エピソード2

『椎名桔平とジョディ・フォスター』(エピソード2)

こんにちは。

いち編集部のリアルです。

椎名桔平とジョディ・フォスター。

前回は極論で語るシリーズのリハ版をつくるということで、いち編集部のリアルチームが躍起となって、『極めに・究める・リハ』シリーズの総監修の逸材を探し、紆余曲折のすえ、ようやく「イキのいい兄貴(椎名桔平)」を目の前にした瞬間までを述べました(相澤先生,今回もこの呼称お許しください)。

極論ちゃん

今回はその続きです。

その場でまず、『極論で語る』シリーズとは、こういうコンセプトのシリーズなんです、と申し上げたのです。つまり「肩ひじの張らない自由な語り口、イラストや漫画等を駆使しながら、臨床の極論(=正論)を串刺しにするメッセージを発信するアンチ教科書としての教科書、そして多くの研修医の皆さんに読まれるようになっている。そのリハビリ版をつくりたいのです」と。

すると、椎名桔平は静かに口を開きます。

「わかりました。送ってもらった極論も読みましたが、とても面白い本と思います。でもPT(physical therapist)には卒後に初期研修という期間はありません」

(え、…)

誰が読む本とするのか、その辺の話がよくわからないのです

(ちょっと、待ってください…)

いち編集部のリアルは静かに聞き返します。

「すみません、PTの方は卒後、何のトレーニングも経ずにすぐ臨床に進まれるのですか…」

「学校を卒業すると、就職した施設や就職先の病院にあるリハビリ部門の専門に応じて、研鑽することになります。例えば、就職先が運動器障害の機能回復ならば、その道の勉強を自分で進めていきますし、脳卒中リハならば神経疾患や回復期の歩行訓練とか、それらをPTの日々の臨床と自己研鑽で深める、そんな感じです」

「初期研修の2年間、みたいなのはない…」(目が丸くなります)

「ええ。」

「研修医という読者層そのものが存在しない…」(やばい,瞳孔開いちゃう…)

「となります。なのでPTの場合、学生時に自分の進むべき進路をある程度、決めてしまいます。だから誰が読む本とするのか…。そこをお聞かせ願いたいのです」

(しまった!)これがその時の正直な声です。つまり、本の読み手であるエンドユーザーの声(学生調査)まで拾っていなかったのですね。じつは、これには理由があります。

以前、もちろんいち編集部のリアルも医学生向けの教科書企画の際、例えば、学生さん10名に集まってヒアリングしたり、企画取材の際、大学の教授にお願いして、学生さん数名に同席してもらったりして、直接読み手である医学生の声を拾ったことや、アンケートに答えていただいたこともあります。がしかしです。多くの場合、それらの声は参考になるというよりは、学生さんが今勉強している内容の抱負であったり、使っているリファレンスの単なる好き嫌いの表明に過ぎなくて(もちろんその表明にも意味はありますが)、企画にダイレクトに響く(+アルファ)の声となることがあまりなかったのです(あくまでも主観です)。というのは、医学生はとにかく勉強し、吸収しなければならない事柄が多すぎて、もちろん先輩や仲間から本の良し悪しやいい本の評判を聞いたり、あるいは医学書のおさがりをもらったり、さらには自炊もされたりしてある程度の目利き力はあるのですが、要は「テスト、テスト、テスト」、そしてその先にある「医師国家試験をいかにクリアするか」にすべての神経を集中しており、今走っている人に「今どんなフォームを心がけ、靴はどんなのを履いて、歩幅はどうなの…」と聞いても、自分の走りそのものをドローンから俯瞰的に眺めるような眼力を持ちようがありませんから、結局それらの声を拾っても、

企画を後押しするコトバにはならない

のです。仮にその声を分析し、統計したとしても母数が足りませんし、企画会議の席で会社に投資判断を仰ぐエビデンスとしては弱すぎます。アンケートをしても「とにかく安い本がいい」「進みたい専門分野を扱った本がほしい」とか、自分の走りの目先の風景や呼吸感のような感想ばかりとなります。

ま、そうした経験もあり、今回のシリーズ立ち上げ時もPT養成校への学生取材はあえてしなかったのです(もちろん学校で教える側の立場の方には聞きましたよ)。それが裏目に出てしまったのですね。


椎名桔平が静かに口を開きます。

「となると、このシリーズは学生のときの実習時に読み解く本になるのかと…。まだその時点では、学生は自分の就職先や将来就職先で求められるリハビリテーションの専門分野を決めていません。その前の段階で、学生が読む本になるのかな…と」

(兄貴…。もうそこまで考えてくれているのか…)

