乳がんと乳がん死を減らす方法~検診を受けるより大切なこと~ 2. 乳がん検診は乳がん死を減らさない
ポイント
乳がん検診が広まり精度が上がるほど乳がん死は増えた。
乳がんを減らす行動
乳がん検診を受けない。
まず、前回とりあげた
間違い①乳がん検診を受ける人が増えれば乳がん死は減る
について、乳がん検診を受ける人がいくら増えても、乳がんで亡くなる人は減らないことを証明します。
論より証拠です。
図1の棒グラフを見てください。
日本の女性の乳がん年齢調整死亡率は年々上昇を続けています。
(年齢調整死亡率とは10万人あたり1年に何人亡くなるか、高齢化の影響が出ないように計算した死亡率と言う意味)
乳がん検診の受診率は40%を超えて増加を続けています(2016年44.9% 国民生活基礎調査)。ところが乳がん死は減っていないどころか増えているのです。
これは年齢調整死亡率ですから、高齢化の影響ということはできません。
次に、乳がん死亡率の増加率を加えた図2を見てください。
追記)グラフをアップデートしました👇
急に乳がん死が増えた年にはピンクの丸がついています。
1970年、乳がんで亡くなる人は史上最大に急上昇しました(1年で11%)。
その前年は何があったのでしょうか?
乳がん検診が始まったのです。(参考文献1)
さらに、
1987年 老人保健事業で乳がん検診導入(30才以上に視触診導入)
↓
1988年 乳がん死 6.7%増加
2000年 50才以上にマンモグラフィー導入(30・40代は視触診)そして、ピンクリボン運動開始
↓
2001年 乳がん死 5.0%増加
2004年4月 40代にマンモグラフィー導入
↓
2004年乳がん死 7.2%増加
乳がん検診が拡大され、早期発見の精度が高まったその年または翌年には、乳がん死亡率は大きく増加したのが事実なのです。(なぜ早期発見で乳がん死が増えるのかは、これから明らかになっていきます)
現在では、1969年ごろから日本で行われた乳がん検診、いわゆる視触診(おっぱいを目で見て手でもんで乳がんを見つける方法)は乳がん患者の生存率を上げないことは「医学的」にも認められています。(参考文献2)
ちなみにそのことが日本で発表されたのは1987年、英語論文は1989年です。
老人保健事業で乳がん検診導入されたのがちょうど1987年~1988年。
つまり、乳がん検診は乳がん死を減らさないと『科学的』に発表された同じ年に制度化され、30代女性にも拡大されたのです。
そして欧米ではとっくに廃止された視触診は、なぜか日本では2000年以降も続けられました。
医療関係者やちょっと詳しい方は、「確かに視触診は無効だったが、マンモグラフィーは有効だ」と言うでしょう。
違います。
今行われているマンモグラフィーによる乳がん検診も、乳がん死を減らすことはできないのです。
実際に、マンモグラフィー導入後10年以上経っても、乳癌死亡率は増え続けており、いっこうに減る気配を見せていません。
これまで、乳がん検診はマンモグラフィーを含め、乳がん死を増やしこそすれ、減らしはしなかったという事実。
まずはその事実を知ってください。
実は私は、マンモグラフィーが広まった頃、乳がん検診で乳がん死が減らないことを予言し、某大学大学院のゼミで講演したことがあります。
学生たちは「ガッテンガッテン」とばかりに深く頷いて聴いてくれたのですが、終了後に、私を呼んでくれた先生が
「乳がん検診は有効です!」
と何の根拠も示さずに私の講演内容を全否定されたのには絶句してしまいました。
それから10年以上が経過しましたが、残念ながら私の予言は的中し、乳がん死は今も増加を続けているのです。
「常識」や固定観念は、現実を見えなくしてしまいます。
科学の歴史を振り返ると、コペルニクスやガリレオが地球が太陽の周りを回っていると言った時、多くの人は信じませんでした。
教会から異端裁判にかけられたガリレオの「それでも地球は回っている」はあまりにも有名です。
人間は、自分が「信じたいこと」しか信じません。
そして「信じたいこと」とは、その人にとって「普通」のことです。
「普通」とは、その人のこれまでの経験(習慣)、周りの人の言動(同調)、そしてその人に強い影響力を持つ有力者の言動(従属)によって形成されます。
自分の「普通」から外れることを言われても、ほとんどの人は拒否あるいは思考停止するだけで、受け入れることは難しいのです。
この文章も、残念ながらはじめはほとんどの人には拒否されるのではないかと思います。
テレビやネットやラジオで乳がん検診を受けた方がいいという情報が「普通」に流れているからです。
私の言葉よりテレビの言うことを信じるのが、習慣であり、同調も従属もしやすいからです。
しかし、科学とは現実を認識して論理的に説明することであり、それは習慣とも多数決とも権威とも関係ないのです。
その人がそれまで信じてきたことと違っても、どんなに大多数の医者が言っても、どんなに偉い人が言っても、科学的事実を曲げることはできません。
そして科学的に間違っていれば、どんなに偉い人や大勢の人が言おうとも、乳がん死が増えるという現実を変えることはできないのです。
ガリレオ風に言うなら
「それでも乳がん死は増えている」
ということです。
視触診の効果がないことは、今は「医学的」にも認められています。
つまり、視触診を受けてきた女性たちは、悪く言えば「見られ損・もまれ損」だったわけです。(そして手術されれば「切られ損」です)
日本のがん検診にはこういうことは珍しくなく、胸部レントゲンの肺がん検診も、バリウムを飲む胃がん検診も、がん死亡を減らす効果は「科学的」には否定されていますが、現在も続けられています。(地域によってはすでに止めていますし、欧米ではもともとやっていません)
おそらくマンモグラフィーも同じように、そのうち無効だと「医学的」に「認められる」でしょう。(これまでのペースなら何十年後?)
いったん出来上がったシステムは、間違いだとわかっても変えられるまでに時間がかかる、そういうことはよくあります。
個人的なタバコや朝寝坊から、国家的、世界的なことまで、破滅的に悪いことだとわかっていてもやめられない、
「将来的には段階的に廃止」
などと言いながら、そこから報酬(お金や快楽)を得ることが「普通」になっている人たちはズルズル続けたがるものです。
特に、乳がんの検診や治療を「仕事」にしている人たちは、それが良くないと言われたら困るでしょうし、怒るでしょう。
それは仕方のないことかもしれません。
ただ、これだけははっきりしています。
その人たちのために、あなたの人生が犠牲になる必要は全くない!
ということです。
でも、乳がん検診受診率が高い欧米では乳がん死亡率が下がっているじゃないか?
次は、欧米で乳がん死亡率下がっている本当の理由をお話しします。
下につづく👇
(参考文献1)日本の乳癌検診の歴史と課題 日乳癌検診学会誌(J.Jpn.Assoc.Breast Cancer Screen.)209,18(3)OCT:211-231
(参考文献2)Ota T, Horino T, Taguchi T, et al : Mass screening for breast cancer : Comparison of the clinical stages and prognosis of breast cancer detected by mass screening and in out―patient clinics. Jpn J Cancer Res,80:1028―1034,1989
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