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【斎藤まさし語る(前編)】歴史が動いた2022 E・マスクの「SpaceX」が狙う新たな世界支配とは?

ーー昨年はウクライナ戦争に始まり、安倍晋三の銃殺事件や、スタンド・オフ・ミサイル保有と防衛費倍増が国会審議一切なしで閣議決定されるなど、激動の年となった。
 世界の新たな戦争体制は何か。IT巨大企業による新たな経済支配に警鐘を鳴らす「市民の党」の斎藤まさしさんに話を聞いた。まず昨年を振り返る。(編集部・朴)

斎藤まさしさん 「市民の党」代表。「市民選挙の神様」の異名を持ち、数々の無所属市民派の議員・首長を誕生させた。民主党政権樹立の立役者でもあり、管直人や山本太郎、嘉田由紀子らを国政に送った。

0,金融資本主義の終焉

 2008年のリーマン・ショックが、銀行を頂点とした100年を越える金融資本主義の歴史を終焉させた。今ほど銀行が、経済への影響力・支配力を失ったことはなかった。
 今は金融分野でさえ、銀行が支配していない。支配しているのは、「テスラ」社長のイーロン・マスクやGAFAМと呼ばれる、巨大IT企業だ。私はこれらを「IT寡頭制」と呼んでいる。アメリカの大銀行資本を系列化し、金融分野でも支配を強めている。今や人々は現金から、PayPayやPayPalなどの決済サービスへ移行し、銀行は給与振り込みさえ独占できていない。
 またかつての金融資本主義下では、銀行は企業融資を通じて全産業への支配力を強めていった。しかし今や企業買収さえ、IT資本家がファンドを使って行っている。

1,コロナとITバブル

 この3年間のコロナ恐慌で世界経済は衰えたが、同時に、歴史上最も急速にIT寡頭制が成長した時間でもあった。資本の集中・技術の独占・データの集積が、金融資本主義とは比べ物にならないスピードで進んだ。
 巣ごもり需要によってネットの利用時間は増え、アマゾンは空前の利益を上げた。ワクチンもIT寡頭制を富ませた。IT寡頭資本でなければ、誰が短期間でワクチンにあれだけの投資ができたか。ワクチンで儲けた会社は、ファイザー以外はみんな小さな会社だ。新興の製薬会社というが、はっきり言えばIT企業だ。
 mRNAワクチン(ウイルスのタンパク質をつくるもとになる遺伝情報の一部を注射するもの)は、IT寡頭制の医療分野における過去最大の投資であり、実験であった。遺伝子技術を使って作られた初めてのワクチンで、DNA技術に対する莫大な投資がなければ生まれなかった。AI、人体拡張と並ぶITの最も重要な成長分野、生物工学だ。
 これは新技術で、安全性も全く検証できていない。過去にも多くの伝染病があったが、こんなに治験もなくワクチンが使われたことはなかった。そのため世界中のメディアが動員され、人類絶滅の危機かのようにコロナ恐怖症をばらまいた。これはIT寡頭資本の金と政治力の成せる技だ。

2,IT寡頭制の危機

 2021年から、世界的にインフレ政策がとられた。まずは一番財政出動をしたアメリカから始まった。コロナで世界的に生産力が縮小している中、金がばらまかれて消費は拡大し、モノの値段は上がった。これは古典的なインフレーションで、人々が豊かになるわけではない。
 そうすると、インフレを止める、つまり景気を悪くする以外の対処法はない。財政出動をストップし、一方で金利を上げる。こうすれば国内市場は小さくなり、人々の購買力は落ちる。
 しかし金利を上げると、株が下がる。投資家たちは株から引き上げて現金に移すようになる。金利が上がれば、金は確実に増えるわけだ。そうした資本のシフトが昨年から顕著になった。
 結果、ハイテク株は4割落ちた。テスラも45%落ちた。そしてこの年の秋、マスクは非公開であるにもかかわらず今まで手放さなかったスペースXの株を売っている。理由は簡単で、資産価値が上がったからだ。

