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葬式仏教の研究

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葬式仏教という日本の仏教のあり方を通して、日本の仏教の仕組みをあきらかにします。 高邁な教えから見た仏教ではなく、普通の人が仏壇やお墓に手を合わせるという、人の営みとしての仏教… もっと読む
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2020年4月の記事一覧

10 ある一周忌のエピソード(山田太郎の場合)/葬式仏教という宗教①

10 ある一周忌のエピソード(山田太郎の場合)/葬式仏教という宗教①

 山田太郎は、ごく普通の会社員である。

 一年前、静岡の実家に住んでいた母親が亡くなって葬式を行った。父親は十年前に亡くなっていたので、喪主は太郎だった。

 そして今回、一周忌を行うことになった。やはり施主は太郎である。場所は、お墓のある静岡のお寺、お経はそこの住職さんに読んでもらうことになった。

 その日の朝、新幹線で東京から静岡に向かう。太郎と太郎の妻、大学生の娘の三人である。子どもは他

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9 戒名をめぐる仏教と社会のズレ/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑧

9 戒名をめぐる仏教と社会のズレ/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑧

 実は全日本仏教会では、このイオンとの間に騒動があった約十年前にも、似たような問題が起きている。

 それは平成九年六月二十一日の朝日新聞の朝刊に、浄土宗宗務総長で作家の寺内大吉氏(ペンネーム/本名は成田有恒)と宗教学者の山折哲雄氏の対談が掲載されたことがきっかけだった。

 対談のタイトルは「戒名はいる? いらない?」である。

 対談では、それぞれの立場から、戒名の意義や歴史などについて

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8 僧侶を派遣するというビジネスが生まれた理由/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑦

8 僧侶を派遣するというビジネスが生まれた理由/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑦

 イオンとアマゾンが仏教界と対立した問題で、この両者が異なることがもう一つある。

 イオンの場合は、イオンのお葬式が僧侶を派遣していることは、あまり表に出していなかった(実際は行っている)。ところが、アマゾンの場合は、僧侶を派遣することそのものが商品として提示されたということだ。

 もちろんアマゾンが直接に派遣しているわけではない。前述の通り、株式会社よりそうという会社がその業務を行い、アマゾ

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7 全日仏は何と戦っていたのか?/「イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑥

7 全日仏は何と戦っていたのか?/「イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑥

 お布施をめぐって、イオンとの問題が二十二年に起き、五年後の二十七年、アマゾンとの問題が起きた。同様の問題は、それ以前もその間にもあったのだが、やはりイオン、アマゾンという巨大企業がここに関わることで、仏教界は大きな不安を感じたのは間違いないだろう。

 この二つの問題は、共通する要素が多いものの、中身を見ると、若干の相違点も見えてくる。

 まずイオンで問題になったのは葬儀であるが、アマゾン

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6 アマゾンでお坊さんを呼べる時代/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑤

6 アマゾンでお坊さんを呼べる時代/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争⑤

 仏教界がイオンと対立した五年後、今度は、仏教界とインターネット通販サイトのアマゾン・ジャパンとの間で騒動が起きている。

 平成二十七年十二月八日、アマゾンに、法事(年回法要)を行う僧侶を手配できるという「お坊さん便」というサービスが出品された。最初はアマゾンとお坊さんという組み合わせが新奇なこともあって、ネットニュースで取り上げられ、SNSなどで話題になっていたという程度であった。

 ところ

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5 お布施の目安は存在するのか?/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争④

5 お布施の目安は存在するのか?/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争④

 いったんここで、このイオンと全日仏の対立の論点について整理したい。 お布施というものがよくわからない、お布施をいくら包んでいいのか判らずに不安を感じる、といった意見は、以前からずっと言われてきたことである。

 金額がわからなくて不安ということだけではなく、お布施は高いというイメージもある。ただし、何が高いか安いか、ということは、主観的なところもあるので一概に言えないし、そもそもお寺によって金

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4 お布施の目安を歓迎した消費者/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争③

4 お布施の目安を歓迎した消費者/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争③

 全日仏では理事会などで、このイオンによるお布施の目安のホームページ掲載について「営利企業が、目安と言いながらも、布施の料金体系化をはかっていいのか」といった意見が出ていた。そこでさらに加盟各宗派から意見を集約した上で、ホームページ上からお布施の「目安」の削除を求める意見書をイオンに提出したのである。

 全日本仏教会の戸松義晴事務総長(当時)によると、

「布施をどう考えていいか分からないとい

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3 お布施にも明朗会計を!?/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争②

3 お布施にも明朗会計を!?/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争②

 ところが、葬儀社が葬儀費用をいくら明朗会計にしても、葬儀社にとってはアンタッチャブルとも言える、葬儀社が口を出せない領域がある。それは僧侶に渡すお布施である。

 日本では、ほとんどの人が仏教で葬儀を行う。近年は、直葬といって、宗教者を呼ばない葬儀が増えているといわれているが、それでも宗教者を呼ぶ場合、約九割が僧侶を呼び、仏教で葬儀を行っている。

 僧侶を呼んだ場合、当然、お布施を包まな

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2 イオンが葬祭業に参入する/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争①

2 イオンが葬祭業に参入する/イオンとアマゾンをめぐるお布施論争①

 現代の仏教は、たびたび企業との軋轢をおこしている。企業の利益重視の考え方と、仏教の教義重視の考え方は、基本的に相容れないものである。利益重視と教義重視という対立項を並べてみると、一方的に企業側が悪いように見えるが、そう単純な話でもない。

 ある事件では、仏教側の姿勢が批判され、企業側の姿勢が一般社会の支持を集めるということすらあった。それは平成二十二年に起きた、流通王手のイオンと公益財団法人全

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1 葬式仏教の光と影/葬式仏教の研究

1 葬式仏教の光と影/葬式仏教の研究

仏教は生きるための教え?「葬式仏教」、この言葉を聞いて、皆さんはどういう思いを持つだろうか?

 ほとんどの人は、葬式仏教という言葉によいイメージを持っていない。
「仏教は、本来、すべきことをせずに葬式ばかりやっている」
「仏教は、葬式で金儲けばかりしている」
「葬式仏教は、仏教の堕落した姿だ」
 そんなことを思い浮かべる人がほとんどでは無いだろうか。この「葬式仏教」という言葉が使われる時、必ずそ

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