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第2版出ます。もう【極論で語る】シリーズで、最薄とは言わせない(第2回)

こんにちは。

いち編集部のリアルです。

いよいよ…です。待ちに待ったと申しますか、河合真先生の『極論で語る神経内科 第2版』が年明けの1月15日にリリースされます。

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初版は2014年刊行ですから7年ぶりの再生。再生という言葉を用いたのは『循環器内科編 第2版』の改訂のときもそうでしたが、【極論で語る】シリーズならではの大胆なフルモデルチェンジだからです。今回は新たに「頭痛」「末梢神経障害」「めまい」とコモンな疾患の章を書き起こしていただきました。目次構成も一変。

さて、刊行を記念して著者の河合真先生にインタビューしました。第1回はコロナ禍のアメリカでの生活や臨床、睡眠研究、4D診療のお話でしたね。ちょっぴり控え目な【河合節】でしたが、第2回目はどうなることでしょう。

河合先生の周到な遠謀に見事にやられた編集部

編集部 河合先生の『極論』は、神経内科編・初版(6刷)も睡眠医学編(5刷)もとても人気がありますね。
河合 おかげさまで、出版させてもらって、本があるって、すごくありがたいですね。学会などで話していても、「【極論で語る】シリーズの河合です」というだけで、話が通じやすいといいますか。
編集部 後日聞かされた話ですけど、先生には当初から周到な遠謀がおありだったそうで、最終的には睡眠医学の本をやりたいから、まずその前段階の取り掛かりとして神経内科に着手されたとか…。編集部はその戦略にすっかりはまってしまった感じですが(笑)。
河合 まあ、それは1つの笑い話ですが、神経内科の次は睡眠医学という想いがあって、そのためにも必死で神経内科を宣伝しましたね。
編集部 初版刊行から7年。神経内科をめぐる状況はどう変わりましたか?
河合 だいぶ状況が変わってきたような気がしますね、初版の頃は変性疾患中心の神経内科というイメージが強かったような気がします。少なくとも僕たちの時代がそうだった。今回の改訂では、監修の香坂先生が大胆に章立てを変えていただいたのですが、

第1部 領域が広がったコモンな神経内科疾患をどう考えるか?
第2部 新しい知見が満載の古典的神経内科疾患をどう考えるか?
第3部 コモンな症候を神経内科的にどう考えるか?

古典的な変性疾患だけでなくて、コモンな疾患をより多く診るようになって、神経内科のプレゼンスが増したといいますか、神経内科の診察技術が大事ということをみんなにわかってもらえるようになり、他科に対して役立つ神経内科の立ち位置が少しは変わったのかな…と思います。それは、やっぱりcommon diseaseを診る機会が増えて、他科と関わる機会も増えたから。脳血管障害やてんかん発作もいろいろな科で起こりうるし、頭痛は内科か神経内科かといわれれば難しいですが、それでも神経内科の専門性が必要なことがありますからね。
編集部 以前に比べて、神経内科のフィールドが広がったということですか。
河合 昔から神経内科には脳血管障害の専門の先生がおられたし、頭痛の専門の先生がおられたので分野として広がったというよりも、神経内科がカバーする領域の認知度がより上がってきたという感じですかね。

なぜ受けたのだろう…その1:「逆をついたのです」

編集部 そして『極論で語る神経内科』は医学書として、すっかり神経内科の定番書となりました。6年間に6刷ということは毎年1刷、つまり毎年ある一定数の読者がお求めになられるわけです。本書は神経内科のエッセンス本ですので、一般的な教科書ではないと思いますが、どうしてこんなに多くの方に受け入れられたと思いますか?
河合 正直なところ、なかなか神経内科の本で、こんなに読まれるって、僕も考えていませんでした。初版を執筆していた頃は、どちらかというと、難しい神経内科の本が多くて、価格も5000円以上だったかな。当時少しリサーチをしたのでまだ覚えているけど、5000円を下回るくらいの価格で、軽く読める神経内科の入門書みたいな本がないかなと探したのです。当時、自分が学生のときにあったらうれしかっただろうな…といった本が、循環器内科や総合内科系の本で少しずつ出始めたのですよ。あの頃はまだ神経内科の分野で、ちょっとくだけた感じの本を出すのを「良し」としない生真面目な風潮のようなものがあって、その逆を突いたから需要があったのではないかと。
編集部 そのような空気感はあったかもしれませんね。ただ、その逆を突くという打ち出し方を本シリーズで見事に体現してくださり、編集部は勝手に【河合節】とネーミングしているですが、専門外の者が読んでもじつ面白い。言い回しがユニークで、ついつい読んでしまいます。それと、論旨が独特で、最後に必ずオチがくると申しますか、見せ方の場面設定や結論に至るまでの文章構成が巧みで、かつどことなくユーモラスなのです。あの解説スタイルは、どこで体得されたのですか? 
河合 ありがとうございます。本当にほめ上手ですね。
編集部 いえいえ、事実です。