▲スペースXの本社ビル

 マスクがCEOを務める「スペースX」という航空宇宙メーカーでは、「スターリンク」という巨大衛星システムを持っている。マスクはウクライナ開戦当初から戦争に関与し、宇宙衛星をウクライナ上空に多数集中させた。ロシア軍の動向を正確に把握し、高い精度で攻撃を行うことでプーチンを悩ませた。これによりスペースXの注目度は急上昇し、株の資産価値は兆円単位で増していた。
 2019年からのコロナ特需で急速に成長した6大IT資本(E・マスク+GAFAM)=IT寡頭制は、人員を3年間で8割も増やした。だが昨年の末、アップル社以外の5社が、大幅な人員削減を余儀なくされた。これはハイテク株の下落とともに、利益が危うくなったからだ。ツイッター社の人員削減の背景はここにある。それほど2022年は、IT寡頭制の成長が一気に凋落した年だったのだ。
 これによって、世界全体でのM&A(企業の合併や買収)は4割減った。一方で、日本は4割増えている。いかに今の日本が、円安で外資に食い物にされているかが分かる。
 インフレ対策=金利上げによるITバブルの崩壊=世界大恐慌の危機。これこそが、ウクライナ戦争の直接の契機となったのだ。

3,ゼレンスキーがウクライナ戦争へ突入したワケ

 ゼレンスキーが大統領へ就任したのは2019年5月、コロナ禍が始まる前だった。就任直後の支持率は8割を超えていた。彼は、2008年から8年間続いた内戦の終結を公約に掲げて大統領となった。「ロシア系住民の多く住む東部2州に高度の自治権を与え、内戦を終わらせる」というのがミンスク合意で、これの履行を掲げていた。
 ところが内戦は終結できず、コロナ禍も来てしまい、支持率は20%程度にまで落ちた。支持率で言えば、プーチンは6割以上をずっと維持してきた。実は政治的な危機は、ゼレンスキー政権の方が深かった。バイデン米大統領も高いインフレで批判があがる中で、中間選挙を控えていた。つまりアメリカとウクライナの政権の利害は一致していた。ウクライナ戦争はそんな状況の中で起きた。
 貿易戦争はトランプ時代に始まったが、もしトランプ政権が継続していたら、ウクライナ戦争は起きなかったと思う。バイデンは副大統領時代からウクライナの反ロシア勢力と結びついており、トランプはプーチンと近い関係にあったからだ。
 ロシアによる軍事侵攻前の2021年9月、現在ウクライナのIT軍を率いている副首相兼IT担当相のミハイロ・フェドロフが、ゼレンスキーを連れてアメリカを訪問した。ここでIT寡頭資本家たちと個別に会っている。彼らの支持を取り付けられなかったら、戦争へは踏み切れなかった。

ウクライナ・フェドロフ副首相

 この時、ウクライナ特殊部隊を中心とする数百人の軍人も訪米した。彼らはスイッチブレード(無人突撃機)やジャベリン(歩兵携行式多目的ミサイル)などの、後にウクライナ戦争で使われた最新兵器の訓練を受けた。
 ウクライナ政府は開戦1週間前までに、研究機関や民間のデータを含めた、国家を維持するために必要な全てのデータを、アマゾンとグーグルとマイクロソフトのクラウドへの移行していた。去年の6月、アマゾンとマイクロソフトのレポートにより表に出てきたことだ。
 ロシアが開戦直後にウクライナの何を叩いたか。クラウドと通信網、それからインターネットが使えないように地上局。これらを最優先に攻撃して潰した。ところが既に戦争準備は済んでおり、データはIT寡頭資本のクラウドに移し終わっていた。
 スターリンクの電波を受信するための軍事用端末は、前線に配布され、民間用端末は全土に配られていた。スイッチブレードやジャベリンも、既に持ち込まれていた。

