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2 イオンが葬祭業に参入する/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争①

 現代の仏教は、たびたび企業との軋轢をおこしている。企業の利益重視の考え方と、仏教の教義重視の考え方は、基本的に相容れないものである。利益重視と教義重視という対立項を並べてみると、一方的に企業側が悪いように見えるが、そう単純な話でもない。

 ある事件では、仏教側の姿勢が批判され、企業側の姿勢が一般社会の支持を集めるということすらあった。それは平成二十二年に起きた、流通王手のイオンと公益財団法人全日本仏教会(以下、全日仏)が、お布施のあり方をめぐって対立するという事件である。これは現代の葬式仏教を考える上で、特筆すべき事件であるので、詳しく解説したい。

 日本の仏教にはたくさんの宗派があるが、その宗派が合同で設立した、伝統仏教を代表する連合組織が全日仏である。現在、五十九宗派、約七万の寺院(国内約七万五千寺院の内)が属している。仏教界における経団連のような存在である。

 一方、イオンは、ご存じの通り、郊外型の巨大ショッピングモールを中心に展開している、総合流通企業である。

 全日仏が、このイオンと対立するきっかけは、イオンが葬祭業に参入したことだ。

 葬儀社というものは、どうも社会的イメージがあまりよくない。消費者センターなどには、「最初に言われたのに比べ、高い金額を請求された」「事前に見積もりをもらえなかった」「必要も無いようなオプションを説明も無しに、勝手につけられた」等といったクレームが多く寄せられているのも現実である。さらに、必要以上に葬儀社のイメージを悪くするような報道も少なくなく、これがさらに葬儀社のイメージを悪くしている。

 そもそも葬儀の喪主になるということ、つまり葬儀社に仕事を依頼するということは、普通の人は、一生のうち数回しか経験することが無い。そのため、葬儀の進め方や、費用についての知識も、ほとんどの人が持っていない。

 また我々一般の人間にとって、葬儀費用の料金体系はとてもわかりにくい。例えば、棺が十万円と書いてあっても、それが高いのか、安いのかは、我々には判断ができない。また最近でこそ、見積書が当たり前の業界となったが、少し前までは見積書を出してくれる葬儀社も多くはなかった。

 こうした反省から近年、明朗会計を売りに展開する葬儀社が増えている。イオンもこの流れの中、やはり明朗会計を強調して葬儀業界に参入したのである。

 イオンのホームページを見ると、5つの「お客様への誓い」が書かれており、そのひとつに「イオンは、よい商品・サービスをお値打ち価格で提供します」とある。イオンは葬儀部門についても、この「誓い」をもとに、「事前に、明確で追加料金がない安心な『総額見積もり』を提示」をコンセプトにすることとなった。

 つまりイオンは、明朗会計の葬儀というものを柱に、葬儀事業をスタートさせたのである。

 実は、「葬儀事業をスタートさせた」と言っても、正確に言うと、イオンそのものが葬儀施行を行うわけでは無い。全国に提携葬儀社があり、その葬儀社がイオンのパッケージにもとづいて葬儀を施行するという仕組みである。

 この仕組み自体には問題が無いわけではないが、明朗会計というわかりやすい特徴と、イオンという大企業の看板で、おおむね好感をもって消費者に受け入れられた。(続く)


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