『No surrender』epiosode.25『momentary freedom』

街が華やぐ時間になると彼は現れる。

彼の登場に、辺りの空気は一変し、みんなは彼に注目する。長い髪に濃い目の顔立ち、スラっとした長身を武器に街の女性の視線を集めていた。

Zさんは、モデル顔負けの超イケメンだった。歩く姿や、タバコを吸う姿は映画に出てくるスターのようだった。

Zさんは、人生で出会った誰よりも格好よかった。そのませた出立ちや佇まいは、完全に雲の上の存在だった。格の違いは、彼が纏う神聖なオーラに現れていた。クールで謎めいていて格別の格好良さを持っていた。

当たり前のように、綺麗な女性をモノにしていた。街の女性は誰もがZさんに声をかけられたがっていた。

逆にZさんレベルだと、どんな女性なら手に入らないのか気になるほどだった。

俺はよく話しかけてもらった。
話しかけられるだけで舞い上がった。

(あんなイケメンに生まれたかった)

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夏休みの季節になって、俺は帰省した。

親とよく話し合った。
"スカウトはやめた方がいい"という結論に至った。

でも、学校には戻りたくなかった。

ちょうどその頃、彼女と別れた。
俺はそのまま京都を去ることになった。

京都時代のメンバーとは、しばらくは連絡を取り合っていたけど、Aさん以外、今では疎遠になってしまった。

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夏休み、兄貴が通う東京の大学に遊びに行った。東京は昔、憧れていた町だ。東京でファッションデザイナーになることが夢だった。デザイン系の大学にオープンキャンパスに行ったこともあった。

2度目の東京だった。
俺と弟は、メンズナックルによく登場した渋谷に出向いた。

人が多すぎて倒れそうだった。エネルギーは吸い取られ、少し疲れた。夜のお台場はとても綺麗だった。こんな素敵な場所に住めたらいいなとなんとなく考えていた。

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高校時代の友達とは、昔から頻繁に廃墟巡りをしていた。夏休みにも、みんなで廃墟に行った。

夏の夜風に身を任せ、俺たちは少しだけ解放された。それぞれの大学事情を聞いたりするのが少しだけ辛かった。

その時はまだ高校のみんなと仲良く遊んでいたのに…。

いつしか、みんないなくなっていた。

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夏が過ぎ、行く宛もない俺は、アパレルで働くことにした。接客だったけど、頑張ってみようと思った。でも、明るい店内で声を張ることは、難しかった。俺は接客をうまく出来なかった。バックヤードで作業中、そこの店の人たちは俺の悪口を言っていた。俺が悪いのはわかるけど、聞こえるように言う態度に、俺はキレてしまった。

そのまま店を後にし、辞めた。

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岐阜県にリゾートバイトをしに行った。怖かったけど、なんとなく家に居場所がない気がしていた。

リゾバの内容は完全に接客だった。
本当に嫌だった。

でも、逃げられない環境で精神をすり減らし、なんとか頑張った。だけど、厄介なクレーマーに当たってしまった。理不尽に怒られた。みんなは慰めてくれたけど、やっぱり接客はダメだと痛感した。一応反省文を書いた。

スキー場のバイトで、スキーやボードはやり放題だったが、俺は休みのたびに街まで下山していた。一度だけバスが迎えに来ない時があった。そのまま地元に帰ってやろうと思った。でも、大金を払ってタクシーで施設まで帰った。

接客自体は恐怖ではあったけど、人生で1番楽しかったバイトでもあった。

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3ヶ月ほどスキー場で働き、俺は愛知に戻った。これからの人生に戸惑い、親に相談した。まだ英語への情熱はあった。また京都へ戻ろうともした。だけど、俺は焦って退学を決めてしまったから、もう戻れなかった。

母親は、名古屋にある専門学校を勧めてきた。英語系の専門だった。もう一度だけ神様からチャンスが与えられた気がした。

俺は恐怖心に打ち勝ち、そこに入学を決めることにした。「今度こそは」と意気込んでいた。

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3月下旬、香港へ家族旅行に行った。
ネオンライトが煌めく街並みは、昔思い描いてた風景によく似ていた。

俺は気に入った。いつかまた来たいと思った。俺は春から始まる新生活に不安を抱きつつも、刹那の自由を楽しんだ。

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悲劇は徐々に迫ってきていた。
薬無くして頑張ったのが裏目に出た。
俺は再び、心療内科に通い始めた。

時、すでに遅しだった。
本当の地獄はここから始まった。

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