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『子どもに教えるときにほんとうに大切なこと』より大切なこと

Amazonより献本。

30年以上小学校教育に携わる著者による、子供への勉強の教え方の手引きである本書。

いかに問題をゲーム化して、子供が自ら楽しんで解けるようにするか、褒めるポイントをどう設定するか。具体的で実践的な指導法が、その根っこにある「教える」ということそのものに対する考え方と合わせて、ちょうど良い塩梅でまとまっている。

特に、問題をちょっとズラしたり、既に分かっていることを深掘っていくことで、単に軌道修正したり正答を示すに留まらず、何がどう分かっていないのかを突き止めるというあたりは、うちの娘に対してもあまり上手くやってあげられてないなーと反省しきりだった。


さらに、本書で挙げられている内容のかなり多くの部分は、子供だけでなく大人も含めた人間全般について当てはまるものだ。ざっくり行動心理学的な枠組みに沿って言えば、①ゲーミフィケーションによる動因の生成/強化②ネガティブ行動の取り除きの話といえばいいか。

中でも、「自分で決める(親は介入せずに任せる) → 頑張る → 褒める箇所が増える → …(以降繰り返し)」というポジティブフィードバックループをしっかり回すことを目指すという箇所は、人材マネジメント観点でもなるほどなーと思った。

「教わる側をどう伸ばすか」というテーマには、「教える側をどう最適に設計するか」というテーマが内在している。教わる側を褒められるということは、実は教える側にとっても立派な報酬であり、それが教える側の体験設計の中にも上手く織り込まれていると、教える - 教わる という相互作用の中で両者ともにポジティブなループが回っていく。これはとても重要な視点の転換だ。

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ただ、本書の教育論を読みながら、なにか引っかかる部分もある。

たしかに、本書の実践を通して、問題/課題に向き合う際の子供のモチベーションや能力は改善するだろう。そして、小さな怪獣たちを前にして途方に暮れている親たちにとって、かなり具体的で実行に移しやすい改善プランの手引きに、本書はなっていると思う。

それでも、そうである一方で、一人の子の親として引っかかるのは、「ほんとうに、ほんとうに一番大切なことは、これだろうか?」ということだ。

(著者が算数教育の専門家だからだろうが、)わりと算数の能力向上/問題解決に寄った内容の本書であるが、その前提として常にあるのは、教える側から与えられた問題がすでに存在して、それを解くべきであることが決まっている、という点である。

しかし、「教える側から機械的に問題が与えられてそれを解く」というこの前提は、あくまで「学校教育」という狭い範囲における前提ではないだろうか。少なくとも、実社会では解くべき問題は自分で探さなければならないし、大学の学部教育の最終段階ですら、研究活動の一端に触れて自ら論文を書く時点で、キモとなるのは課題設定の方である。

教育という射程を、学校という場に閉じたものにしないとき、ほんとうに一番大事なのは、所与の問題への向き合いを超えて、それらの問題がこの世界の中でなぜ問われているかを考え、それら問題の連関を紐解き、この世界の背理といかに切り結んでいくか、そういったところに向かう姿勢であり、さらに言えば「知への愛をどう引き出すか」という点ではないだろうか。学びの源泉は、そこにしかなく、そこからしか始まらない。

「知」を求めるという営為の意味。「知る」ことが、人が自らの生を生きる上で持つ意義。この世のあまりの不思議さ。それらの驚異と面白さと崇高さ。こういったことを、どう伝えてあげるか。ここに対してどういうスタンスをとってもらうか。

既成の知識が解体され、あらゆる前提が激しく変わっていく世界の中で、今後100年を駆け抜ける子ども達にとって「ほんとうに大事なこと」は、そのことではないだろうか。

我が子の顔を思い浮かべながら、その点がすごくタイトル負けだなーと考えていると、そもそもICT/AI等で世界が満たされ、大半の人間が計算や語学や、知識をただただ脳内にインストールすることなぞやる必要がなくなる近未来において、教育は何をするのか、というテーマが、ごく身近に感じられてきた。


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