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2023WBCを終えて〜2026大会へ期待の選手達

正直、2013、2017年のWBCは心が踊らなかった。

世界大会のはずなのに、なんだか気持ちが高揚していなかった。当時も壮行試合から最後の試合まで欠かさず、プレーボールから試合終了まで中継を見ていたはずだが、ワクワクしていた記憶がほとんどない。代わりに印象として残っているのは、なんだか無駄に暗く、明るくなかったことだ。
悪く言うわけではないが、やはり優勝監督の王、原氏からのバトンとして山本、小久保は弱かった。野手が世代交代の時期だったり、メジャー組の不参加が続いたこともあるが、やはり結果的には人望や求心力といった類のところだった。

今回は当然、大谷withの取り上げられ方だったし、結果的に相変わらずのMVPに輝いたので、大谷なくしてこの結果はなかった。そして結果論だが、結果論だからこそ、今回代表監督を引き受けた栗山勉の異常さを改めて目の当たりにすることになった。10年、20年、もっと先の未来においても、2023栗山ジャパンは伝説となって語り継がれているはずで、多くの世代の記憶に今大会の出来事が残り続けるはずである。最高の7試合だった。

全体的な感想をあげてしまうと全員が感じたことと同じでつまらなくなってしまうので、記憶が鮮明なうちに、三年後の2026大会に向けて今大会の感想を選出選手にフォーカスし残し、そして次大会に期待する若手のホープをあげたい。

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【捕手】
中村(32) ヤクルト
甲斐(30) ソフトバンク
大城(30) 巨人

正捕手候補筆頭だったオリックス森の辞退(FA移籍初年度による)のため、リーグ2連覇のヤクルトから中村、ソフトバンクから甲斐が選出され、第3捕手として巨人から大城と30代の中堅3名が選出された。
今回の影のMVPは、間違いなく中村だった。スタメンでの出場は甲斐と半々くらいだったが、決勝で今永、戸郷、髙橋宏、伊藤大海、大勢の若い5投手、そしてダルビッシュ、大谷の計7投手をリードし、アメリカ打線をソロ2発に抑えた結果はアメイジングだった。現代捕手として、名実ともに国内ナンバーワンになったのではないか。
散々指摘されていたように甲斐のフレーミングと自動アウトの打撃能力は擁護し難いものがあり、そんななか対メジャー諸外国の鍵となるフォーク、スプリットを決め球にするリード、そしてそれを決して後ろに逸らさない壁能力は見事だった。打たれれば即座に批判される辛いポジションの中、繰り返しになるがたった2発、それも銀河系軍団相手にソロホームランで抑えたのは中村の生涯の財産となるはずで、本当にMVPに値する働きだった。打者としても9番打者としてしっかり犠打を決め、シーズン通り安定した選球眼で四球を獲得し最強の上位打線に繋ぐ黒子っぷりは通好みの渋すぎる働きだった。シーズン96敗?をヤクルトで経験したのはこの大会のためにあったのではないだろうか。無駄なことなんて何もないということの象徴なのかもしれない。

・次大会へ期待(3年後の年齢)
佐藤(28) ロッテ
坂倉(28) 広島
安田(26) 楽天
内山(24) ヤクルト

常勝チームには強打の正捕手が君臨している。これは2000年初期にプロ野球を見始めた人間の共通認識で、上記4名にかかる期待は大きい。
城島、阿部まではいかずとも、強打の捕手が次大会ではフィールドに鎮座していてほしい。
特に左の坂倉、右の内山はリーグナンバーワン捕手に上り詰めていてほしい。
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【内野手】
山川(31) 西武
山田(30) ヤクルト
源田(30) 西武
牧原(30) ソフトバンク
中野(26) 阪神
岡本(26) 巨人
牧(24) DeNA
村上(23) ヤクルト

ホットコーナーには最年少三冠王村上、5年連続30本の岡本を軸に、2年連続20発の新人王牧、2冠王の山川を揃え、長打に期待を持てる重量級が選出され、二遊間には油の乗り切ったトリプルスリー山田、鉄壁の源田に加え昨年盗塁王の中野、今回のスーパーサブ枠牧原の顔ぶれとなった。実績十分の坂本、今宮の事態により二遊間が不安視されていたが、結果的に山田のいぶし銀的な働きと、骨折そっちのけの源田のスーパーディフェンスも日本の世界一には欠かせなかった。今後も二遊間は、30を超えた実績優先で選手を選ぶより上限を30くらいにして、若い選手から選ぶのもいいのかもしれない。

