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葬式仏教の研究

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葬式仏教という日本の仏教のあり方を通して、日本の仏教の仕組みをあきらかにします。 高邁な教えから見た仏教ではなく、普通の人が仏壇やお墓に手を合わせるという、人の営みとしての仏教… もっと読む
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2020年5月の記事一覧

16 死者とともに暮らしていくということ/葬式仏教の世界観③

16 死者とともに暮らしていくということ/葬式仏教の世界観③

 あの世から故人の霊が戻ってくる、それがお盆である。そして葬式仏教の宗教世界は、霊と私たちの交流、あの世とこの世の交流でなりたっている。

 ここでは霊という言葉を使ったが、霊にあたる事柄には、いくつもの呼び名がある。霊魂、魂、御霊、精霊、死霊、亡霊、幽霊、魂魄が代表的なものであろう。学問的にはそれぞれ微妙に定義が異なるが、ここでは特にそれを区別しない。おおざっぱに言えば、〈亡くなってからも存在す

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15 目連の物語/葬式仏教の世界観②

15 目連の物語/葬式仏教の世界観②

 このお盆であるが、仏教的には、盂蘭盆経というお経がもとになって始められたと考えられている。そこで語られているのは、お釈迦さまの弟子である目連を主人公とした物語である。

 目連は、神通第一と呼ばれていて、弟子の中でも、神通力に優れているお坊さんである。

 ある時、目連は、亡くなった母親のことを思い出し、今どこにいるのか、安らかに過ごせているのかと気になり始めた。そこで得意の神通力で母親がどこに

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14 お盆の原風景/葬式仏教の世界観①

14 お盆の原風景/葬式仏教の世界観①

 葬式仏教には、いわゆる仏教の世界観とは異なる宗教世界がある。

 仏教の教義的な宗教世界は、実に壮大な世界である。お経ごとに様々な物語や世界観が広がり、複雑かつ緻密なことも特徴だ。

 それに対して葬式仏教の宗教世界は、素朴で、感性的な世界である。日本の風土から生まれた宗教世界と言ってもいい。

 この葬式仏教の宗教世界をもっともよく表しているものに、お盆がある。お盆の期間、家庭で行われる営みは

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13 葬式仏教は堕落した仏教なのか?/葬式仏教という宗教④

13 葬式仏教は堕落した仏教なのか?/葬式仏教という宗教④

ひろさちや氏の批判 ここで、このような「なんとなくの仏教徒」に支えられた仏教は本当に仏教と言えるのだろうか、教えをあまり説かず、先祖供養に支えられた葬式仏教はほんとうに仏教と言えるのだろうかという疑問が出てくる。

 前述の通り、「日本の仏教は葬式仏教で、堕落した仏教に過ぎず、本来の仏教ではない」という考え方をする人は少なくない。むしろ、仏教に詳しい人ほど、こうした考え方を持ちやすい。釈迦の仏教、

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12 なんとなくの仏教徒が多い理由/葬式仏教という宗教③

12 なんとなくの仏教徒が多い理由/葬式仏教という宗教③


おおらかな日本人の信仰 日本には、こうした「なんとなくの仏教徒」が多いのであるが、そもそも仏教徒というのは、どのくらいいるのだろうか?

 文化庁の『宗教年鑑』令和元年度版によると、8433万人が仏教系宗教団体の信者ということになっている。日本の人口は、1億2615万人だから、人口の67パーセントが仏教徒だということになる。

 ちなみに神道系宗教団体の信者は、8721万人の信者があり、この二つ

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11 葬式仏教は本来の仏教じゃない?/葬式仏教という宗教②

11 葬式仏教は本来の仏教じゃない?/葬式仏教という宗教②

 言うまでも無いが、仏教は、紀元前五世紀頃にインドで生まれたお釈迦さまが、人生をよりよく生きるための教えを説いたことに始まり、アジア全域に広がっていった世界宗教である。

 ところが現代日本の仏教は、このお釈迦さまが説いた時代の仏教とは、かなり様相が異なっている。その最大の特徴は、人が生きるための活動より、葬儀など人の死に関わる活動に大きな比重があることである。そうした現状を象徴する言葉がある。そ

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