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インターンシップのあるべき姿とは?

最近、新卒採用担当として業務に従事する事が多く、否が応でもインターンシップについて考えさせられる。

そこで今日は、ここ数年で大きな潮流となり、今では人事、学生、大学、三者にとって新卒採用に欠かせないイベントとなりつつあるインターンシップについて考えてみたい。

■インターンシップという名の茶番

現在、学卒者以上の新卒採用において、インターンシップをやらない、という選択肢は存在しない。会社がインターンシップを行う理由は大きく分けて2つだ。

1)採用広報活動として、自社の存在を新卒市場にアピールする必要性がある
2)実際の採用フェイズに入る前の前哨戦として早期に優秀な学生と接触したい人事側の思惑がある

一方、学生側にも参加の理由がある。

1)自分の就職を目指す会社について、HP等の公式発表ではわからない実態や内情を掴みたい
2)自分がどんな仕事に向いているのか、どんな業種や職種があるのか、体験を通じて情報収集をしたい
3)(特定の企業に対して)インターンシップにおいて存在感を示し、本番の選考を有利に進めたい

上記の理由から今では8割以上の学生がインターンシップに参加し、平均参加社数は3社を超えている程だ。もはや企業にとっても学生にとってもインターンシップの是非を問うという段階はすでになく、どのように戦略的に行うか、どのように効果的に振舞うか、等というフェイズに移行している。

先に自説を述べておくと、昨今流行りのインターンシップは控えめに言って有効な手立てとは言えないと考えている。明らかに人事、学生、大学等が採用コンサルティング会社等の業者によって踊らされている状況であると思う。

その理由は大きく分けて三つある。

■現状のインターンシップが有効とは言えない3つの理由

①明らかに日本型新卒採用にとって必須と言えない
②コストパフォーマンスが悪い
③現在行われている各種インターンシップには職業体験の本質から外れているものが多い

一つ一つじっくりと考えてみよう。

①日本型新卒採用にとって構造上、必須と言えない

インターンシップが採用広報&優秀な学生を獲得する為の早期接触の機会と捉える事にどうにも違和感がある。そもそも、大規模かつ多人数に対して採用広報の手段としてインターンシップを行う事が、基本的な考え方として、ずれているからだ。

本来インターンシップとは、学生が学業の合間に、大学のゼミや研究室、その他の人間関係から得られるコネクションや伝手をたどって企業で働き、経験値と職歴を得る為&あわよくばその会社に雇ってもらおうとする行為だった。インターンシップが発達した欧米では、新卒で大学を出ただけでは職歴がなく、未経験者なので企業に雇ってもらえないからだ。インターンシップは新卒採用を基本的に行っていない(欧米型)企業に対し、エントリールートを確保する為の手段だったのだ。だから、ある程度(数カ月間)職場で一緒に働き、かつ学部で学んでいる専門性を活かした仕事を担当する事で学びと職務を結合させ、そこで一定の評価を得る事が就職にとって重要だった。

しかし、日本は未経験者、もっといえば専門性の定まっていない学卒者としての新卒採用を積極的に行う為、インターンシップというプロセスが必須ではない。新卒採用においては一般的に大学で学んだ専門性をそのまま生かした職種に就くかどうかも、採用時には定かではない。インターンシップを行った部署に配属される保証もない。そんな中でインターンシップを行っても実際には意味がない。いや、意味がないとは言わない。学生にとって重要な学びや経験にはなる。しかし、採用という観点から見れば、必須の存在ではないのだ。そのプロセスに膨大な労力やコマーシャルを行う事に正直、疑問を持たざるを得ない。


②コストパフォーマンスが悪い

次に、コストパフォーマンス(効果性や生産性)についてみてみよう。
企業も学生もかなりの労力をもってインターンシップに取り組む。コストは大きくかかる。それなりに大きな実りがなければやる意味がないだろう。

しかし、実際インターンシップ経由で採用選考に申し込みをする学生は参加学生全体の2割しかおらず、母集団としての厚みは存在しない。更に、インターンシップ経由で選考に参加する学生の殆どはそもそも初めからその企業を受験しようと思っている人が多く、インターンシップを通じて知った事で応募する学生は少数派だ。内定者まで辿ってみると、インターンシップ参加者が含まれている事は稀だ。これが半数とは言わないまでも、かなりの人数や割合に上るのであれば(あるいは通常のルートでは決して獲得できない優秀者を採用出来るのであれば)実施する甲斐があるが、結果だけを見てみるとコストパフォーマンスは決して高くない。総合的に鑑みて効果的な打ち手とは言えないのだ。

それでも企業の人事部はインターンシップを実施する。何故か?全体の2割というわずかな人数でも良いので応募者を増やしたい、優秀な候補者と出会う機会に賭けたい、という衝動に突き動かされている。また、周囲の会社がやっているから、社会の体裁上、自社だけやらない訳にはいかない(学生や業界、大学などから「遅れている会社」と見られたら採用市場で不利)という側面もあるだろう。

インターンシップは企画と運営に非常に手間がかかり、プログラム内容によっては現場にも負担がかかる。その割にコスパは悪い。学生から優れたインターンシップであると評価されるには、①工夫されたその会社独自の職業体験ができる②自身のキャリアについて考える機会が得られる③豊富なフィードバック④様々な階層の社員とコミュニケーションする機会がある、とされている。その調整たるや、人事職の人の労力(もしくはコンサルティング会社に依頼している費用等)は膨大に上るはずだ。それにも拘らず、インターンシップをやる理由は構造上、必須とは言えない。優秀な学生を引き付けるやり方はインターンシップ以外にもたくさん選択肢があるはずだが、半ば思考停止になっている嫌いがある。

