7. 乳がんの原因は遺伝子ではない

ポイント 乳がんは遺伝病ではない。
     人はがんにならない、細胞ががん細胞になる。
     がん遺伝子は全ての人の全ての細胞にある。
     がん遺伝子があるからがん細胞になるわけではない。
     がんは分化。

乳がんを減らす行動 細胞ががん細胞になりたくならない生活をする。

「お母さんも乳がんだったから」
「うちはがん家系だったから」
 そういうことを言う人はよくいます。
 しかし乳がんは基本的に遺伝病ではありません。
 考えてもみてください。


 50年前に比べて、生涯に乳がんにかかる人は3倍以上に増えています。
 遺伝病だとしたら、乳がん家系の女性ばかりが他の女性より3倍以上の子を産んだのでしょうか?


 そんなわけありません。

 ヒトの遺伝子は原始時代からほとんど変わりませんから、遺伝病は時代によって増えたり減ったりしません


 一方、生活は時代によって大きく変化します。
 かかる人や亡くなる人が増えたり減ったりする病気の原因は、その変化した生活の中にあるのです。

1人の人間の全ての細胞は、同じ遺伝情報を持っています
 足の骨になった細胞も、口の粘膜になった細胞も、そして乳がんになった細胞も、もともとの遺伝子は同じです。 
 だから、口の粘膜細胞で遺伝子診断ができるのですし、一つの細胞からクローンという同じ遺伝子を持った生き物を作れるのです。
 がん遺伝子(正確には「がん原遺伝子」)も、全ての人の全ての細胞にあります。(赤血球など核を持たない細胞をのぞいて)
 だからといって全ての人ががんにかかるわけではありません。
 
 遺伝子というのは、言うなれば素質です。
 全ての細胞ががん遺伝子を持っているということは、全ての細胞はがん細胞になる素質を持っているということです。
 遺伝子にないことは絶対にできません。
 どんなに『翼をください』と歌っても翼が生える人間はいません。
 翼の遺伝子を持っていないからです。
 「がんができるのは、がん遺伝子があるから」それはある意味、間違いではありませんが、犯罪者に
「なぜやった?」
 と動機をたずねて
「人間だもの」
 と答えるようなもので、あまり意味がありません。


 遺伝子は進化の歴史の中で、有利な遺伝子を持つ者が生き残り、そうでない者は滅んでいきました。
 今、生きている人たちが持っている遺伝子は、地球の生命誕生から40億年、生き抜き、命を繋いできたご先祖様から受け継がれた、選び抜かれた遺伝子なのです。
 
 がん遺伝子も、例外ではありません。
 がん遺伝子を持たない人類は仮に昔いたとしても、絶滅したと考えられます。
 がん遺伝子を持つことは、ちゃんと意味があるのです。
 そうして進化してきた私たち人間は、37兆個の細胞の集まりです。(参考文献1)
 私たち一人一人は、37兆の細胞という生き物がつくる社会だと言えます。(あと100兆以上の細菌たちも一緒に社会をつくっています)
 細胞たちはその人の全ての遺伝子を持ちます。
 つまり全ての細胞になる素質を持っていますが、ある細胞は脳になり、ある細胞は手になり、あるいは肝臓になり、と自分たちの進路を決めて、1人の人を構成して生きます。
 これを『分化』と言います。
 『分化』とは、職業選択のようなものです。
 例えば、全ての人間は生まれた時に、政治家になる素質(可能性)を持っています。
 しかし、実際に全ての人が政治家になるわけではありません。
 ある人は工場の職人になり、ある人は専業主婦になり、ある人はクルマの営業マンになり、色んな人がそれぞれの役割を果たして、一つの社会を構成して生きます。
 同時に、全ての人は「犯罪者」になる素質(可能性)を持っています。
 「犯罪者」の多くは、特別な遺伝子を持った人がなるのではありません。
 他の全ての人と同じ、産まれた時は可愛い赤ちゃんだったのです。
 
 「犯罪者」が赤ちゃんから「犯罪者」になっていったように、「がん細胞」は、「がん細胞」に分化することを選んだ細胞、あるいは「がん細胞」にならざるを得なかった細胞たちなのです。


がんは分化

 ということです。
 
 「犯罪者」は、社会の秩序を壊す人々です。万引き犯から、国際的なテロ組織まで「犯罪者」も様々います。
 「がん細胞」は、生物の秩序を壊す細胞です。凶悪さも色々です。

