと感じました。


3.最後に

お付き合いいただきありがとうございました!

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以上です!

最後までお読みいただきありがとうございました!

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