③現在行われている各種インターンシップには職業体験の本質から外れているものが多い

会社が大義名分として打ち出している、もしくは大学側が企業に期待する役割である、「学習機会としての若年層の職業体験の場の提供」について考えてみよう。

インターンシップは若者が自社業界の職業体験を積んで興味を持ってもらう為の純粋な広報活動だ、という位置づけならば、それは本来的に人事部の仕事ではなく、広報宣伝部の範囲もしくはCSR部の仕事である。しかし実際の企業には優秀な学生と早期に出会ってあわよくば採用しようという下心があり、学生も目指す企業のインターンシップに参加していれば選考時に有利かも知れないという打算が働いている。大義名分と実態は大きくかけ離れている。完全に茶番と化している。

本当に職業経験したいならば、普通にその企業でアルバイトをすればよい。夏休み中にバイトをすれば、かなり実態が掴める筈だ。社員から生の現場情報を得る事も容易だ。その方がよほど業界にも詳しくなる筈だ。

本質から外れている、という点で典型的なものは、いわゆる「1Dayインターンシップ」と呼ばれるものだ。最近は2Dayもあるらしい。企業が広報(教育)と採用をまぜこぜにしながら1日限りのイベント的なワークショップを開催し、その会社に応募したい学生がそれに群がる。ワークショップはしょせんセミナーだ。実際の実務とは違う。この構図はどう考えても正常なプロセスとは言えない。明らかに仕組まれた茶番にしか見えない。

飲食店や引っ越し業者等、1日である程度完結しうる仕事ならばまだ1Dayでも意味はある。しかし、事務企画職や研究職等が1~2日の仕事を体験しただけでその職種がわかる、等という事があるはずがないし、そう表現するべきでもない。一般に経験則から鑑みて、その職場の雰囲気や職種の構造の全体像を掴むのに、約2カ月はかかる。エッセンスを感じるにも2週間は必要だ。1~2Dayでは構造上の無理がある。本来目指しているものとは異なり、本質からずれているのだ。

誤解を恐れずに言おう。

現在行われているほとんどのインターンシップは本質からずれている茶番に過ぎない。インターンシップを本来のあるべき姿へと戻すべきだ。

■インターンシップの本質的なアプローチ

では、本来あるべきインターンシップのアプローチとはどうあるべきか。
それを一言で表現するならば、「新卒版リファラル採用」だ。

具体的には、大学(院)の先輩後輩、その他の人間関係の繋がりの中で企業に対するコネクションを得て、就職活動前哨戦に備え、「職業体験」「職場訪問」「OB・OG訪問」と称して夏休みと冬休みにアルバイトをするのだ。学生の面倒は基本的に先輩が見る。職業的な事や業界的な事も先輩が後輩に教える。OB/OGによるメンタリングを受けつつ、企業の実態情報にアクセスする。そして学生はそこで自分を売り込むことに成功し、自身も納得できればそこに就職を決める。

企業の側から見た場合、自部署による新卒の直接採用だ。従来、日本企業において新卒を確保するのは人事の仕事だった。各部署は希望を出すことは出来るが、最終的に誰が配属されてくるかを指定することは出来ないケースが多い。しかし、インターンシップを使った新卒採用だけは違う、とすればよい。即ち先輩が自身の出身大学の後輩に直接アクセスし、職場のアルバイトに誘う。そこで学部の学びを活かしたアルバイトで成果を上げてもらい、一定の活躍をする。先輩が成長して活躍している場面、失敗してへこんでいる場面などを見せる。そして仲間として迎え入れるムード作りをする。そこで人間関係を構築し、卒業後に自社に入社する事の約束を取り付ける。これが出来れば、その学生の採用に人事部が関わる事はないので、純粋にその部署の成果ではないか。そうであれば、その学生を獲得に動いた部署の所属としてよいと思われる。

これならば学生は実際の社内の事情を十分に情報収集しつつ、その前後でその業界、その職種、その会社のキャリアなどの『生情報』を部署の社員やマネジャーから教えてもらう機会を得られる。会社側は新卒版リファラル採用として「新卒を自部署で直採用する」事が出来る。確実に納得度の高いマッチングになるはずだ。

■まとめ

新卒採用のインターンシップは、企業の現場の部署が主体となって若手社員の出身大学やバイト等の人間関係を伝手にした友人関係を元に自部署でリファラル採用を行う為の土台として活用すると、本来のあるべき形と目的を果たせ、有効に機能する。
若手社員のリファラル採用でそろうべきものである要素、即ち

・人物面での保証(人間として信頼できるか)
・自部門全体とのマッチング(職場の人間関係や風土にあうか)
・職業体験を通じたリアルな理解(こんなはずじゃなかった、を無くす)

が全て揃う。

実際、大学の先輩後輩の繋がりで自社のバイトにまで引き込むところまで導くことは難しいだろうが、インターンシップを大学と連携してしっかり設計すれば出来ない事はないと思われる。

このタイプのインターンシップが確立できれば、ある意味において『理想の新卒採用の形の一つ』といって過言ではないと思う。

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