[記事翻訳] [フォーカス] 福島汚染水が韓国に重大な脅威? 実は… ‐ 未来韓国 (2019.10.14)

チョン・ギョンウン 未来韓国客員記者

| 2011年 政府機関 “大きな問題にならない” 報告書... 文政府の反日感情煽り指摘も

韓国政府が今年8月から日本の福島原発汚染水(以下福島汚染水)の海洋放流問題を積極的に提起している。9月からは国際原子力機関(IAEA)などでこの問題を公論化しようと努力しているところだ。韓国内では福島汚染水放流を巡って誰もかれも恐怖雰囲気を醸成中だ。政府と環境団体の主張をそのまま並びたてるレベルにもかかわらず、ほとんどの人たちは“事実”と信じている。

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写真=ムン・ミオク科学技術情報通信部次官が9月16日、オーストリア・ウィーンの国際原子力機構(IAEA)本部で開かれた第63次国際原子力機構(IAEA)定期総会で、日本の福島原発汚染水の処理方案を国際社会が用意すべきだと呼びかけた。

福島汚染水危機論の始まりと展開

福島汚染水問題の始まりは国際環境団体「グリーンピース」から始まった。8月12日付けの英週刊紙エコノミストに、グリーンピースの原子力部門担当者であるバーニー博士の寄稿文が掲載された。この内容はグリーンピースのソウル事務所がフェイスブックを通して共有し、朝鮮日報とKBSなど国内の大部分のメディアが引用して報道した。

ショーン・バーニー博士は寄稿文を通して「安倍政府と東京電力が福島原発に保管された高濃度の放射能汚染水100万トン以上を太平洋に放流する計画を推進している」「韓国は特に危険だ」と主張した。

バーニー博士はまた、「海に流す放射能汚染水110万トンを希釈しようとすれば17年間、水7億7000万トンをつぎ込まなければならない」「このような汚染水が海流に乗って海を循環するために、太平洋沿岸国家にも放射能汚染にさらされる可能性がある」と主張した。彼は続いて「国際海洋投棄防止条約があるが、日本は福島原発汚染水放出について沈黙している」と安倍政府を非難した。

グリーンピースソウル事務所は「安倍内閣が私たちの海に引き起こそうとしている環境災害を防いでほしい」と、バーニー博士の主張を後押しした。このニュースはあっという間に国内に伝播した。日本が半導体関連素材3種の輸出規制をしてから1カ月ほど過ぎた時点だからか、ムン・ジェイン政府はもちろん、与党も福島汚染水問題に格別の関心を持った。共に民主党など政治家たちは、バーニー博士を国会に招聘して講演会を開いたりもした。

一方、ムン・ジェイン政府は、日本との騒動の過程で8月22日、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了を決定した。その後、日本はもちろん米国までも韓国のGSOMIA終了決定に遺憾の意を示した。

ムン・ジェイン政府は9月に入ってGSOMIA問題を後にして、福島汚染水問題を国際社会に提起し始めた。9月16日(現地時間)にはオーストリア・ウィーンで開かれた国際原子力機関(IAEA)総会に参席して、福島汚染水海洋放流問題を提起した。総会に参席したムン・ミオク科学情報通信部第1次官は基調演説で、「福島原発事故の後、汚染水処理問題について日本はいまだ答えを見つけられずにいる状況」「日本政府が福島汚染水を海洋に放流して処理すると決定する場合、地球規模の海洋環境に影響を及ぼすかもしれない重大な国際イシューであるため、IAEAと会員国家たちの共同の役割が必要だ」と述べ、日本に圧力を加えることをうながした。

しかし、ムン・ジェイン政府と与党が固く信じて拡散させていたグリーンピース側の主張は、国民から大きな呼応を得られなかった。

お粗末な“福島汚染水韓国脅威説”

国民たちは地球科学と地理の時間に習った内容を根拠に「日本が太平洋に放流した汚染水がどのようにしてただちに朝鮮半島に流入することができるのか」と指摘した。これにグリーンピースをはじめとする環境団体たちは「福島汚染水が海に放流されればすぐに朝鮮半島に入ってくるというのではなく、海流に乗って流れ出た汚染水物質が1年以内に一部が南海岸側を通って東海に流入するという話」と釈明した。別の指摘もあった。「バーニー博士は福島汚染水110万トンを希釈しようとすれば水7億7000万トンが必要だと言ったが、ならば太平洋の水はどの程度の量だから危険だというのか」という指摘だった。これに対してはいまだにこれといった説明はない。