今大会のザ生き返れ枠は村上となり、結果的に準決勝、決勝と最高の2本を放った。
一塁専の山川が選ばれた理由が、このような絶不調の選手が現れた際のオプションとして「ファースト山川・牧、サード岡本」の布陣にさせるためと思われたが、栗山の思考はファイターズ時代から全く変わっていなかった。世界に向けて、日本の若いスターを知らしめるというミッションを最優先に置き、信念を貫いた。同じようなことはやるだけならどの監督でもできるはずだが、結果的に栗山じゃないと村上は復活しなかったと誰しもに思わせられたことが、監督栗山としての誰にも辿り着けない領域に辿り着いていることを世間に示した。心中の一つ、二つ上のステージでスタメンから、フィールドから村上を外さなかった。

何より今大会において過去4大会と比べジャパンの財産となったのが「スモールベースボールからの脱却」だった。選出が終了すると、「重量級を減らして足の使える打者を何名か入れるべきだ」という予想通りの意見が散在された。結果的に、決勝の岡本の本塁打が優勝を確定させた。アメリカ相手に長打で打ち負かしたという結果が、日本野球の国際大会における転換期になるように感じた。世界のパワーピッチャー相手にも、長打で対抗できるようになりましたよ。という証明になった。NPBの岡本、村上、そして2発の牧がそれをやってのけたことが嬉しかった。
とはいえ、決勝で世界最高キャッチャーのリアルミュートから2盗塁を決めた山田、準決勝でサヨナラのホームを駆け抜けた周東などスピードスターはいつでも排出できるようになっており、スピード&パワーのアメリカンスタイルに少しずつ近づけている証明になった。レベルが急上昇しているNPBの投手を相手にしていることで、国内からも本物の強打者が育っているように見える。野球にパワーは不可欠だ。わかりやすい。
二遊間の二人は年齢的に今大会でお役御免となると思われるので、次大会までには次世代のスターが何人か現れていてほしい。

・次大会へ期待(3年後の年齢)
清宮(27) 日本ハム
安田(27) ロッテ
佐藤輝(26) 阪神
野村(26) 日本ハム
小園(26) 広島
石川(25) 中日
長岡(25) ヤクルト
森(24) DeNA

右の長距離砲で野村、石川、左の長距離砲で安田、佐藤、清宮あたりには、3年以内に打撃タイトルの常連になっていてほしい。今大会選出の村上、牧は3年後もまだ20中盤なので、この中で何人かが覚醒しているとホットコーナーは万全だと思われる。
二遊間には、アベレージ型の俊足堅守で森、長岡、小園、に期待がかかる。山田哲人のような二遊間どちらか守れる右のスターが一人二人出てきていると、内野陣の攻撃力も今回のような期待が持てる。
他にも各球団が抱えているプロスペクトを、球団指導者は小さくおさえこまず、ビッグスケールの野手として能力を開花覚醒させてほしい。
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【外野手】
吉田(29) レッドソックス
近藤(29) ソフトバンク
大谷(28) エンゼルス
周東(27) ソフトバンク
ヌートバー(25) カージナルス

3番とライトのレギュラーを期待されていた鈴木誠也の故障離脱により、開幕前は一人でも誤算だと…と不安視されていた外野陣だが、蓋を開けてみれば不動のレギュラーとして出続けた近藤、ヌートバー、吉田の3人全員が最高の結果を残してくれた。特に吉田はベストナインにも選ばれ、史上最多の13打点を叩き出しMVP級の活躍を果たした。国内では何年も続けて安定し過ぎた打率、長打率、出塁率、突出した三振の少なさを記録してきたが、国際大会においても健在であった。そしてその能力が最大限に生きたのも、1、2番コンビとして出続け、大会を通して高い出塁率を誇った近藤とヌートバーの存在があったからこそで、完璧な働きだった。
予選ラウンドができ過ぎていたこともあり当然ながらラスト3試合で打率と出塁率は落ちたが、近藤は相変わらず安定した選球眼で球数稼ぎと出塁を並行させ、ヌートバーに関しても最低限の内野ゴロで打点を上げるなど十分に役割を果たし続けてくれた。守備においても、今大会では痛恨のミスもなく、外野守備で失った点数もなく、逆に補殺と刺殺においても素晴らしい結果だった。これを超える結果を残す外野陣は今後現れない気がする。結果的に、もう一人欲しいと言われていたセンター候補(近本、塩見)や右の中長距離砲も不要であった。鈴木誠也がいた場合、むしろどうなっていたかが想像できないほどの内容であった。

そして言わずもがな、3番に座った大谷の爆発なくして大量得点の継続はできなかった。積極的な走塁も含め、期待を堂々と超える長打率を残し、上位2人と後ろの長距離砲を繋いだ。全く期待を裏切らない完璧な超人ぶりだった。
また、やはり足のスペシャリストが国際大会に必要不可欠だということが準決勝のサヨナラの瞬間に周東をもって証明された。ソフトバンクでも常時スタメンで出続け安定したアベレージや出塁ができるようになると、正真正銘のスピードスターとして君臨できるだろう。

・次大会へ期待(3年後の年齢)
正木(27) ソフトバンク
濵田(26) ヤクルト
万波(26) 日本ハム
山口(26) ロッテ
岡林(25) 中日
若林(25) 西武

