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超高速無人製材システムを開発・菊川鉄工所

国産材の大量安定供給体制づくりを目指す林野庁の大型プロジェクト「新生産システム」が2年目に入った。同システムに先立つ「新流通・加工システム」(林野庁補助事業)では、B材(曲がり材)の消費拡大が狙いであった。これが成功した。とくに、合板用の国産材消費が一挙に増加した。そこで「柳の下の泥鰌」というわけではあるまいが、「次は製材(A材直材)」というのが「新生産システム」の狙いだ。その中心は、国際市場で競争可能な製材規模の拡大である。では、製材規模の拡大とは一体何なのか。これがわかったようでわからない。そこで、遠藤日雄・鹿児島大学教授が、(株)菊川鉄工所(三重県伊勢市、菊川厚・代表取締役社長)を訪ねた。同社は、超高速無人製材システムの開発など、木工機械のトップメーカーとして走り続けている。

国産材製材へ積極投資、その背景に「3つの目処」

  菊川鉄工所は、明治30年に本邦製材第1号機を世に出した製材機械メーカーのパイオニアである。11年前、弱冠34歳で6代目社長に就任した菊川厚氏が、同社を率いている。

遠藤教授
  世界同時好況の中、世界の木材産地で製材工場の規模拡大が進んでいる。欧米にはスーパーソーミルが続々誕生している。日本でもここ数年、国産材製材工場の規模拡大が顕著だ。その背景には何があるのか。

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新型機械を説明する菊川社長(左端)

菊川社長
  「3つの目処」という言葉で整理できるのではないか。第1は、中目丸太の活用方法に目処がついたことだ。十数年前を思い出してほしい。当時、中目丸太から何を製材するのか試行錯誤の連続だったが、結局、満足のいく結論は得られなかった。それが、ここ数年、集成材用のラミナという新たな需要が創出されてきた。第2は、人工乾燥(KD)技術、特に、スギ芯持ち柱角のKD化に一定の目処がついたことだ。第3は、そのKD処理に木屑焚きボイラーを使うことによってコスト削減に目処がついたことだ。

遠藤
  なるほど。3つの目処がついたことで、製材に対して積極的に資本投資をしようとする製材メーカーが増えたわけだ。

世界標準は輸出基調、圧倒的生産規模を追求

遠藤
  ところで、日本の製材規模拡大は、世界の製材規模拡大の潮流と同じ流れとみてよいのか。

菊川
  国際商品である木材の有効利活用という点では同じだが、異なる点もある。その第1は、日本の国産材製材が輸出基調ではなく、国内需要、つまり在来軸組構法住宅市場を視野に入れて、しかもプレカットと結びつく形で規模拡大している点だ。世界からみれば、特異な木材市場といえる。先日、フィンランドを視察してきたが、国内需要はわずかであり、対日輸出額10億1000万ユーロ(2006年)のうち木材輸出が実に26%を占めていた。もし、日本向けが不調に陥ったら、欧米諸国や中国など他にも需要国があるという。いずれにしても世界各地への輸出が基調だ。
  第2は、歩留りの考え方が違う。紙パルプ産業と密接な関連をもち、チップも製品として考え、広大な敷地を活用し、圧倒的な生産量を目指すのをかりに欧米方式とするならば、日本はあくまでも建材としての歩留りを追求したうえで、チップは副産物としてとらえる考え方ではないか。

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菊川厚・(株)菊川鉄工所代表取締役社長

遠藤
  では、日本の製材規模拡大とフィンランドのような国の製材規模拡大は、国際競争のどの面で競争関係に入るのか。

菊川
  例えば、国内ですでに多くのシェアをもっているホワイトウッド集成管柱や米マツ・レッドウッド集成平角などに対して、国産材のスギやヒノキを活用したKD材や集成材のコスト・性能・供給体制の競争力強化が要求されると思う。

