「医療・福祉・教育への財政支出は無駄」という思想/緊縮財政が新型ウイルスまん延を招いた

西ニューイングランド大学経済学名誉教授 マイケル・ミーアポール 翻訳 脇浜 義明

 イタリアのコロナ感染者激増は、緊縮財政による医療費抑制による現場の疲弊が招いたものと言われる。感染者増加と株暴落に追い詰められたトランプ政権も、非常事態宣言を出して国庫からカネを出さざるを得なくなった。以下は今年3月6日に、西ニューイングランド大学経済学名誉教授マイケル・ミーアポールがWAMC/FM放送で行った論評を抜粋したものである。                  (訳者)

◆コロナワクチン資金不足で中断

 私はエボラ熱が大流行した時、「製薬会社がワクチン研究への投資はカネ儲けにならないとして開発しなかったために、流行が起きたとき薬局にワクチンがなく大流行になった」という趣旨の批評を出した。


 16年にそれと同じことが起きていた。「科学者は数年前からコロナウイルス・ワクチン開発に近づいていたが、研究資金が集まらないので中断せざるを得なかった」という論文を、今年3月5日、ピーター・ヒルセンボー博士がNBCのネットニュース・サイトに載せた。

 それによると、「ベイラー大学医学部のピーター・ホッテス博士らが何年間もの研究の結果、抗コロナウイルス菌株ワクチンの一つを開発した」とある。2016年のことだったが、当時はコロナウイルス症状が流行していなかったので、それを臨床実験するのに必要な資金を調達することができなかった。


 10年以上前にも、サーズと呼ばれた重症急性呼吸器症候群が中国で広がり、770人の命を奪った。現在世界に広がっているコロナウイルスに似たその疫病は、ホッテス博士チームが開発したコロナウイルス・ワクチンが人間にもうまくいくかどうかを実験する資金集めを始めた頃には、もう過去の思い出になってしまっていた。「私たちはこれを臨床施設に持ち込んで試験するのに必要な資金を調達するために、必死になって投資してくれる会社や公的幇助金を探しましたが、企業は関心を寄せませんでした」と、ホッテス博士は語った。

◆金を出さない製薬会社


 理由は明白であった。民間の製薬会社は、直接的に利益につながらないものの研究にカネを出さないからだ。その意味で言えば、例え開発される新ワクチンが必要になるかどうかが不確かであっても、万一に備えてその開発を援助するのは連邦政府であるべきなのだ。


 しかし、イェール大学公衆衛生学教授のジェイソン・シュウォーツは、「コロナウイルスに対する世界の反応には、医学研究上の大きな欠陥があったことを暴露している。医学研究は市場中心で、先手を取るよりは、カネになることが分かった上での事後的な反応になっている」と指摘している。
 橋やトンネルなども、故障が起きる前から常にメンテナンスをしていないと大変なことになる。疫病に関しても同じで、製薬会社も大学も疫病対策センターも、今でこそ懸命にコロナワクチン開発にいそしんでいるが、準備や警戒を怠っていたことは否めない。


 メンテナンスを先延ばしにすれば、橋は崩れ、トンネルは崩壊する。コロナウイルスの世界的脅威が出現しても、数カ月間、米国には医療労働者の防護服は十分ではなかったし、感染しているかもしれない人に対処する手順も準備されていなかったし、検査キットも不足していた。
 2016年に機会を逃がしたのと同じように、コロナウイルスが襲ってきた時も、疫病対策センターの資金と準備不足のために、多くの医療労働者が危機に晒された。


 2016年に臨床検査機会を提供しなかったことと、今年1月にコロナウイルスに早急に対応しなかったのは、政府や多くの経済学者が抱いている市場主義のイデオロギーが産み出す悲劇である。医療や福祉や教育への財政支出は無駄遣いであるというイデオロギーだ。

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