見渡してわかったが、長距離砲として左の候補が右より少ない気がする。岡林や若林のような俊足のセンター候補は各球団抱えているが、やはり今回の吉田のようなレベルの左の主砲が何人か欲しい。外野の長距離砲はいくらいても困らないのと、昨今の助っ人外国人が軒並みNPB投手に対応できないのを見ていると、長打を期待されて獲得された各球団の外国人の出場機会を奪って、各球団の外野手は助っ人の居場所をなくすくらい長打を量産してほしい。
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【投手】
ダルビッシュ(36) パドレス
今永(29) DeNA
大谷(28) エンゼルス
松井(27) 楽天
高橋圭(25) ヤクルト
伊藤(25) 日ハム
山崎(24) オリックス
山本(24) オリックス
宇田川(24) オリックス
大勢(23) 巨人
湯浅(23) 阪神
戸郷(22) 巨人
佐々木(21) ロッテ
宮城(21) オリックス
高橋宏(20) 中日

最後を締めた大谷以外も、今回の投手陣の内容は素晴らしかった。ボールが合わない、登板したもののストライクが入らない、というありがちな事故はなかった。強いていうなら松井の調子が良くなかったことくらいだが、1人2人はそうなっても簡単にカバーできるくらいNPBの投手陣は充実している。今大会とくに株を上げたのが、伊藤、戸郷、大勢、そして高橋宏であった。
伊藤大海に関してはすでに新人から2年連続で先発として実績を残していた中、リリーフ適性も申し分なしと国内外に知らしめた。今シーズンは所属する日ハムでも抑え転向説が囁かれていたらなんなりだが、今シーズンとは言わず一シーズンでも守護神に専念するのもキャリア的に悪くないんじゃないかと思う。本人の意思は先発だろうが、このメンタルの強さと完成度から、一度守護神としての彼を見てみたい気持ちにさせられる。
戸郷、高橋に関してはやはりスプリッターとしての能力が高く、世界に向けてかなり印象的な登板となった。戸郷はすでに巨人の先発の柱として実績を残しているのもあり驚きは少なかったが、特に高橋に関しては、早々に山本由伸クラスの怪物級になることを期待してしまうほど、末恐ろしいポテンシャルを秘めているように見える。近い将来トップクラスの先発投手として完成しているはずだ。大勢に関してもまだルーキーイヤーを終えたばかりながらその球威球質共に安心感があり、特にメジャー球に非常にフィットしていることがわかる。今回の経験でメジャーへの憧れをはっきりと口にしたことからも、彼もまたメジャーのスカウトが放っておかないだろう。

それにしても、これだけ若い投手が揃いながらどこか安心して見ていられた。そして明らかに一昔前より、若い時からその才能をいかんなく発揮する投手が増えているのも、時代の流れなんだろう。当たり前のように150キロ後半が出せるのも、理論に基づいた正しい努力ができる環境が今は与えられているからで、時代の進歩をこういったところで感じることができる。今回選ばれた投手以外にも代表クラスの投手は国内だけを見ても多数存在していることから、3年後も非常に楽しみである。

・次大会へ期待(3年後の年齢)
奥川(24) ヤクルト
小園(22) DeNA
西純(24) 阪神
井上(24) 巨人
根尾(25) 中日
玉村(24) 広島
山田(21) 西武
荘司(25) 楽天
土肥(25) ロッテ
山下(23) オリックス
風間(22)ソフトバンク
根本(22) 日本ハム

投手に関しては20中盤にイキのいいのがわんさかいるが、各球団の3年後もまだ25歳以下となる選手から抽出すると、こんなところに期待したい。
特に高校生ドラ1で入団した投手には順調に成長してもらわないと球団も困るであろうため何人かは有名どころをあげたが、とくに投手に関してはドラフト順位関係なく一躍スターの仲間入りを果たす選手が多く見られるため、今回の宇田川枠のような一気に代表レベル、全国区となる投手が現れているよう期待したい。投手なんてナンボいてもいいですからね。


書いていればキリがないが、とにかく次世代の若い選手の飛躍が楽しみだ。気づけば30代に突入してしまった、ありふれた凡人の中堅人間たちにとって、スポーツで社会や個人に活力を与えられるプロ選手はスターそのものである。
野球に限らずスポーツというのは不思議なもので、それが一個人の生活には必要不可欠なものではないはずなのに、こんなにも勇気やエネルギーをもらえる。
誰かに言わせれば、勝手にルールを作って勝手にワーワーしているだけなのかもしれないが、いい大人が心から狂喜乱舞し、涙を流すほどのエンターテイメント性を持ち合わせたモノとして、人間が今日も明日も懸命に生きていくうえで非常に大事な役割を果たしている。

またいつもの日常に戻り、野球は大半の人々の関心から薄れていくであろうが、何者でもない小さな人間として、明日も必死に生きていこうと思わされた。


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