9月下旬になった今でもムン・ジェイン政府と与党は福島汚染水問題を押し立てて日本を圧迫すると主張しているが、科学的根拠が弱いために国際的な呼応は得ることができずにいる。

実際、“日本が福島の沖に汚染水を放流すると、韓国が特に危険だ”という主張は科学的根拠を背景に見ればすぐに反駁することができる。米国国立海洋大気庁(NOAA)や航空宇宙局(NASA)が提供する人口衛星の資料まで提示せずとも、朝鮮半島と東アジア、太平洋の海流がどのように流れるのかは高校の地理付図を見ても知ることができる。

日本の東側の太平洋には黒潮暖流が流れている。この海流は南から北方向に流れる。そのうちごく一部が台湾暖流になって朝鮮半島の南側に流れ込む。この暖流は東海の東側を流れて津軽海峡を通って太平洋に抜けていく。一方、黒潮暖流は北海道北東で親潮寒流とぶつかり、北太平洋海流に流され、アリューシャン列島、アラスカ、カナダ西部、米国西部を経て再び北赤道海流に乗り、東から西へ赤道に沿って流れる。

2011年3月21日、中央日報は国立海洋調査院の研究結果を伝えた。国立海洋調査院が人工衛星資料を元に東アジアの海流調査した結果、福島原発から流れ出た汚染水が朝鮮半島の近隣に流入する可能性は極めて低いと結論を下した。

海洋調査院は研究結果から、“東海は北西太平洋より海面の高さが高いため、大韓海峡を通って東海に流入する海流(対馬暖流)は東海の東海岸線(日本の西海岸線)に沿って津軽海峡を抜けていく”と説明した。この研究結果は当時、外交部から在外公館を通じて配布されもした。

これに対して、“それでも福島汚染水が高濃度放射能を含んでいるため、ごく少量でも危険だ”と主張する場合がある。しかし、先に言及したバーニー博士の“福島汚染水110万トンを希釈するのに7億7000万トンの水が必要だ”という主張を根拠に見ても、太平洋の海水の量とは比較にならない。

政府機関である韓国海洋科学技術院は、青少年と児童のために海洋知識を紹介している。この中に全世界の海に存在する水の量に対する説明がある。

世界の科学者たちが推算した海水の量は1.4 * 10の18乗トンである。韓国式表記では140京トン(1京は10000兆)だ。この中で太平洋が占める量は51%ほど。平たく言って7.7 * 10の17乗トン、すなわち77京トンだ。北太平洋の海水だけ計算する場合、少なく見積もっても30京トンを超える。バーニー博士が語った7億7000万トンの海水は太平洋の海水の10億分の1程度だ。

このような事実のために政府は2011年3月11日福島原発事故が発生した後、ほぼ5年以上かけて朝鮮半島に放射能汚染の危険があるかを研究・調査して測定した。その結果は“朝鮮半島は安全だ”ということだった。

原子力専門家たち “福島汚染水、韓国に大きな脅威にならない”と指摘

原子力安全専門家たちの評価も同じようなものだった。2011年4月、韓国科学技術院(KAIST)原子力及び量子工学科教授陣は当時、メディアを通じて拡散されていた福島原発流出汚染物質影響についての緊急報告書を出した。.

KAIST教授陣は報告書で、「福島原発事故とは無関係に日常的に露出される放射線が存在するという事実と、それによる放射線量が地域的・環境的に違うことはあるが、年平均約2.4 mSvという点を強調したい」と述べ、空だろうと海だろうと朝鮮半島が大きな影響を受けることはないと結論を下した。この分析はその後の測定結果、事実と判明した。

8月29日、韓国日報はペク・ウォンピル韓国原子力研究院先任研究委員とのインタビューを報道した。ペク・ウォンピル先任研究委員は2012年、韓国原子力学会で福島事故対策委員会の委員長を務め、その年の11月、事故現場を直接訪問し被害の復旧状況を確認した。事故対策委員会には国内最高の原子力関連専門家50数名が参加し、彼らは2013年3月、福島事故に関した最終報告書を出した。

ペク・ウォンピル先任研究委員は“福島汚染水が放流されれば1~2年内に朝鮮半島海域に到達し深刻な被害をあたえるかもしれない”というグリーンピース側の主張に関連して、“検出された放射能濃度は福島原発事故以前の5年間の平均値以内で、原発事故及び汚染水流出により今までわが国海域に及んだ影響は確認されていない”という2018年原子力安全年間の結論を提示した。