ミサイル「ジャベリン」

4,「21世紀のパールハーバー」

 昨年の2月24日、ロシアによる軍事進攻が始まった。これはウクライナがNATOへ加盟する申請期限を2月28日に設定したからであった。つまり、データ移行の完了日はこの1週間だったということだ。データの移行完了を前提に、申請期限を設定したことになる。
 しかしこれは同時に、すでにウクライナが独自に国家を維持する基本条件を失っていることを意味している。今の時代、データなしに国家運営はできないからだ。
 プーチンが最終的に、2月24日の軍事侵攻をいつ決断したか。決定的だったのは、バイデンの「米軍は軍事侵攻があっても派兵しない」の一言だった。あれは「ロシア軍がウクライナに入っても、アメリカは直接手出ししない」というサインだ。また、アメリカは集めた情報でロシアの軍事侵攻の可能性も一生懸命宣伝していた。普通ならあんな軍事秘密情報を公開するのはありえない。プーチンはこうしたバイデンの戦略にまんまとはめられたのだ。
 「歴史は繰り返す」と言うが、これは明らかに太平洋戦争でルーズベルト(米大統領)が日本をパールハーバー(真珠湾)に引っ張り込んだのと同じやり方だ。バイデンはルーズベルトを真似している。
 ゼレンスキーのスポンサーは、テレビ局のオーナーでもあるイーホル・コロモイスキーという男だ。彼のテレビ局は、役者時代のゼレンスキーが大統領役を演じたドラマを放映していた。彼はウクライナ最大のオルガルヒ(新興財閥)で、私兵を使って東部2州でロシア系住民を虐殺したと言われている。
 旧ソ連のオルガルヒたちは、多くは当時の共産党幹部だが、ソ連崩壊で国家資本が民営化される際にそれを簒奪した。ロシアではプーチンが最大の国家資本を握り、圧倒的な力でオルガルヒを束ねる頭目になっていった。
 そして最近、ウクライナで汚職問題が騒がれ出した。これはゼレンスキーがパトロン(経済的な後援者)を切ることが、戦車供与の条件にされたからだ。民族資本家からIT資本家へ、パトロンの乗り換えを要求されているのだ。
 これでウクライナは、政治的にもIT寡頭制の半植民地になった。そしてゼレンスキーは戦争のエスカレーションへ踏み切り、ウクライナ戦争を新しいステージに押し上げてしまった。

コロモイスキー氏

5,イーロン・マスクの衛星

 近年、マスクはロケットの垂直着陸技術を開発し、同じロケットを何度も打ち上げられるようにした。これで衛星の打ち上げコストは激減した。この技術が無ければ、短期間に4000個もの衛星を打ち上げることはできなかった。これがマスクがIT寡頭制の中で持っている最大の優位性であり、戦略・戦術の抜きんでているところだ。
 昨年末、日本政府が「反撃能力」として、スタンド・オフ・ミサイルの開発と量産を行うと決めた。これは射程が1000㎞を超えるとされる。だが、これは宇宙衛星がないと使い物にならない。そうなると「スペースX」の衛星に頼らざるを得なくなる。日本にも衛星があるが、比べ物にならない。

スタンド・オフ・ミサイル

 スペースXの低軌道衛星は数が多く、通信障害が起こらないギリギリの高度にあるので、速度は早く、精度も高い。ミサイル開発も、結局はマスクを稼がせることになる。すでに昨年、携帯会社のauがスペースXと契約し、4月から東京都も(災害対策用として)契約する。

6,新しい戦争の火種

 中国も含めた世界は、コロナで一気に経済恐慌に入った。それまでの中国は30年以上経済成長を続けてきた。だが官僚制国家資本主義の弱点で、官僚化してしまった。国営企業は破綻せず、市場の競争にさらされることもない。身分が保証されている党幹部たちは、国営企業の成長にやる気が出ず、成長は鈍化した。
 習近平の最大の失敗は、成長した自国のIT寡頭制に恐怖し、収奪して抑えてしまったこと。そしてゼロコロナ政策だ。この2つが一気に中国の経済成長を止めてしまった。
 昨年、中国は人口が世界第2位に転落した。現在の1位はインドだ。人口減は経済の衰えを表している。習近平体制下の10年で、中国の経済成長率は下がり続けている。だから世界大戦の可能性がある。経済危機なのがアメリカだけで、中国が成長し続けていれば、戦争は拡大しない。
 これが「第4次帝国主義戦争」に転化する危険がある(第3次は、79年ソ連のアフガン侵攻~91年ソ連崩壊までと私は考える)。その場合、主役は米中のIT寡頭制と国家資本主義、世界の2大支配階級の戦いだ。新たな戦争の階級的な本質だ。 そしてロシアとウクライナという形で始まった戦いの行く末は、米中がどう動くかで決まる。
 戦争を見る時は国単位ではなく、資本家と人民という階級に注目するべきだ。しかし階級は、いまだに民族性・国家を超えられない。だから国家間戦争の形をとるが、国家の支配階級がいて、実際は彼らの利害で起こっている。ここをはっきりさせておかないと、排外主義になったり、彼らに取り込まれたりする。
 昨年から、新しいスタグフレーション(景気後退と物価上昇が同時進行する状態)危機が始まった。これが新たな世界金融大恐慌になるかはともかく、世界中で景気後退が起きることは確実だ。これをどの国も経済の軍事化でカバーしようとしているが、どこまで可能かは誰にもわからない。さらなる戦争のエスカレーションになる可能性が高い。
 だから5月に行われるG7広島サミットは、戦争の長期化とエスカレーションについて協議・決定をする可能性が高く、まさに戦争サミットと言うしかない。(次号に続く)

(人民新聞 3月20日号掲載)

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