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公と民のはざまで

宮下 智
非営利特定法人自治経営理事
群馬県庁産業経済部労働政策課課長補佐

 みなさんこんにちは。群馬県庁の宮下と申します。私はいわゆる事務系公務員で、入庁以来2〜3年サイクルで様々な仕事を渡り歩く中、2016年から2年間、商政課商業係長として「まちづくり」の仕事を担当しました。20年以上の県庁生活でたった2年のことでしたが、異動した今もなぜかどっぷりとまちづくりにハマり、日々仲間たちと実践を繰り返しています。今回のコラムでは、なぜ自分がまちづくりを続けているのか、自問自答の意味も込めて綴ってみたいと思います。

1 まちづくりとの出会い
 私がまちづくりの仕事を担当することになったのは5年前。まちづくりといえば、商店街に補助金を出したり、イベントをやるくらいしか思い浮かばなかったのですが、異動直後に部下の片山君(現自治経営会員)から、「リノベーションまちづくり」について教えられます。民間主導で遊休不動産を活用して地域課題を解決し、エリアの価値を上げていくという手法は、財政課時代に自分が感じていた将来的な財政への不安を払拭するとても魅力的でした。
 すぐに片山君と二人三脚でリノベーションまちづくりの普及に取りかかり、清水義次さんをお招きしての「リノベーションまちづくり1DAY PARTY」、青木純さん、前橋出身の宮崎晃吉さんによる「リノベーションまちづくりシンポジウム」、全国のトップランナーの連続講座「ぐんま家守育成塾」など、斬新な企画を次々と実施していきました。この間に県内でも富岡市、館林市、みなかみ町でリノベーションまちづくりがスタートします。
 庁内向けには木下斉さんをお呼びして「稼ぐ公務員が地方を変える」という刺激的なタイトルの講演会も開催し、県庁職員の意識改革も図っていきました。

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 また、全国の先進事例も見ておかなくてはと、北はオガール(岩手県)から西は北九州市まで津々浦々をほぼプライベートで訪問。特に仙台市には何度も足を運び、リノベまちづくりの担当だった洞口さん(現自治経営副理事長)には、本音ベースでたくさんの事を教えてもらいました。「公務員はよっぽどのことをしてもクビにならないから、どんどんチャレンジした方がいい。」という当時の彼の言葉は、その後の自分の行動にも大きな影響を与えています。

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2 天国から地獄
 まちづくりが仕事が順調に進んでいた2年目の夏、一つの大きなチャレンジをします。「民間の遊休不動産だけでなく、公共不動産も活用することが大事だ」ということを学んだ私たちは、普段まったく使われていない県庁前の広々とした芝生広場でナイトマルシェを打ち上げて、これを足がかりに県有不動産のリノベーションを進めようと考えました。管財課、都市計画課、道路管理課など庁内の関係課から有志を募り、まちづくりを通じて繋がった県内各地の民間プレイヤーの協力を得ながら予算ゼロで開催した一夜限りのナイトマルシェには約1000人が集まり、大きなニュースとなりました。

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 その後、県庁幹部に対するプレゼンの機会を得て、「公共不動産を活用した、稼ぐ地域経営」の必要性を訴えましたが、あえなく撃沈。いや、あれは轟沈でした。逆に「芝生を痛め、美的価値を損なう」との理由で、県庁前広場でのイベント自体が禁止されてしまいます。そうなると、それまで応援してくれた上司も手のひらを返したように、、、こうして私のまちづくりの仕事は不完全燃焼のまま、異動により2年で幕を閉じました。

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3 民間プレイヤーとして再起動
 まちづくりの仕事から離れるタイミングの2018年春に私は「都市経営プロフェッショナルスクール」(公民連携を学ぶ社会人向けスクール)の門を叩きます。講師陣もカリキュラムも超厳しいと有名で、多額の費用(当時、半年で50万円くらい)がかかるこのスクールに飛び込むのは相当の覚悟がいりましたが、中途半端なまま「まちづくり」との関わりを終わりにしたくはなかったのです。

