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読む、考える、話す②『戦争と農業』  時間をかけて作ったものを 顔が見える相手に届けるという抵抗

 新型コロナがまん延するなか、「食」に関する不安を感じた人は少なくないはずだ。農村の労働力でもある外国人実習生が入国困難になったことや、休校により給食になるはずだった農産物の販売先が無くなったこと。自粛による飲食店の倒産や、買いだめでスーパーの棚から麺類などの加工品が消えたこと。見送りにはなった種苗法の改正、拡大しつつある豚熱に危機感を覚える人もいるだろう。
 「食」について考える時の一冊として、藤原辰史氏の「戦争と農業」をとりあげたい。著者は19世紀末に誕生し20世紀に急速に普及していくトラクターなどの農機具や、化学肥料、農薬などの兵器や毒ガスなどに応用された歴史をふり返り、生産に即効性を求める技術革新と強さを競う戦争とに親和性があると述べる。
 競争の原理や性急さは現代に受け継がれ、集約的に飼育され薬漬けとなった家畜の病や、遠方から輸送される食肉の病原菌による汚染、食品に大量の添加物や香料が使われるなど食の安全を揺るがす問題や、生産に携わる人の過酷な労働環境につながっている。
 同時に、大量に生産された食品が大量に廃棄されているという矛盾、グローバル化により、少数の種苗企業や化学産業、食品加工業者による寡占状態が加速し、生産や流通を左右しかねない危うい状況も指摘する。
 著者は今の農業や食のあり方を変える、いくつかの方法を提案する。企業への異議申し立てとともに、有機農業や添加物を使わず微生物の力で旨みを引き出した発酵食品、そして、食べる場所を人びとが集まって情報交換し、学ぶ場として再設定することなどだ。
 現在のシステムへの抵抗は、当新聞がたびたび取り上げる有機農業に取り組む小規模な農家、近郊の農家を応援し地産地消に取り組む店舗、地地域の貧困家庭や 障がいのある子どもたちの食と成長を支援する食堂にも見られる。地道な取り組みが、競争のシステムという、負の側面の大きい「遺産」に立ち向かう静かな闘いにも思えてこないだろうか。(フリーライター
・谷町邦子)

著:藤原辰史 集英社インターナショナル新書(2017) 720円+税

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