なぜ受けたのだろう…その2:「河合節」あの先生から引き継いだ

河合 ほめられて、おだてられて、木にも登っちゃいますが(笑)。自分ではそんなに特別なテクニックを使って書いているつもりはないのですけど。ん~何でしょうね。何か、オチをつけたくなるのかな。
編集部 必ず、オチ、あります。
河合 やっぱり普段教えているときの癖ですかね。カンファレンスなどでも若い先生方にはちょっと面白くしないとっていう心がけは常にありますね。あ、そうそう。
編集部 何か、エピソード、ございます?
河合 京都大学医学部神経内科教授(1988~1999年)の木村淳先生が、僕の京大時代の恩師なのですが、すごい大家の方でしてね。末梢神経の筋電図及び針筋電図神経伝導検査の分野において世界的権威でいらっしゃる。その木村先生はめちゃくちゃ話が面白いのですよ。神経内科といったらどちらかというとお堅い先生が多いのですが、学会講演とかでも木村先生のスライドはすごく凝っているのです。昔はパワーポイントがありませんから、35ミリのスライドです。木村先生のスライドはひと言ポツンとコメントが書いてあったり、不思議なスライドが多かったのです。スライドは作るが面倒なので、多くの方は1枚のスライドにたくさんの文字情報を載せるのですが、木村先生は違いました。今考えると、かなり先進的な作り方をしておられましたね。
編集部 紙芝居のようにテンポよくめくっていくわけですね。
河合 じつはスライドの数そのものは少なくて50分の話で5~10枚のスライドを使われるのですが、キーワードだけだったり、シンボル的なイメージをポンと入れるだけで、スライドを見ただけでは何の話かよくわからないのです。でもその間ずっと話だけで聞き手を引っ張ってしまう。僕はとてもあの境地には達しておりませんけど、木村先生がアメリカや日本で講演するたびに追いかけていたことがあります。何が面白いかというと木村先生の話が

難しい話を簡単にしてくれる

からです。やっぱり神経の話は…ちょっと難しいのです。でも、木村先生が話すとわかりやすい。そして面白くて講演が盛り上がりすぎるので、彼のあとで発表をするのをみんな嫌がるのです(笑)。
編集部 河合節のルーツの源泉を垣間見るようなお話ですね。
河合 木村先生のあとくらいから一般内科の先生方でも「ユーモアを混ぜるとプレゼンが上手になる」とか、「ちょっと自虐的なネタをパワポにいれるとよい」といったノウハウが語られることが増えたように思うのです。

伝えたい気持ちがあるということ

編集部 先生も今や睡眠医学の伝道師のような存在ですから、学会などで講演されると、追っかけ的な方がいらっしゃるのではありませんか。
河合 いやいや流石にそれはないです。でも難しい話をちょっと面白くとか、簡単にかみくだいてわかりやすく伝えたいというモチベーションは常にありますね。きっと「伝えたい」のでしょうね。「自分の考えを残したい」プラス「伝えたい」というのがあって、伝えるためには「相手に受け入れてもらわなければなりません」から、こうやって伝えたら面白いだろうな、こうやって話したら入りやすいだろうな…と考えるのは習慣になっています。
編集部 なるほど。
河合 レジデントたちを教えるときに、よく怒る先生がいるじゃないですか。怖い先生だと、嫌味をいわれたり、怒られながら勉強するみたいな雰囲気があると思うですが、木村先生は絶対にそんなことは言わなくて、「ナントカっていうの、知ってるか? これはこういうふうに考えると、面白くてわかりやすいのだ」とされるので、「ははーん、なるほど!」となるわけです。
編集部 すばらしい指導法ですね。
河合 そういう教授法とか、神経内科の面白さを伝えたいという気持ちは僕の中にもすごくありますね。

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アメリカでチーフレジデントをやっていた時の写真(中央が河合先生)

言葉の定義って、とっても大事

編集部 それと、河合先生の解説の特徴として、てんかんの用語(seizureとepilepsy)の定義があったり、今回新規に書き下ろしてくれた末梢神経障害の章でも「脱髄」と「脱髄鞘」など、言葉や用語の定義解説がとても印象的でした。
河合 何か伝えたい、正しく何かを伝えたいと思ったら、「ん?」て、引っかかることがあるのですよね。言葉の定義をどうしても避けて通れない。そこはいい加減に伝えてはいけない。例えば、脱髄というけれども、髄が脱しているわけじゃなくて、髄鞘の話なんです。実際は鞘(さや)がどうにかなっている話なのに。「脱髄」だと髄がなくなっているじゃないか。こういったことを考えて人に伝えるときに「ん?」て、引っかかることが大事だと思うのです。とくに初学者に教えるときはとても大事。
編集部 先生の論旨のすごいなあと思うのは、そういった用語の定義から入られて、1章読み終わると、末梢神経障害の全体像を言い得てしまうと申しますか、そういう広がりのある解説されてしまうところです。
河合 やっぱりそういうことを頭のどこかでず~と考えているのかな。わかりにくいところをわかりやすくというのは思考の癖ですね。でも執筆の前は今回もいろいろと考えましたよ。めまいの章もね。するとやっぱり、言葉にこだわらざるを得ない。何かを伝えたいけど、伝わらないとき、もしくはなかなか伝えられないときに、言葉の定義なり内包する矛盾を専門家(エキスパート)はすでに受け入れてしまっているのですが、初学者の場合は「難しい」と感じてしまうところがありますよね。その「難しい」をスルーしないところからスタートしないと本は書けません。だって専門家はそういう難しさをクリアし、マスターしたからこそエキスパートになれたわけです。でも初学者はまだクリアする前の段階です。自分が苦しんだところをすっかり忘れてエキスパート目線で説いても伝わらない。だから、

基礎って、じつは簡単じゃない。

基礎は大事だけど簡単じゃないです。特にそれをどうわかりやすく説明するのか。何かを発信するときに、どう伝えれば伝わりやすいのか、いつも試行錯誤しています。ツイッターって、そういう意味で結構「伝える」ことのいいトレーニングになるなあと思っています。
編集部 先生のツイッターは面白いので、毎日チェックしています(笑)。

(次回に続く)

ご清聴(読)ありがとうございました。

2020.12.18.

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