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日本軍「慰安婦」裁判 ソウル地裁日本に賠償命令 日本政府は加害責任を認め 謝罪と賠償を

おかだだい(「慰安婦」問題を考える会・神戸)

 日本軍「慰安婦」被害者が、日本国を相手取った損害賠償裁判。1月8日のソウル中央地裁は判決で被害者たちの訴えを認め、日本政府に1人1億ウォン(940万円)の支払いを命じた。23日に判決は確定。私はこれを歓迎する。また判決を認めようとしない菅政権や、政府の立場に立って被害者の心情を一切理解しようとしない日本のマスコミの報道姿勢も、許されない。

 日本政府はこの裁判について、「主権免除」を理由に一切無視してきた。「主権免除」とは、「日本と韓国とはお互い主権国家なのだから、韓国に住んでいる人が日本国家を相手取って韓国の裁判所に訴えることは、日本政府に対する主権侵害に当たる」ということだ。しかし、被害者が「人道に対する犯罪」を行った相手を訴えられない、などという論理は許されない。
 政府はすぐ「国際法違反」と言うが、国際法には人道に対する罪は「主権免除」に当たらないという考え方がある。人道に対する罪を犯している国家を訴えることができない―そんな理屈は通用しないぞということだ。
 まず考えてみてほしい。あなた自身や配偶者や子どもが、どこかの国家機関に騙され、拉致・監禁され、性暴力を受けた。無事生き延びることができたが、受けた被害を忘れることができない。あなたは加害を加えた国家を訴えることを我慢できるだろうか? できる訳がない。しかし、日本政府はそれを我慢しろと言っているのだ。
 「日本の裁判所に訴えたらいい」とも言われる。だがそれは既に多くの被害者が1990年代に行ってきた。しかし日本の裁判所は「皆さんが日本軍に被害を受けたことは認める。賠償を請求する権利もある。けれど1965年の『二国間条約』によって国家は被害者に対して外交保護権を放棄したのだから、日本の裁判所に訴えることはできない」という判決を出したのだ。「日本に訴えてこられても困る」とも言っていた。だから被害者は韓国の裁判所に訴え出たのだ。日本の裁判所への訴えを拒絶しておいて、「主権免除」を主張するなど許されない。 
 実際に、ナチスドイツの蛮行には、主権免除が適用されなかった例がある。ギリシャでは1944年、ドイツ軍がパルチザンに対する報復として214人の民間人を虐殺する事件があった(ディストモ事件)。被害者遺族が、ドイツに賠償請求を求め、ギリシャの裁判所に提訴。2000年にギリシャの最高裁は、このような不法行為には主権免除を適用する必要がないとして、遺族の訴えを認めた。
 イタリアでも、ドイツ軍が1943年にチビテッラ村で203人の住民を虐殺した事件が裁判で問われた。これも2004年にイタリアの裁判所は、ドイツの主権免除を退け損害賠償を認めている。時代は確実に前に進んでいる。
 これらの判決は、ドイツが「ドイツに主権免除を与える慣習国際法上の義務に違反している」と国際司法裁判所に訴え、結果としてドイツが勝利。賠償は実現されなかった。日本政府が喜びそうな事態だが、ギリシャやイタリアの判決内容を知れば、日本政府の主権免除論には根拠がないことがよくわかる。
 国際司法裁判所がドイツの意見を支持し、ギリシャやイタリアの最高裁判決を退けた理由は、「少なくとも武力紛争遂行過程での軍隊の行為については、主権免除を適用するという慣習国際法が存在する」というものだった。つまり「戦闘中に起こった悲劇だから仕方ない」ということだ。こんな理屈は認められない。日本軍も南京大虐殺を始め、中国やフィリピンなどで数多の住民虐殺を起こした。それを「戦闘中だから仕方ない」と済ませられない。
 韓国の日本軍「慰安婦」の被害者も、「戦闘中だから仕方がないよね」とは言えない。「いい仕事がある」と騙され、言葉も通じない占領地や戦地に連行され、慰安所に監禁された。暴力、暴力、の毎日。これは用意周到な計画だった。戦闘中ですらなかった。言い訳しようのない国家犯罪だ。日本国の主権免除が適用されないことは明らかだ。
 日本政府は「国際法違反」と言えば、何でも「国民」が納得すると思っているようだ。そもそも政府は、この裁判を最初から無視していた。訴状を受け取ろうともせず、裁判所は公示送達(掲示板に貼り出して相手が訴状を受け取ったという効力を発生させること)をせざるを得なかった。
 裁判無視を続ける政府は、判決をあれだけ批判しながら控訴の手続きも行わず、判決は確定。政府やマスコミは今も延々と批判を続けている。加害者としての誠意や真摯さがあまりに欠けている。
 政府は「1965年の日韓請求権協定、2015年の日韓合意にも違反している」という主張も含めて「国際法違反」と言っている。だが日韓請求権協定は、被害者たちの請求権を失わせてはいない。そのことを実は日本政府も認めているが、「被害者に請求権はあるが、日本は応える必要はない」という姿勢を続けてきた。
 また協定締結時に、日本軍「慰安婦」問題のことは議題にもあがっていない。1991年に金学順さんが名乗り出てから初めて問題になったのだから当然だ。つまり日本軍「慰安婦」問題は、新たに解決しなければならない問題なのだ。
 そして15年の日韓合意は、被害当事者を無視して当時の安倍・朴政権が勝手に決めたものだ。「韓国政府の財団に10億円を払ったので、最終的・不可逆的に解決した。もう語るな。〈平和の少女像〉を撤去しろ」―日本政府の主張は、まさに一方的な恫喝だ。

 被害者たちが名乗り出て、今年で30年。多くの被害者たちはすでに亡くなられている。日本が加害の事実を認めない故に、30年間も闘い続けなければならなかった。
 日本政府は日本軍「慰安婦」問題を、人道の罪・国家犯罪と認めていない。ならば法廷の場に出てきて「犯罪ではない」と主張すればいいものを、それが通用しないとわかっているから無視し、「主権免除」の理屈を持ち出している。この問題は、世界の人権感覚からは性奴隷制そのものだからだ。「日韓関係の悪化」なるものは、全て加害責任を認めない日本側が原因だ。
 今回の判決の賠償金は、1人1千万円弱に過ぎない。日韓合意で日本政府が拠出した10億円なら、100人の被害者に賠償できることになる。いまご存命の被害者は16人。6倍の賠償金を全員に支払ってもお釣りが出る。なぜそんな簡単なことができないのか? 答えは簡単で、罪を認めたくないからだ。故・姜徳景ハルモニは生前、「お金じゃなくて、歴史に残したくないのだ。悪いことをしたと、日本は認めたくないのだ」と喝破した。全くそのとおりだ。
 こんな恥ずかしい日本はもうゴメンだ。私たちは被害者の心情に寄り添って、日本政府の謝罪と賠償を求めて闘う。それが私たちの責任だ。

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