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地方自治とFM(ファシリティマネジメント) 前編

NPO法人自治経営の理事をしている三宅香織と申します。現在は、倉敷市教育委員会におりまして、給食施設の集約更新などが担当ですが、実はFM(ファシリティマネジメント)に関わる仕事をずっとやってきていて、今回は公共施設マネジメントについて、2回に分けていろいろとお伝えしたいと思います。写真は、アメリカミネアポリスで2007年に起こった橋梁崩落事故です。これをきっかけに、高度成長時代に集中的に整備されたインフラが一斉に老朽化していることが指摘され、日本でもファシリティマネジメントの重要性が語られるようになります。

詳しくは、根本祐二教授のこの本がおススメです。「朽ちるインフラ―忍び寄るもうひとつの危機」
https://www.amazon.co.jp/dp/4532354595/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_T42SFAR739G67ZK28GN7

1 ファシリティマネジメントって何?

FM(ファシリティマネジメント)とは、資産の維持管理や運用を総合的に表す言葉で、保有する資産価値の向上や維持管理にかかる経費の管理をどう効率的に行うのか、ということです。具体的に言えば、オフィス環境の快適性アップのための改修工事、維持管理費の削減のためにどういった電力を使うのか、事務所を買うのか/借りるのか、資産価値の維持のための修繕計画作成など、資産管理全般に関わる業務ということになります。
皆さん個人のファシリティマネジメントというと、個人の資産相続問題であるとか、マンション管理組合の長期修繕計画と修繕積立金などでの関わりをお持ちの方がいると思います。

日本における公共資産におけるファシリティマネジメントの考えが広がった一つのきっかけとしては、2012年の笹子トンネル天井板落下事故があります。当時、国土交通省の事故調査・検討委員会は事故についての最終報告書をまとめていますが、指摘されていたのが「杜撰な点検」でした。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%B9%E5%AD%90%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB%E5%A4%A9%E4%BA%95%E6%9D%BF%E8%90%BD%E4%B8%8B%E4%BA%8B%E6%95%85

あと、当時は、地震による天井崩落も相次いでいました。
・九段会館(築77年 震度5強)の天井崩落で2名死亡
・ミューザ川崎(1997席 築年 震度5弱)天井崩落
・習志野市民会館(築年 震度5強)天井崩落 など

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ここで、公共施設(インフラ&建物)のメンテナンスに注目が集まり、まずは、その現状を把握する必要が出てきたわけです。
①公共施設はどのくらいの量があるのか
②どのように使われているのか
③配置状況
そこで、全国の自治体は、公共施設白書(カルテ)作成、公共施設等総合管理計画の作成へと動いていきました。

2 公共資産の現状(データから)

地方自治体の保有不動産、それも建物を中心にみていきましょう。私が所属する倉敷市を事例にしましょう。データは平成25年なのでちょっと古いですがお許しを。

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施設の種類別でみると、学校・幼稚園、 市営住宅が、全公共施設建物の約 60% を占めています。この割合は、全国ほとんどの自治体がほぼ同じです。国をあげて整備を進めてきた背景が伺えますね。

次のグラフは、何年にどれくらいの施設をつくってきたかというグラフです。

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1970年代に集中していますね。課題は、この1970年代に整備した公共施設が一斉に老朽化してきているということなのです。
さらに、公共施設白書には、財政状況にも触れています。次のグラフは、平成13年からわずか10年間の福祉関連費のグラフです。凄い右肩上がりなんです。

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次のグラフは、自治体全体の財政状況をしめしたものです。義務的経費(人件費・扶助費・公債費)が 半分以上を占めており、その中でも 生活保護費の増加や、少子高齢化社会の進展に伴い、 扶助費が 大きく 増加して います。それに比べて、施設の更新や維持管理に使える予算はなかなか厳しい状況が続いていて、今後の人口減少社会を考えると、これはより一層厳しくなることは間違いないでしょう。

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要は、「これ、やばいんじゃね?!」ということなんです。

もう少し詳しくみたい方は、リンクからPDFでご覧ください。
「倉敷市公共施設白書」本編 
https://www.city.kurashiki.okayama.jp/secure/79290/kurashiki_shisetsuhakusyo_honpen.pdf

あと、当時、中学生にもわかるようにと漫画にして市広報紙に掲載しました。https://www.city.kurashiki.okayama.jp/secure/79290/kouhou_kurashiki_9gatsugou.pdf


3 倉敷市の公共施設マネジメント

というような上記の流れから、「公共施設カルテ」がいる!!という感じで、保有する公共建物のデータベースを作成すべく「公共施設白書施設別編」を作成しました。

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これも、公開されています。「公共施設白書施設別編」
https://www.city.kurashiki.okayama.jp/dd.aspx?menuid=24905