もう、そこしか話の落としどころがないというようなエッジの効いた読者対象の大転換を、シリーズ監修者として兄貴を口説き落とそうとするまさにその瞬間に(First Impressionの場)行うはめになったのです。お会いする前に考えていた編集部側のシナリオが音を立てて崩れる刹那、相澤先生の絶妙な発想の転換でシリーズコンセプトは新たなシナリオに書き換えられ、新しいニーズと価値創造が付与されたわけです。

ですがね。ぶっちゃけ言いますと、当方もやり手のHも内心のひやひや感、半端なかったです。しかし、あのコメントが本シリーズ脱皮の大きな回転軸となりました。今にして思えば、

兄貴、ありがとう

です。なぜ、ありがとうなのかといえば、PT養成校の学生さんが読む本で、臨床実習時に読む本、まだ進路を決めておらず、将来のベクトルが定まらない段階で読む本。その段階で一番いいアドバイスをしてくれるのは、PT養成校の先生と思いますが、本シリーズは「その先生方が書く教科書の硬派なテイストの対極にある本とするならば、先生からの助言ではなく、リハビリテーションの臨床を先に経験しているPT先輩からPT後輩へ贈るメッセージの本にしよう」となったからです。となるとやっぱり、コンセプトは

イキのいい兄貴が教えてくれるPT臨床の経験談であったり苦労話、その研鑽のすえに体得した臨床知の本

このラインしかないとなるわけですね。椎名桔平が言ってくれたひとこと

誰が読む本とするのか、その辺の話がよくわからないのです

のおかげで、このコンセプトが途端に明確になりました。みかん汁のあぶり出しのように。


本シリーズを手に取られた聡明などなたかは、もうお気づきかもしれませんね。そう、あの表紙はキャンパスノート(Campasシリーズ)のイメージを参考にしています。つまり臨床実習時に学生さんがメモを取るノートのイメージ。

画像1


そしてCGやソフトを使わずにあえて手書きのイラストとしたのは、

臨床実習時に学生さんがメモするカラダの動かし方や関節のシェーマ

を再現したかったからです。あのイラストはphysical therapistの近田光明先生に描いていただいています。『極論で語る』シリーズもそうなのですが、シェーマとか解剖図というのは、CGで色彩豊かに体裁よくつくりこむより,案外「ひと筆書きのイラストのほうが仕組みや構造の概念がシンプルに理解しやすい」という声を耳にします。なので、あえて手書き風のイラスト。

イラスト

そして症例や臨床の実践例はカルテっぽく入れてみたり。

カルテ

大事なポイントは、教科書やノートに付箋を貼ったりしますよね。

伏せん

そして1章読み終わるごとに、章冒頭で掲げた先輩からの極める1~極める4のテーマをしっかり頭に入れると、やがて兄貴のように臨床知を体現できるという意味で、

「極めに・究めると、こんなことができるようになる」

のメッセージを章末におさらいとして提示。

章ポイント

(☝ 章冒頭の極める1~4のメッセージ)

章末まとめ

(☝ 章末の極めに・究めると「こんなことができてしまう」メッセージ)

そして各編の著者先生には、「脳卒中リハ」なら脳卒中の、「内部障害リハ」なら内部障害の、「神経筋疾患リハ」なら神経筋疾患のすべての項目を網羅するのではなく、先輩PTとして、ここだけは押さえてほしい、あるいは、教科書ではこう習ったけど、実際はこうやっている(かも)のようなPT臨床の本音のメッセージだけを項目として選んでほしい、とお願いしました。それはそうですよね、先輩からの助言って、

一から十まで述べませんよね。必要な事柄を、そっとささやいてくれるのが

いい兄貴!

実際、この試みがどの程度、成功しているのか、リハビリテーションの本としては、定番的な見せ方ではないだけにまだわかりません。ただ、執筆いただいた各編の著者先生方も、監修の相澤先生も、この見せ方に確実に手ごたえは感じていただいているご様子です。そこには、きっと、

こういう本のあり方もあってもいいのかもしれない

とする多様性を重んじる懐の広さと深い臨床への理解があるからだと思います。そして先日、ありがたいことに、Twitterでこんな声を見かけました。




「リハビリ関連書籍の「極めに・究めるシリーズ」は新人セラピストにめちゃくちゃオススメしたい! ほとんどの専門書籍は情報量が多過ぎる印象。 けれど、これは臨床における基本的なことがさっと纏められているので入りとしては取り掛かりやすい! ここから、深めたい領域へ進むのが良いかと!」


このコメントを読んだ瞬間、最初に兄貴を目にしたときの光景が目に浮かびました。たった1人の声ですが、届いたのですね。

相澤先生、各編の著者先生方、イラストの近田先生、本当にありがとうございました。そしてやり手のHさんも、よかったですね。


次回(終幕)は、いよいよジョディ・フォスターの登場です。

ご清聴(読)ありがとうございました。

2019.12.14

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