遠藤
  これまでの国産材はいわばプロダクトアウト式の製材であった。つまり、製材歩留り重視の世界で、挽いた製材品がマーケットで売れるという保証はなかった。市場ニーズと歩留り重視製材が肉離れを起こしていた。

菊川
  そのとおりだ。1990年代前半は、スギ小径木から柱や母屋、桁を製材するという定式化された製材パターンが主流だった。逆にいえば、これしか製材できなかった。だから、市場では、スギグリーン(未乾燥)柱角対米ツガグリーン柱角の価格競争だった。小径木用のノーマンツインバンドソーが世に出たのも90年代前半だった。

遠藤
  これに対して、90年代半ば以降はマーケット競争だ。否応なくマーケットイン方式の製材方式が求められる。しかも中目丸太が増加している。具体的に、どのようなイメージを描けばいいのか。

ネスティング方式の超高速製材で世界を目指す

  そこで菊川社長は、遠藤教授を工場へと案内した。そこでは、第38回名古屋国際木工機械展(10月31日〜11月3日、ポートメッセなごや(名古屋市)で開催)に出展する「超高速無人製材システムModelBT-54E/EA54-4」の試運転が行われていた。「新生産システム」に対応可能だという。公開運転前に、部外者に披露するのは遠藤教授が初めてということだ。

菊川
  弊社のネスティング(nesting)方式の製材機械ならば、マーケットイン時代の製材に対応できる。

遠藤
  ネスティング方式?
  耳馴れない言葉だ。

菊川
  「ある構造(A)の中にある構造(B)を入れ込む」という意味だ。製材の場合、(A)を丸い形状をした丸太に、(B)を製材したい正方形や長方形の形状に当てはめればいい。
  つまり、市場のニーズを優先し、それに対応した優先木取りが可能なシステムのことを、弊社ではネスティングといっている。末口径24㎝で1シフトの場合、1日400㎥の丸太の製材ができる。生産性が従来の2・5〜3倍、歩留りも2〜6%増しになる。

遠藤
  400㎥といえば、1か月23日稼働したとして9200㎥/月だ。年間11万㎥に達する。超高速製材でなければ無理だ。

菊川
  この機械の製材速度は、100m競争の世界記録あたりを目標にしている。

遠藤
  先日の「スーパー陸上2007ヨコハマ」(9月30日開催)で優勝したタイソン・ゲイの記録は10秒23(笑)。そんな世界を目指しているのか。超高速のうえ、ニーズの変化に弾力的に対応できる製材システムとは画期的だ。

菊川
  国際商品である木材を、いかにニーズに合わせ低コストで製材品化できるかが、今後の国産材時代づくりには不可欠の課題だ。製材に新規あるいは追加投資をする際、例えば、米国のように広大な土地に工場やラインを設置するのと違って、日本は利用可能な土地が限られている。省スペース、省人数、高速の製材ラインが求められる。

遠藤
  この「超高速無人製材システムModelBT-54E/EA54-4」がそれに対応しているというわけだ。「木工機械展」が楽しみだ。

「Made in our factory」でモノづくり技術磨く

  工場を案内される遠藤教授は、製材機械とは似ても似つかぬ機械を何度か目にした。聞けば、菊川鉄工所の製材機械製作から派生する高い技術力を利用して、大は飛行機の胴体から小は携帯電話を研磨する機械だという。

菊川
  弊社は「選択と集中」の方針をとらない。「made in our factory」がモットーだ。しかも社員は全員が正社員。地元採用が多く、親子二代で勤務している社員も多い。

遠藤
  日本の得意とするモノづくりの原点をみたような気がする。製材技術はこうした人たちによって支えられている。

菊川
  今後もさらに製材技術に磨きをかけ、国産材振興のお手伝いをしていきたい。

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超高速無人製材システム(菊川鉄工所提供)

『林政ニュース』第327号(2007(平成19)年10月24日発行)より)

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