「犯罪者」も「がん細胞」も、そうなったのには理由があります
 その理由が、がんの本当の原因です。


 がんの中には、家族性大腸腺腫症のような、遺伝子によりがん細胞になりやすい家系もあるにはあります。
 これは言うなれば、代々続く極道の家系みたいなものです。
 そんな一族はめったにいないように、そういう遺伝性がん家系もまれなのです。


 あるいは、肝がんや子宮頸がんのように、ウイルス性のがんもあります。
 これはウイルスによりがんになる情報を入れられてしまったがんで、言うなればカルト教団によりテロ集団ができてしまうようなものです。
 これもそう頻繁にあることではありません。

乳がん細胞を含む多くのがん細胞ががん細胞に分化することを選んだ理由は、「生きるため」です。
 
 貧しく、まっとうな職業で食べていけないところでは犯罪が多発するように、栄養の足りない細胞、息苦しい細胞、居場所のない細胞、繰り返し傷ついた細胞は、がん化しやすくなります


 例えば、普通の細胞は酸素を必要とします。がん細胞は酸素を必要としません
 酸素を使わず糖だけを使う効率の悪い無酸素代謝でエネルギーをどんどん使って生きます。(参考ウェブサイト1)(参考文献2)
 これは、元の職業で食えなくなった人が、犯罪によって目先のお金を手にしようとするのと似ています。
 そして、十分な酸素を与えられると、がん細胞は消えたり、正常に戻ったりもするのです。(参考ウェブサイト1)
 愛情や人とのつながりを感じられない寂しさ、社会に馴染めない疎外感も、犯罪に走る人を増やします。
 その生体という社会で生きにくいことが、秩序を壊すがん細胞への分化を促すのです。

 「犯罪者」と「がん細胞」には他にも様々な共通点があります。
 例えば、「住所不定無職」です。
 「犯罪者」には社会の中で住む所と役割を定めることができなかった人々が多いように、がん細胞はその人の中で正常な役割を果たすことができず、居場所も失ってしまった細胞なのです。
 細胞環境を整えてあげることで、がん細胞が正常に戻ることが報告されています


 「犯罪者」も必死で生きようとするように、「がん細胞」も必死で生きようとします。
 初めは効いた抗がん剤が効かなくなるのは、「がん細胞」が生き残るために猛烈に進化するからです。
 そして「犯罪者」を逮捕しても、社会が変わらなければまた別の誰かが同じ犯罪を犯すように、「がん細胞」を攻撃しても、原因となる生活が変わらなければまた別の細胞が「がん細胞」になります


 ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが、がんを恐れて乳房と卵巣を切除した話は有名です。
 お母さんを亡くされた悲しみと恐怖は同情に値しますが、これは例えば、
「この国の保育園と化粧品会社の職員はテロを起こす危険があるらしいから、前もって全員打ち首!」
 みたいな話です。


 そんなことが社会で行われたら恐怖政治です。
 全ての細胞が同じ遺伝子を持っていて「がん細胞」になる可能性があることを思えば、しまいには全ての細胞を取ってしまわなくてはならなくなります。


 同じように、早期発見早期治療論は、犯罪者が出たら近所の住人も連帯責任でみんな打ち首(手術)、あるいは全国民に拷問(抗がん剤)みたいな話です。


 犯罪者は毎日どこかしらで捕まったり改心して足を洗ったりするように、がん細胞も毎日のようにどこかしらで出たり消えたりしています

 早期発見が進んでがん細胞1個から見つけられるようになれば、ほとんどの人ががんと診断されて治療を勧められるようになります。それでもがんの原因は取り除かれないので、死亡率は下がらないでしょう。
 誰もが犯罪者になる可能性はあっても、多くの人は犯罪者にならずに一生を終えます。
 なぜでしょうか?
 犯罪者になる理由がない、あるいはまっとうな社会人である方がよいからです。
 
 同じように、がん遺伝子をもっていても、多くの細胞は死ぬまでがん細胞になりません


 なぜでしょうか?


 がん細胞になる理由がない、あるいは正常の細胞である方がいいからです。
 がん細胞になる原因がなければ、細胞はがん細胞にならないのです。
 犯罪者が生まれる社会をつくっているのは、その社会の「普通」です。
 がん細胞がつくられる原因は、その人の「普通」となっている生活にあるのです


 乳腺細胞が乳がん細胞になる本当の原因、それを次回でお伝えします。

👇につづく


(参考文献1)An estimation of the number of cells in the human body. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23829164
(参考ウェブサイト1)The Cancer Oxygen Connection: Oxygen to Kill Cancer https://thetruthaboutcancer.com/the-cancer-oxygen-connecti…/
(参考文献2) Warburg effect(s)―a biographical sketch of Otto Warburg and his impacts on tumor metabolism https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26962452

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