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    このスクールは、日々のオンラインでの「学び」とともに、自分の地域での「実践」が求められます。まちづくりが仕事ではなくなった今、何を実践していこうか。そうと思っていた矢先に、かつての県庁前ナイトマルシェに協力してくれた民間の仲間から連絡が入ります。「県庁前のマルシェのような取組をやってほしいと言ってる自治体がいくつかあるんだけど、一緒にやる?」というお誘いでした。
 県庁でガツンと否定されたことを外でやっていいものか?職場にバレたらお叱りを受けるのでは??と一瞬悩みましたが、「公務員はよっぽどのことをしてもクビにならない」というあの言葉を思い出し、腹をくくって片山君ともども民間プレイヤーの立場で「公共空間を活用した地域経済循環の創出」にチャレンジすることとしました。スクールの講師陣からのアドバイスや同期メンバーのブラッシュアップもあり、「base on the green project」と名付けたこのナイトマルシェの取組は広がりを見せ、現在までに県内各地の公共空間で約40回開催されています。(2019年からはスクールの公共空間活用コースの教材にもなっています)

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4 再び公務としてまちづくりに関わる
 2019年に、県庁内にまちづくりに関する部局横断の「官民連携まちづくり推進プロジェクトチーム」が発足します。かつて県庁前のナイトマルシェを一緒に敢行(&轟沈)したメンバーを中心に、同じ過ちを繰り返さぬよう丁寧に庁内調整を図った上で、県庁の正式な組織として認められました。このチームにより、商政課、都市計画課、道路管理課、河川課、交通政策課、観光物産課などまちづくりに関する関係課に横串が刺さり、県庁として同じ方向を向いてまちづくりを進めることができるようになりました。
 チームビルディングの際に気をつけたのは「一本釣り」すること。人選を各所属に任せるのではなく「人ありき」で、志のあるメンバーを集めたチームは機動性も高くスピード感も十分。道路占用許可の基準緩和や歩道空間のオープンテラス化、公共空間活用に関するガイドラインの作成、また自らが地域の民間プレイヤーと手を組んで県道でのマルシェを実践するなど、活発に動いています。私も労働政策課という所属ながらメンバーの一員となったことで、仕事として継続的にまちづくりに深くコミットできる立場になりました。

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5 どんなときも、豊かな暮らしをつくるために
 2020年は新型コロナウイルス感染症の発生により、あらゆる経済活動やまちづくりの活動が大きく影響を受けることとなりました。が、「公共空間の使いこなし」を着実に進めてきた私たちはこれをチャンスと捉え、「NO密」な公共空間をフィールドに次々と手を打ちました。
 まずは緊急事態宣言下の4月末から、コロナ禍に苦しむ飲食事業者に県庁前広場にキッチンカーで出店してもらい、職員で買い支える「県庁前キッチンベース」を開始しました。これは、イベント産業振興課とbase on the green projectとまちづくりチームのコラボ事業で、緊急的な措置として県庁前広場が3年ぶりに「解放」されました。コロナが少し落ち着いた7月からは一般県民も購入できるようになり、今や日常の風景になりつつあります。

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 さらに7月から10月にかけて、県内のイベント再開の機運を高めるために、「県庁前サンセットキッチンベース」というコロナ対策のモデルケースとなるナイトマルシェを5回開催。群馬県のど真ん中で県が率先して実行したインパクトは大きく、その後県内各地の公共空間で次々とイベントが再開されていきました。

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 また民間プレイヤーの立場であるbase on the green projectとしても、7月から9月にかけて伊勢崎駅前広場でナイトマルシェを例年の2倍、12回開催しました。夏祭りや花火大会などあらゆるイベントが中止となり商売の場を失ってしまった飲食事業者の受け皿として、またコロナ禍の中市民が集い交流する貴重な場として、NO密な公共空間のポテンシャルが大いに発揮されました。

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 自分はなぜまちづくりをしているのか。今答えを出すとすれば「豊かな暮らしをつくるため」です。私たちの取組がまちに与えるインパクトはまだまだ小さく発展途上ですが、まちづくりを通じた「多くの人々との出会い」「同じ志を持つ仲間たちとまちに向き合う時間」「出店者さんやお客さんたちの笑顔」など、その一つ一つが自分の日々の暮らしを素晴らしく豊かにしてくれます。そしてぶっちゃけ自分が何より豊かさを感じるのは、子どもたちのはしゃぐ声を聞きながら、冷えたビールを飲める最高な公共空間がたくさんできたことです笑
 リノベーションまちづくりの祖、マスターヨーダこと清水義次さんはとあるレクチャーでこうおっしゃいました。「あの人は公務員なのかな〜、民間人なのかな〜、よくわかんないな〜。こういう人がまちづくりでは重要なんです。」そんな人を目指して、私は「公と民のはざま」でまだまだもがき続けます。もちろん、片手にビールを持ちながら。

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