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メルケル首相は「フェミニズムの遺産」を残したのか?|埋まらぬドイツの男女格差

コロナ禍で熱狂的な演説を行い、日本でもますます人気が高まった独首相のアンゲラ・メルケル氏。「ドイツのお母さん(ドイツ語でMutti)」と呼ばれ、16年もの間ドイツを引っ張ってきたメルケル首相も、今年秋に予定されている連邦議会選挙をもってついに政界を引退する。女性の首相として世界からも注目されてきた同氏だが、ドイツの女性たちのために貢献したかというと、それは少し違うようだ。

フリージャーナリストのヤナ・ヘンゼル氏は、1月2日付けのオンライン版ツァイト紙で「彼女が歴史を作ったことは間違いない。しかし残念ながら、フェミニズムの遺産は残していない」と述べている。バラク・オバマ元米大統領が黒人の歴史において無視できない存在であることと同じように、メルケル首相が女性の歴史の中で重要であることは明白だ。ところが、彼女がその地位を保っていた理由の一つは、世界に影響力のある女性が少なすぎることだとヘンゼル氏はいう。

もちろん、メルケル政権が何も成果を残さなかったわけではない。まず2007年には、従来の育児手当(Erziehungsgeld)から両親手当(Elterngeld)へと制度を変更。これは夫婦双方による子育てを推進するものであり、この改革によって男性は育児休暇を取得しやすくなった。また、2016年には上場企業の取締役会メンバーの30%を女性に割り当てることを義務付けている。

またメルケル政権下では、ウルズラ・フォンデアライエン氏とアンネグレート・クランプ=カレンバウアー氏の2人の女性が続けて国防相に任命された。フォンデアライエン氏は欧州連合(EU)で初の女性欧州委員長に選出され、クランプ=カレンバウアー氏はメルケル氏の後任として与党キリスト教民主同盟(CDU)の史上2番目の女性党首を務めた(2020年2月に辞任を表明)。

その一方で、CDUの女性議員の割合(現在27%)は大幅には増加していない。また連邦統計局によれば、2019年時点でドイツ国内で上級管理職に就いている女性は3人に1人しかおらず、この割合は2012年から0.8%しか増加していないという。さらに、シングルマザーはパートナーのいる母親に比べてより頻繁に長く働いているにもかかわらず、貧困にさらされやすい傾向にある。とりわけ経済的な観点からいえば、メルケル首相はドイツの女性たちに貢献したとはいえないとヘンゼル氏は指摘する。

参考:Zeit Online「Feminismus: Wir haben doch Angela Merkel!」

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