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【読書感想文】USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか

じはんきです。
夏になったので、学生時代以来ひさびさに読書感想文というものに手を出してみることにしました。

とはいっても半分Twitterで何度か出した持ちネタなので、もしかしたらどっかで見たぞこれ!というのもあるかもです。すみませぬ。

出会ったきっかけ・この本の概要

この本と出会ったのは、スパイダーマンがリニューアルして香取慎吾の声になったあたり、久々にユニバに行った後の、大阪の書店でのこと。「なんか最近のユニバ変わったよね、テレビで偉人みたいに紹介されてる人いるし…あれなんでだろう」とビジネス書コーナーで目に留まったいう、些細なきっかけでした。

この本は題名の通りの「なんでハリドリのバックドロップをやりだしたか」というより…

①当時絶不調に喘いでいた「とされる」ユニバの復活劇の手法とストーリー
②それを支えた確立思考マーケティング
③これからの展望と思い

大まかにこの3つの章に分かれています。"とされる"ってあえて書いたのちゃんと意味あるから覚えておいてね。

私は森岡さんが入る前のユニバも、入った後のユニバも体験したことがあります。が、その頃から「パークの本質」は全く変わっていないように思います。もちろん良い意味で!

心に残っていること

テンプレのようなありきたりなタイトルですが、ちょっと自分の考えを交えつつ。全部で3つありますがどっからでも読めます。

①「こだわり」を正しい方向に向ける大切さ

ピーターパンのショーで使う海賊船に汚しを入れて、より魅力を出そうとしたらクレームが来たという例を元に、「方向性を間違えたこだわりを正し、消費者とのギャップを無くそう」というのがこの話の骨。とは言っても、正直に書きますが「シング・オン・ツアー」なんかを見るとこうしたのはまだ残っていると思っています。

私は、「ユニバの魅力」とは何か?と聞かれた時に必ずこう答えています。


「世界最高のアトラクション陣」。


ユニバはショーも含めてアトラクション、という公式見解めいたものがありますが、この福岡ソフトバンクホークス投手陣のような層の厚さこそ、この場所を支える屋台骨です。モデルはフロリダですが、開園当時からジョーズ、ジュラシック・パーク、BTTF、ユニモンを1パークで揃えた豪勢さは他にないと思っています。

アトラクションのロイヤル・ストレート・フラッシュ。これが日本のユニバの魅力だと私は考えています。

また、ついでによく聞かれる「節操がない」という意見について。これは「コラボでも映画スタジオの催し物として成立できる」というトリックがあると思っていて、これがあるからこそ本書最大のポイント「世界中のエンタメのセレクトショップ」への脱皮が成り立つと考えています。

そしてあまりこの話は知られていませんが、もともとこの本で触れられる「三段ロケット」が始まる前の2010年時点から、USJは世界で第9位、どのユニバーサルスタジオの中でもトップの入場客数を誇っていました。地盤はあったのです。(ただし、これはグレン政権による合理化の立て直しあってのもの。これは本書でもごく序盤に触れられています。)

上のp23。

にもかかわらず何度も緊迫した雰囲気がこの本を包むのは、「このままではダメダメのまま元に戻れなくなる」という森岡さんが感じた強い危機意識がダイレクトに伝わってくるからだと私は考えています。世界最高を揃える。だからこそ、こだわりを細かいところでなく「ギャップ0にして顧客と繋ぐ」に向ける。森岡さんのビジョンが一際きらめく場面です。

②リアプライというマジック

すでにあるアイデアをもらい、応用し、何かに活かす」というリアプライの技術は、この本では主に「スパイダーマン」のアトラクションのリニューアル、そしてアイデアの神様が降り立った「後ろ向きジェットコースター」こと「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド ~バックドロップ~」の章に書かれています。

メリットは3つ。「圧倒的なスピード・高い成功確率・アイデアの引き出しを増やせる」です。そしてこれを「いかに新築のように見せるか」、これが森岡さんが大事にしていることだ、とつけくわえています。

この本の後の時代に、実はかの東京ディズニーリゾートもリアプライを用いたアトラクションを導入しました。

ソアリン:ファンタスティック・フライト」です。

確かにソアリンというアトラクションは、技術的には20年も前のものです。しかしながら、TDSの本来の精神のままの深みのある設定と環境づくり、そしてオリジナルシーン「東京」の存在。この時空を超えた旅は、「日本で暮らす方の大多数が、この技術のアトラクションをほとんど経験していない」という仮説を基に賭けに出て、成功しました。これが「リアプライ」なのです。

③将来言われる批判を予測し「論破」する

この本で森岡さんが予測した批判、今回は主に2つ挙げます。

映画だけのテーマパークでなくなったこと」と「Eパスが有料であること」です。

前者は「映画以外のエンタメブランドの奮闘があってハリポタの導入ができた」、後者は「効率的に、確実に時間を使えるメリットを提供できるシステムであるから」と、2つの「論破」をこの本に書き残しています。

森岡さんの未来を見る力は確かです。現在でもこの2つの批判はよくSNS上でも話題になります。しかしなにより心に残った理由として、ちょっと筋としてあれかもしれませんが「物は言いよう」であるから、ということを私は挙げます。

当時もそうですが、現在のUSJはゲームに例えれば「Eパス購入前提のバランス」になっていると私は感じます。TDRのバーチャルキューシステム、「ファストパス」は確かに余裕はないかもしれませんが、自由に券を取れるため、プランが崩れた時に「より良い体験ができる」ように立て直しやすいです。ユニバのEパスにはこれがなく、さらに売り切れの存在があるため、初見の方が予備知識なしでフルに楽しむには非常に厳しいパークになっていると私は思っています。

しかしながらこれも計算の内、「次はもっと楽しみたい」を呼び起こし、「また来たい」を作り出す。誰かがこの本が出た時の対談でこう言っていましたね、「私たちは手の平で転がされている」と。

さいごに

この本の後、USJはさらに「スーパーマリオ」をテーマにしたエリアを導入し、ロイヤル・ストレート・フラッシュに「混沌帝龍-終焉の使者-」もしくは「無双竜機ボルバルザーク」を加えるというとんでもないラインナップへと変わりつつあります。文字通り「世界最高」を超えて「世界最強」といっても良いレベルだと思っています。ただし、もちろんですが失敗に終わる可能性がないわけではありません

森岡さんは確かに天才ですが、ルスツなんかを見てると、今後主導で関わる西武園ゆうえんちの改革に「大丈夫かこれ…」と思うこともあります。私自身ライオンズびいきなので尚更です。しかしながら、未来を見つつ目の前の宝を探し当てる才覚は間違いなく「本物」であることが、この本を読めばわかってくると思います。

マーケティング要素は「確立思考の戦略論」の方が詳しいですが、「初代お股本」と同じように「森岡さんの頭の中入門編」としても、「USJの再生ドラマ」としても楽しむことができる本になっているので、この記事をきっかけにお読みになる方が増えたら、私は嬉しいです。

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