ペク先任研究委員は、「韓国は周辺海域22カ所から毎年表層海水のセシウム、ストロンチウム、トリチウムの放射能濃度を測っている」「福島原発事故の翌年である2012年も韓国周辺海域の放射性汚染物質濃度は事故以前の5年間の平均値の範囲内で、 2018年も有意な変化はなかった」と説明した。氏は「セシウムとストロンチウムは人口的な核爆発で発生するものだが、過去の強大国の核実験の残存物が世界中の海と土壌から検出されている」と付け加えた。

氏は続いて「福島汚染水が東シナ海と黒潮暖流に乗って我が国の海域に短期間のうちに流れ込むかもしれないという事実は我々も把握している」「しかしそのように流れ込む汚染水物質は福島原発の全体排出量の0.001%にもならず、残りは太平洋に拡散する」と説明した。

韓国政府が何年間も日本側に問題を提起している福島近海水産物に関しても、「多くの人たちが福島周辺の海から出た水産物を案じているが、野生動物の肉や内陸河川の魚類のほうが危険だ」と指摘した。彼は「農地は大部分除去作業を終え、海の場合は放射性汚染物質が海流に乗って動くため散らばるが、森または森を通っていく河川はほとんど除去作業をできなかった」と説明した。

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図=サイエンスレポート誌に掲載された福島汚染水放流によるシミュレーション。原子力専門家たちは"福島汚染水、韓国に大きな脅威にならない”と指摘する。汚染水に比べ、太平洋の海水の量があまりにも膨大だからだ。

KAIST教授 “国内メディア、福島関連歪曲・誇張報道”

9月17日にはペンアンドマイクがチョン・ヨンフンKAIST原子力及び量子工学科教授とのインタビューを掲載した。チョン・ヨンフン教授は「国内メディアが報道する日本の放射能汚染状況は大きく歪曲・誇張されている」と指摘した。

チョン・ヨンフン教授は「福島地域でも居住が禁止された一部地域を除いては放射線量がほかの地域と大きく変わらない」「東京のホットスポット(セシウム高濃度検出地域)のために旅行に行ってはいけないというが、それは非常に限定された一部地域に過ぎず、少し離れれば放射能が測定されない」と主張した。

「日本全域が放射能に汚染された」という国内の一部の主張に対して、チョン教授は「その根拠になる論文を見ると、『これは推算値であり測定結果ではない』と資料の不確実性を明らかにしており、最近には論文の著者が『計算に誤りがあった』と明かしている」と指摘した。

チョン教授は、当該論文に現れた放射能汚染基準値は5Bq/kgで、とりたてて危険ではない水準であり、韓国の場合、過去に中国とロシアの核実験で出たセシウムが朝鮮半島に落ちて、1990年代まで土壌から20~30Bq/kgの測定値が出たと指摘した。当該論文通りなら、韓国のほうが日本より放射能汚染水準がもっと高いという説明だった。

韓国の原子力専門家の意見は嘘だろうか。「福島原発から出る放射能汚染が深刻なので東京オリンピックをボイコットしなければならない」という韓国の一部の主張に関連して外信はどのように報道したのか調べてみた。

英国のガーディアンは日本の主張をもう少し掲載した。ガーディアンは8月22日(現地時間)、関連報道で「福島県の放射能汚染検査基準値は米国やEU(ヨーロッパ連合)より低い(厳しい)」という県当局者の主張も紹介した。

ガーディアンは続いて民間環境団体が測定した東京一帯の放射能数値も紹介した。「セーフキャスト」という団体が8月に測定した東京一帯放射線数値によると、六本木地域の汚染度は0.084mSv/hで、韓国の水原南部地域の0.116mSv/hより低かった。水原南部一帯の数値は、福島原発から西に45マイル(約72km)離れた場所の0.100mSv/hよりもやや高かった。

ガーディアンは「核工学関連ロビー団体である世界原子力協会(WNA)によれば、地球上で検出される自然放射線数値は0.17~0.39mSv/h」と付け加えた。

このほか米国とヨーロッパの外信は、「韓国と日本が福島原発汚染物質のために争っている」という程度の報道にとどまっている。そして「福島原発汚染」紛争の背景は、7月から始まった反日紛争が実際の原因という専門家たちの評価を付け加えた。ムン・ジェイン政府が反北・反中の代わりに反日を一生懸命わめいても、国際メディアは科学的根拠と論理の裏付けのない主張は受け入れる可能性が低いというのが“現実”であり、“事実”だ。

チョン・ギョンウン 未来韓国客員記者

出典:未来韓国 http://www.futurekorea.co.kr/news/articleView.html?idxno=121641

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