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【フクシマ通信】原発事故から7年半を過ぎた福島の今

あぶくま97条の会 遠藤智生 人民新聞1663号2018年11月5日

福島原発の汚染水の海洋放出は論外

私は福島第一原発から30キロ圏内に住んでいるが、被災地内外の動き─原発事故からの避難民の帰還と「復興」─が慌ただしい勢いで進められている。

 2020年の東京五輪で野球・ソフトボールの一部試合の福島開催決定や、震災・原発事故で損壊した家屋や施設の解体と復興住宅や新たな公共施設などの建設で、大きく変わってゆく街並みなどがそうだ。めまいがする思いの日々である。

 そうした福島から、定期的にレポートを送らせてもらうことになった。 最初に、事故から7年半が過ぎた福島の状況を紹介しようと思っていたが、編集部から「汚染水の海への垂れ流し問題についてなど、最新のニュースを地元の視点から紹介してほしい」との要望があったので、今回は、(1)福島原発の汚染水(トリチウム水)の海洋放出問題、(2)放射線モニタリング体制縮小問題、(3)福島第二原発の廃炉問題、について紹介することにしたい。

 現在、福島第一原発の構内には、約92万トン、タンク約680基分の汚染水タンクが立ち並んでいる。汚染水は今も増加しており、タンクに貯めこんでおける汚染水の容量にも限りがあるとして、国は、何らかの形での処理を急ぎたいのである。検討の結果、水で薄めて海に放出するのが最も合理的、という判断を出した。

 タンクには、多核種除去設備(ALPS)でトリチウム以外の放射性物質を取り除いたとされる汚染水が保管されている。ところが処理はしたものの、処理後の水から海洋放出できる法令基準を上回る複数の放射性物質(トリチウム、ストロンチウム、ヨウ素など)が検出されたのである。東京電力は、これらの汚染水を再浄化する方針だ。

 10月5日、更田豊志原子力規制委員長が福島第一原発を視察、マスコミの取材に次のように答えている。「科学的な意味では、再浄化と(より多くの水と混ぜることで)希釈率を上げることに大きな意味の違いはない」「(再浄化は)絶対に必要だと規制当局として(東電に)要求する認識ではない」。何とも東電寄りで住民無視の姿勢ではないか。

 トリチウム水の海洋放出について、8月30日に福島県富岡町で公聴会が行われた(翌31日には郡山市と東京都内でも開催)。公聴会では国の方針に反対する意見が続出。新聞から反対の声を拾ってみる。

 「国民の理解を得られていない現状では、県漁業に壊滅的打撃を与えることは必至で、強く反対する」(福島県漁業協同組合連合会・野崎哲会長)、「試験操業の実績を積み上げてきたのに、トリチウムの放出により、なし崩しにされることに恐れを感じている」(漁師の小野春雄さん)、「タンクなどで陸上保管を進めることが現実的だ」(佐藤和良・いわき市議)。

―以下1664号より

国家の相貌が見える放射線モニタリング撤去

 福島県内各地に設置されている、モニタリングポスト。日常の暮らしのなかで常に環境放射線量を知らせるモニタリングポストの存在意義は小さくない。「周りをきれいに除染しているから、線量が低く出ている」「実際の数値より低く表示されるように操作しているのではないか?」などの批判や疑問はあるものの、放射能汚染を可視化させ、意識させるという意味もある。

 原子力規制委員会は2021年3月末までに、福島県内(避難指示区域12市町村を除く)に設置されたモニタリングポストのうち、0・23μSv/h(国の除染基準)を下回る地点で、「リアルタイム線量測定システム」と呼ばれる約2400台を撤去する方針を固めた。 規制委員会は、「線量に大きな変動がなく安定しているため、継続的な測定の必要性は低い」と説明している。また、モニタリングポストの運営費が2020年度で廃止予定の東日本大震災復興特別会計から出されているため、「財源上の制約がある」とも言う。

 しかし、汚染の残る地域での事故(昨年4月に起こった浪江町・十万山の山火事が記憶に新しい)や、第一原発の廃炉作業(ロードマップ通りにできるとは、とても思えない)が進むなかで、新たに放射性物質が飛散する恐れは大きい。

 実際に2013年、3号機のがれき撤去作業によって舞い散った粉塵が、南相馬の米を汚染。前年は出荷可能だった田んぼの米が出荷停止になる、という問題もおこっている。モニタリングポストはこうした汚染の影響を知る一つの目安にはなる。
福島第二原発廃炉作業新たな事故・汚染をはらむ

 6月14日、東電の小早川智明社長が、内堀雅雄・福島県知事との面会のなかで、「福島第二原発の廃炉を検討する」と表明した。第一原発のある大熊町の南隣にある第二原発は、3・11でかろうじて事故を免れ、運転を停止中である。

 福島県議会は、国の責任で第二原発の廃炉を実現するように求めた意見書を採択。県内59の市町村も同様の決議をするなど、「福島県内のすべての原発の廃炉」は、県民の総意だ。

 しかし、国も東電も廃炉の判断の責任をお互いに押し付け合い、態度を明確にしてこなかった。

 1982年に稼働した第二原発は、廃炉も決まらず、稼働もできず、ただただ設備の維持管理を続ける状態が続いていた。仮に第二原発を再稼働することになっても、原子炉の使用期限である40年は目前であり、数千億円規模をつぎ込んで新規制基準に適合させるのは現実的でないのは分かっていた。実質上の廃炉は決まっていたのである。にもかかわらず、国も東電も第二原発の判断を棚上げにしていたのに、どうしてこのタイミングで廃炉を言い出したのか。

 10月28日投開票の県知事選に出馬する現知事(国・東電に追随しているとの批判もある。結果は現知事の圧勝)への援護射撃だとも、柏崎刈羽原発の再稼働認可との取引材料だとも、「トリチウム水海洋放出」の理解を得るための懐柔策だとも噂されている。

 また注目したいのは、「第二原発廃炉」が「原発依存」の地域経済・雇用に及ぼす影響だ。6月15日付の「河北新報」は、富岡町から郡山市に避難している次のような住民の声を紹介している。「富岡は雇用などで原発に頼っていた。今は町に企業が少なく、経済面で不安だ」。

 富岡町の宮本皓一町長の発言も気になる。「第二原発が後方支援をすることで、第一原発の廃炉が早期に進めばいいと考えてきた」。この発言は、第二原発の再稼働を望んでいたとも取れる。

 いずれにせよ、原発は地元周辺の経済に多大な恩恵をもたらしてきた。しかし、今後は原発廃炉事業がその役割を担うことになり、原発と隣り合わせになる生活は変わらないのだ。

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