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『図書室のある平屋』|地域に根ざした工務店が手がける上質な住まいをピックアップ!

「SO上質な日本のすまい3」に掲載の日本ならではの上質な住まいを手がける工務店事例をピックアップ。アトリエヒシダさん(愛知県豊橋市)が手がけた住まいは、中庭を中心に北・南・西の3辺に生活機能と居場所を設けた「図書室のある平屋」。家族共用の図書室があり、中庭やダイニングを眺めながら過ごせる空間が魅力です。

中庭と各居室がデッキでつながる。庭の中央には大谷石を敷いた

永く大事に使う「コの字」の家

お気に入りの家具や道具を慈しむ丁寧な毎日

「図書室のある平屋」は、中庭をコの字型に囲むコートハウス。住宅地の中にあり、隣家の開口部がいくつもこちらを向いていたため、お互いのプライバシーと景色を尊重した結果、自然とこの形に落ち着きました。

住まいは、プラスチック製品や工業製品を極力排除し、木や石など、もともと自然界にある素材で構成。中庭を中心に北・南・西の3辺に生活機能と居場所があり、天井が高いところと低いところ、明るいところと暗いところがリズムよく混在する空間は心地よく、どこにいても手を伸ばせば「自分たちだけの緑」を感じることができます。

スライディング式の木製窓で中庭の景色を切り取るリビング東側窓。
窓枠がベンチにもなる

北側に設けた壁付けキッチンは主役的な存在です。アトリエヒシダ代表の菱田恵史さんは、料理好きな奥さまのためにキッチン扉に使う無垢の木材を3週間かけて探し回り、長さ4.9mものナラの一枚板を業者に導かれ、自ら調達しました。奥さまは、端から端まで連続する美しい木目を見るたびに「このキッチンを生涯大事にしたい」という気持ちになるのだとか。

連続する木目が美しい造作キッチン。
上部のキャビネットは扉を閉めても水切りができる仕掛け

「とりあえず”の買い物がどうしてもできない」と笑うご夫婦は、23年前の結婚時からずっと、じっくりと吟味して選んだ家具や道具とともに暮らしてきました。23年間使い込んだハンスJ.ウェグナーのダイニングテーブルと椅子はもちろん現役。テーブルの傷を見ると幼かった子どもたちの思い出が蘇ります。ご主人の発案で椅子はあえてそろえず、その日の気分でウェグナーのYチェアやスツール、ボーエ・モーエンセンのシェーカーチェアに腰掛けるのが一家の日々の楽しみだといいます。

リビングの床と天井をキッチン・ダイニングより
一段下げて落ち着く居場所に

南側の図書室は家族共有の居場所。子どもたちの大量の本と、3世代で使ってきたピアノにも思い出が詰まっています。「こんなふうに長く大事にしてきたものたちに負けないよう、丁寧に毎日を重ねる“重層の暮らし”が僕たちは好き」とご主人。

家族共用の図書室。中庭やダイニングを眺めながら
読書やピアノが演奏でき、引戸を閉めるとこもり感のある個室になる
シンメトリーな2つの子ども室。漆喰で仕上げた
アール天井が空間をやわらかい雰囲気に

「家が高性能で心地いいのは当たり前。この家がそうであるように、詩情的な何かを感じられる暮らしを住まい手とつくりたいのです」と菱田さんは話します。

高さを抑えた焼杉板張りの外観。西側に奥さまの実家があるため、
行き来しやすいよう西側にアプローチを設けた

設計・施工/アトリエヒシダ
愛知県豊橋市大岩町字本郷88
photo/原常由

「SO上質な日本のすまい3」では、地域に根ざした工務店や設計事務所が手がけた23社の事例を掲載しています。ぜひ本誌にてご覧ください!