なぜ、これが重要なのか、というのは、公共R不動産のホームページで、不動産活用の視点からの記事でとてもよくわかりやすく説明されていますので、ご覧ください。

「愛」と「そろばん」を両立させた、攻めの公共不動産活用とは?!さくら事務所大西倫加さんインタビュー 2021.09.15
https://www.realpublicestate.jp/post/landbank_interview1/

ということで、公共施設カルテを公開した際に、またまた中学生にもわかる漫画もつくりました。https://www.city.kurashiki.okayama.jp/secure/79290/20150900_kouhoukurashiki.pdfhttps://www.city.kurashiki.okaya

倉敷市の施設カルテは、公表している部分はわかりやすいように主要な部分だけにしているんですが、人件費、長期修繕計画額内訳、修繕履歴などなど多くのデータで構成されています。これが、実は施設マネジメントにおいて戦略的に考えるのにとても重要な役割をもつ、貴重なデータベースになるんですよね。

3 これからの公共資産管理に必要な本当の課題

まずは、企業不動産VS公的不動産から(国土交通省の資料から引用)

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日本の不動産全体の約2,400兆円のうち、国・地方公共団体が所有しているPREは約590兆円(全体の約25%相当)、このうち、地方公共団体が所有するPREは約450兆円となっており、PRE全体の75%以上を占めています。

コロナで外出ができなくて、公共施設のあり方、使い方も再考されるべきですよね。オンラインでミーティングもできるし、国がデジタル庁を創設して、お金のやり取りだけでなく、多くの行政手続きもオンラインに移行していきます。

「公共不動産ってなんのためにあるのか?」「公共不動産って誰のためのものなのか?」

という根っこのところを考える時期にきていると思います。
公共施設を減らすことや集約することは、安心安全で素敵な社会を将来世代に残すための手法の一つに過ぎないのです。そして、それは誰もみたこと、やったことのない自治体経営をやるということなので、いろんなユニークな取り組みを自ら「編み出す」ことが求められます。だから、前例踏襲ではダメなんだと思います。本当の課題は、本気で向き合うことができる、高い公共意識をもった民間事業者や国民・住民と一緒に「編み出す」力をもった人財の育成なんですよね。

そういう思いで、NPO法人自治経営では、今年1月仲間とともに「これからの公共施設経営」というオンライン講座を実施しました。多くの方に参加いただき、毎回質問が止まらず時間オーバーになってしまってましたが、これを機に、公共施設の更新を再検討した方でてきたり、いろんなご相談を受けるようになったりと輪が広がっています。

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こういった取り組みは、行政においては、庁内横断的な対応が必要なので、外からはわからない特有のいろんな壁があるのが事実です。そういった課題を悶々と孤独に抱えて頑張っている自治体職員を応援したい!というのが、NPO法人自治経営の一つの取り組みでもあります。


4 NEWーFMの必要性と次回の予告

私は、2010年(平成22年)頃からFMに関わり始めてるんですが、早10年以上経つんですね(笑) 実は、相当な労力と時間を投入して、カルテを作成&分析し、それを全国の自治体にいるFMの仲間に提供したりと、いろいろと頑張ってきたのですが、「いくら説明を尽くしても、我田引水の縦割り行政や議会でのやりとりの中で、自治体財政が好転するまでの取り組みにならないじゃん!」と思うようになっていました。そして、2015年、「稼ぐ公共施設が本当にできるのか」「都市を一つの会社と見立てて経営できるか」という課題意識をもって、公民連携プロフェッショナルスクール(現在の都市経営プロフェッショナルスクール)に参加したのです。

※今、来期のスクール生を募集中です。ここでの学びはホンモノですから、是非、仲間になりましょう!! 都市経営プロフェッショナルスクール公民連携事業課程
https://www.ppp-ps.net/program/school/course-freemen

現在、私は、NPO法人自治経営のメンバーとして、「ファシリティマネジメントの視点がまさに今の自治体経営に欠かせないんじゃないか!」「未来志向かつ実効性の高いファシリティマネジメントとは何か?」と考えていて、何ができるかを模索しています。
私の公務員人生においては、FMからPPP(privete pablic partnership)へ、そしてまたFMの重要性に気づいた、という感じですが、まさに「NEWーFM」の時代が到来するんだという予感がしています。

「地方自治とFM(ファシリティマネジメント)後編」では、私の現在の取り組みと、「NEW-FM」について書いてみようと思いますので、次回もよろしくお願いします。